著者
丹羽 仁史 山中 伸弥 升井 伸治 中尾 和貴
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

これまでに本研究において同定と機能解析を進めてきた遺伝子群について、マウス胎児性ならびに成体性線維芽細胞における多能性誘導能を網羅的に解析した。この結果、Oct3/4,Sox2,Klf4,cMycの4因子の組み合わせにより、これらの線維芽細胞に多能性を誘導することが可能であることを明らかにし、報告した(Takahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 2006)。さらに、これら4因子のうち、マウスES細胞における機能が明らかでなかったSox2とKlf4について、その解析を進めた。まず、Klf4については、これがES細胞に於けるLefty1プロモーターの活性化においてOct3/4およびSox2と協調的に働くことを明らかにした(Nakatake, Y. et al., Mol.Cell.Biol., 2006)。また、Klf4の強制発現が、マウスES細胞のLIF非依存性自己複製を維持しうることも見出している。一方、Sox2については、その機能がマウスES細胞の自己複製に必須であり、Sox2機能喪失は栄養外胚葉への分化を誘導すること、そしてSox2のマウスES細胞における主たる機能はOct3/4の転写活性維持にあることを明らかにした(Masui, S. et al., Nat.Cell.Biol., in revision)。さらに、マイクロアレイ法を用いた解析により、Oct3/4の標的遺伝子候補を網羅的に同定し(Matoba, R et al., PLoS One, 2006)、Klf4ならびにSox2の標的遺伝子についても同様の解析を進めることにより、マウスES細胞に於ける遺伝子発現制御の全体像を明らかにすることを現在試みている。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.研究目的未分化細胞特異的に発現する転写因子Oct-3/4は、我々のES細胞を用いた解析から、ES細胞の未分化状態を維持するためにはその一定量の発現が維持されることが必要であり、発現量の減少は栄養外胚葉への、増加は原始内胚葉への分化を誘導することが明らかになった(Niwa H.et al,Nat.Genet.,in press)。そこで、本研究では、このOct-3/4による遺伝子発現調節機構およびそれによる未分化状態維持/分化運命決定機構の解明を目的とし、次の3点の解析を行った。(1)Oct-3/4による転写活性化機構の解析(2)Oct-3/4の発現量増加による原始内胚葉分化誘導機構の解析(3)Oct-3/4の発現量減少による栄養外胚葉分化誘導機構の解析2.研究成果(1)転写因子Oct-3/4と結合する因子を単離するために、EGFP-Oct-3/4融合蛋白の発現によって未分化状態を維持されたES細胞GOWT1を樹立した。(2)(1)で得られた細胞の可溶化物を坑GFP坑体を用いて免疫沈降し、沈降物をSDS-PAGE法で解析し、未分化状態特異的に共沈してくる3つのバンド(CO1-3)を同定した。(3)(2)で同定されたバンドを単離してN端部分アミノ酸配列解析法および質量分析法で解析したところ、CO-1,3は細胞骨格成分の蛋白で、アーチファクトと考えられたが、CO-2は未知の蛋白と考えられた。(4)染色体外発現ベクターを用いた強制発現と、テトラサイクリンによる発現調節系を用いて、転写因子Cdx-2の発現がES細胞の栄養外胚葉への分化を誘導することを見い出した。(5)ゲノム遺伝子の解析から、Cdx-2の発現がES細胞においてはOct-3/4によって抑制されていること、およびCdx-2が自己のプロモーターを活性化しうることをルシフェラーゼアッセイ法により明らかにした。
著者
丹羽 仁史
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

