著者
永田 典子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.25-33, 2011 (Released:2012-03-27)
参考文献数
56

細胞質遺伝の最初の報告は,オシロイバナにおける母性遺伝と,ゼラニウムにおける両性遺伝の同時掲載であった.母性遺伝の成立には,花粉の雄原/精細胞から物理的にオルガネラが排除される「物理的排除」に加えて,オルガネラDNAが選択的に分解される「選択的消化」のシステムが特に重要である.色素体とミトコンドリアが,母性遺伝するか両性/父性遺伝するかの運命の分岐点は花粉第一分裂直後であり,雄原細胞内のオルガネラ内のDNAは分解されるか増幅するかのどちらかに二極化する.本稿では,被子植物にみられる細胞質遺伝の複雑さと多様性を念頭において解説する.
著者
比嘉 由紀子 Arlene Garcia-Bertuso 徳久 晃弘 永田 典子 沢辺 京子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.64, pp.48, 2012

デング熱は20世紀以降,流行が世界中で報告され,2億 5千万人以上が感染リスクを負っており,特に熱帯アジアでの流行が大きく,この地域に限っていえばマラリアを凌ぐ最も深刻な蚊媒介性ウイルス感染症となっている.フィリピンは東南アジアの中でも特にデング熱感染者数,死亡者数が多い国であるが,媒介蚊に関してはマニラを含む首都圏の情報が断片的にあるのみである.そこで,本研究では, 2010年 1月にルソン島において,古タイヤから発生するデング熱媒介蚊調査を行った.侵襲度を調べるとともに,野外にてピレスロイド系殺虫剤感受性簡易試験を行った. その結果,135地点から蚊の幼虫を採集した. 3,093個のタイヤのうち,775個のタイヤをチェックした. 有水,有蚊幼虫タイヤ数はそれぞれ 341(44.0%),127(16.4%)個だった. ネッタイシマカはルソン島に広く生息しており,ヒトスジシマカは北部と南部の一部にみられた.デング熱媒介蚊以外にネッタイイエカも採集された ネッタイシマカのほうがヒトスジシマカよりピレスロイド系殺虫剤に対する感受性が低下していることが示唆された.
著者
豊岡 公徳 佐藤 繭子 朽名 夏麿 永田 典子
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.3-8, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
9
被引用文献数
3 6

近年,蛍光イメージングの発展に伴い,組織・細胞・細胞小器官・分子の動態や局在を容易に推定できるようになった.しかし,各組織・細胞にどのような形態のオルガネラが存在し,どのような状態で分布しているか超微形態レベルでの実体を把握するには,未だに透過電子顕微鏡(TEM)による観察が必須である.我々は,組織や細胞などのTEM像を広域に渡って自動撮影するシステムと,撮影したTEM像をつなぎ合わせ1枚の高解像度TEM写真を取得するプログラムを組み合わせた「広域TEM像自動取得システム」を開発した.本システムを用いて,植物組織や培養細胞などの数万枚のTEM像を自動撮影し,結合させることで,ギガピクセルクラスの写真の取得に成功している.さらに,試料を瞬時に凍結する高圧凍結技法により,広域超薄切片の作製に取り組み,動的なオルガネラの分布を広域に渡り把握することに成功している.本稿では,広域TEM像自動取得システムの原理と,高圧凍結技法で作製した超薄切片から画像取得した結果を中心に紹介する.
著者
永田 典子
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

プラシノステロイド欠損植物は、暗所で発芽・生育させると、もやしにならずに光形態形成をおこなう。一方、サイトカイニンを与えて暗所で生育させた場合も同様の変化がおこることが知られていた。このように、プラシノステロイドとサイトカイニンは、暗所での光形態形成に関して逆の効果を示すようにみえる。しかしこれまで微細構造レベルで両者の作用を比較した例はない。そこで、当該年度の研究では、色素体分化という側面からプラシノステロイド欠損とサイトカイニン過剰の作用を比較することを目的とした。特異的プラシノステロイド生合成阻害剤であるBrzを4μM添加した培地、またはサイトカイニンの一種ベンジルアデニン(BA)を250μM添加した培地で育てたものは、暗所から明所に移した時の緑化がcontrolに比べ早かった。BrzとBA両方を添加した培地で育てたものは、Brz単独、BA単独で育てたものと緑化の早さは同じ程度であった。BA培地にブラシノライド(BL) (1μM)を一緒に添加した場合でも、BA単独の時と緑化の早さは同じ程度であった。Brz処理及びdet2の暗所芽生えの子葉の色素体は、プロラメラボディの結晶構造を含む典型的なエチオプラストであったが、プロラメラボディの占める面積が無処理に比べ大きかった。一方、BA処理の色素体は、プロラメラボディの面積が小さく、むしろチラコイド膜が発達していた。以上のように、暗所での色素体の発達という点において、プラシノステロイド欠損とサイトカイニン過剰は独立の異なる作用を持っていた。さらに、暗所のBrz処理植物を光存在下に移して2時間後に電子顕微鏡観察したところ、渦巻き上に激しく発達したチラコイド膜が観察された。ブラシノステロイド欠損時には、これまでに知られていない、特殊なチラコイド膜発達様式をとる可能性がある。