我々は、マウスES細胞において、インテグリンを介した細胞外マトリクスとの接着と、カドヘリンを介した細胞間の接着が、液性因子と協調して未分化状態維持シグナルを入力しているとの仮定の下に、これらの接着分子の機能解析を試みた。まず、インテグリンの細胞内シグナル伝達経路を遮断する目的で、integrin-linked kinase(ILK)の競合阻害変異体を強制発現させたところ、ES細胞は分化抑制因子LIFの存在下でも分化傾向を示した。一方、ES細胞の凝集塊を浮遊培養すると、その表層は原始内胚葉に分化する。このとき、可溶型E-cadherin細胞外ドメインを添加すると、この分化が阻止されたことから、この凝集塊表層における原始内胚葉分化は、ここに位置した細胞における細胞接着総量の減少が関与していることが示唆された。これらの細胞外シグナルは、最終的には転写因子の発現調節を介して、分化運命の決定を制御する。我々は、マウスES細胞で転写因子Gata6を強制発現させることによって誘導される原始内胚葉細胞が、初期胚から樹立されるXEN細胞と同等の細胞生物学的特性を示すことを証明した。また、転写因子による分化運命決定モデルとして、栄養外胚葉分化に関わる転写因子Cdx2と、多能性維持転写因子Oct3/4の相互抑制機構を明らかにするとともに、もう一つの多能性維持転写因子Sox2の機能を解明することにも成功した。これらの結果は、今後Gata6による原始内胚葉分化誘導調節機構の解析に大きく資するものであると考えている。
著者
丹羽 仁史
出版者
理化学研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

昨年度構築したインスレーター活性を検出するためのレポータープラスミドpTIA(tester of insulator activity)を用いて、マウスゲノム断片からインスレーター活性を含むものを単離することを試みた。しかしながら、ゲノム断片挿入によるスペーサー効果と明瞭に区別しうるインスレーター活性の検出には至っていない。この過程で、他施設からの報告により、インスレーター配列のエンハンサー活性遮断効果は、当該エンハンサーの両側にインスレーターがタンデムリピートとして配置されることにより増強することが明らかになったので、現在これを踏まえたベクターデザインの改良を検討している。一方、昨年度の検討でES細胞においてインスレーター活性が検出できたニワトリβ-globin LCR(locus control region)由来CTCF結合配列を用いたインスレーターカセットに、比較的強力な活性を示すhuman β-actin promoterないしは極めて弱い活性しか示さないhCMV^*-1 promotorの制御下にβ-geo(β-galactosidase+neomycin耐性遺伝子の融合蛋白をコードする)を接続したレポーターカセットを組み込んで、これらをES細胞に導入した。この結果、インスレーターは弱いプロモーターがゲノム上の挿入部位近傍のエンハンサーから受ける活性化は遮断できるが、クロマチン構造に起因すると考えられるプロモーター活性への抑制効果は遮断できないと考えられた。今後、これらの結果をさらに種々の異なる方法で検討するとともに、より有用な外来遺伝子発現のためのカセットの構築を進めていきたい。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
大阪大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
2000

(1)Oct-3/4による未分化状態維持機構を明らかにするために、薬剤投与によりOct-3/4の発現が消失して100%栄養外胚葉に分化するES細胞ZHBTc4を用いて、その未分化状態を維持するために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、機能的DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになった(図参照)。このとき、Oct-3/4のC末転写活性化ドメインとDNA結合ドメインからなる変異型分子で未分化状態を維持されたES細胞では、Oct-3/4の下流遺伝子の一つであるlefty-1の発現が殆ど消失していた。このことは、一部の下流遺伝子の発現には特定の転写活性化ドメインが必要であること、またこれらの遺伝子の発現はES細胞の自己複製には必要がないことを示す。(2)Oct-3/4の発現増加による原始内胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、そのために必要なOct-3/4の機能ドメインの検索を行った。この結果、未分化状態維持と同様に、DNA結合ドメインと一つの機能的転写活性化ドメインの組み合わせで十分であることが明らかになったが、興味深いことにDNA結合能は必要ではなかった。このことは、この分化誘導現象が、これらのドメインが他の蛋白と相互作用することによって引き起こされていることを示唆している。(3)Oct-3/4の発現減少による栄養外胚葉への分化誘導機構を明らかにするために、この現象への関与が考えられる転写因子Cdx-2との相互作用について解析を行った。Cdx-2の発現は未分化ES細胞では全く検出されないが、Oct-3/4の発現が減少すると速やかに検出されるようになる。そこで、この遺伝子の発現制御領域を解析したところ、この遺伝子の発現が、自身の産物で自己活性化されうること、およびこの活性化をOct-3/4が阻害しうることを見いだした。更に、ES細胞におけるCdx-2の強制発現は、部分的にではあるが栄養外胚葉への分化を誘導した。これらのことは、Oct-3/4がCdx-2の発現を抑制することにより、栄養外胚葉への分化を阻止している可能性を示唆している。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

我々は、未分化ES細胞からの栄養外胚葉およびtrophoblaststem (TS)細胞分化における転写因子Cdx-2の機能を解析するために、テトラサイクリンでOct-3/4の発現を制御可能なZHBTc4 ES細胞において、内在性Cdx-2遺伝子を、2回の相同遺伝子組み換えによって破壊した。この結果得られたCdx-2-null ES細胞は、親株のZHBTc4細胞と同様に、テトラサイクリン投与によって栄養外胚葉に分化し、FGF-4存在下にフイーダー細胞上でTS細胞に分化した。しかし、このCdx-2-null TS細胞は安定に自己複製できず、速やかに全て最終分化してしまった。そこで、これがCdx-2の発現に依存した現象であることを確認するために、このCdx-2-null ES細胞に、Tamoxifenで活性を調節できるCdx-2(Cdx-2ER)を導入し、これを安定に発現するES細胞株CNCRを樹立した。CNCR ES細胞は、Tamoxifen非存在下にテトラサイクリンを投与した場合では、TS細胞化したあと自己複製できなかったが、Tamoxifen存在下では、安定に自己複製出来るようになった。さらに、この条件でTamoxifenを除去すると、これらのTS細胞は速やかに分化してしまった。一方、このCNCR ES細胞にテトラサイクリン非存在下にTamoxifenを投与すると栄養外胚葉に分化し、さらにFGF-4/フィーダー細胞が存在するとTS細胞にも分化した。これらの結果は、Cdx-2の機能が、栄養外胚葉やTS細胞への分化に十分ではあるが必要ではないこと、しかし、その機能はTS細胞の自己複製には必須であることを示す。我々はさらに、Cdx-2非存在下にあって栄養外胚葉分化を制御する転写因子の候補としてTbr-2/Eomesodeminを同定し、現在その機能解析を進めている。
著者
丹羽 仁史
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は当初、cDNA発現ライブラリーを染色体外発現ベクターを用いて構築し、この中からES細胞の分化を誘導するクローンを機能的に選択し、その遺伝子を単離・解析することを目標としていた。このために20万個のクローンからなるライブラリーを作製し、そのスクリーニングを行ったが、この過程で極少数の分化細胞からベクターを回収する効率の悪さが問題となった。この点を克服すべく条件検討や方法の改良を試みたが、結局現在に至るまで顕著な改善は得られていない。一方、年々増加する分化関連遺伝子に関する情報の増加に基づき、作製したライブラリーからまず候補遺伝子を含むものを単離し、これらに関して個々に検討を加えた。この結果、転写因子COUP-TFとCdx2が、それらの強制発現により、ES細胞を栄養外胚葉様細胞へと分化させることを見いだした(日本発生生物学会第32回大会にて発表予定)。また、これまで用いてきた染色体外発現ベクターpHPCAGGSに改良を加え、染色体に組み込まれた形でも高発現を示す多目的発現ベクターpPyCAGIZ,pPyCAGIPを開発し、これらを用いてドミナントネガティブ型STAT3の強制発現がES細胞では分化を誘導するがEC細胞ではなんら効果を示さないこと、および、これとは逆にc-junの強制発現はEC細胞においてのみ分化を誘導することを見いだした(Niwa H.,et al,Genes&Dev.1998、および日本癌学会年会にて発表)。今後は以上の成果に基づき、ES細胞の分化機構の解析を更に進めるとともに、ライブラリースクリーニングの効率的実施のための方法の開発を行うべきと考えている。
著者
丹羽 仁史 宮崎 純一 田代 文
出版者
理化学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

我々は、無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成を支持する活性を、ES細胞自身が産生していることを見出し、これをKSRSと名付けて、当初発現ライブラリースクリーニングによるクローニングを試みたが、活性を示すクローンの同定には至らなかった。また、種々の既知サイトカイン・成長因子の効果も検討したが、明確にKSRS様活性を示すものは存在しなかった。しかし、このKSRS活性は血清中にも存在することに着目し、次に血清から無血清無フィーダー状態でのES細胞の未分化コロニー形成支持能を指標に分画を進め、最終的に逆相クロマトグラフィーで単一画分に活性を認めるに至った。現在、スケールアップの上、活性を担う蛋白の同定を進めている。一方で、血清からの分画過程で得られた粗画分を用いて129系統由来EB3 ES細胞を無血清無フィーダー状態で約1週間培養し、その後ブラストシストインジェクションを行った。この結果キメラマウスが得られることは確認され、現在germline transmission能を検討している。また、同様の条件でC57BL6系統由来胚盤胞をフィーダー細胞存在下に無血清状態で培養し、ES細胞の樹立を試みたところ、約20%の胚盤胞からES細胞株を得ることに成功した。現在、これらの細胞の分化能を検討するとともに、培養皿をコートする基質を最適化して無フィーダー化することを試みている。これらの解析と平行してES細胞の増殖を制御するシグナル伝達機構の解析も行った。特に、TGF-βファミリーの因子がES細胞の増殖に及ぼす影響を検討するために、抑制Smad蛋白をコードするSmad6とSmad7を発現ベクターに組み込んで、ES細胞に導入して過剰発現させた。この結果、Smad7の発現はES細胞の増殖を顕著に抑制した。この効果は、細胞のpluripotencyには影響を与えず、またSmad2の共発現によって解除されることから、ES細胞における生理的な役割を反映したものと考えられ、現在さらに詳細な検討を進めている。以上の結果は、今後ヒトES細胞を再生医学に応用する上で、異種動物成分を排除した培養系を確立するための基礎研究として、今後さらに発展が期待できるものと考えている。
著者
丹羽 仁史
出版者
特殊法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

テトラサイクリンで転写因子Oct-3/4の発現を調節することが可能なES細胞ZHBTc4において、テトラサイクリン投与後0,24,48、72、96時間目の細胞からそれぞれRNAを精製し、これを始原生殖細胞由来cDNAマイクロアレイで解析し、全ての結果の収集を完了した(理化学研究所・阿部博士との共同研究)。一方で、これらのサンプルをNIHの洪博士との共同研究により、23K cDNAマイクロアレイを用いても解析を進めている。今後、全てのデータの収集が完了次第、その解析に着手する予定である。テトラサイクリンで転写因子Gata6の発現を調節することが可能なES細胞G6SKOについては、その発現によって誘導される細胞が壁側内胚葉であることを最終的に確認した(Fujikura J et al.,Genes Dev.,2002)ので、現在マイクロアレイ解析用の時系列RNAサンプルを収集している。また、最近ES細胞における遺伝子マーキングによる解析から、従来均一と考えられていたOct-3/4を発現する未分化細胞集団が、さらに遺伝子発現パターンの異なるサブグループに分離可能であることを見出した。現在、これらのサブグループを系統的に純化する方法の開発を進めており、その進捗を見た後に、マイクロアレイを用いた系統的遺伝子発現解析に進む予定である。マイクロアレイ法による遺伝子発現解析の有効性は、洪博士との共同研究によるES細胞とTS(trophoblast stem)細胞の遺伝子発現比較検討により確認することが出来ているので(Tanaka, TT et al., Genome Res.,2002)、今後同様の手法を用いた上記サンプルの解析結果から、細胞分化のメカニズムの一端が明らかにされるであろう。
著者
中内 啓光 丹羽 仁史 横田 崇 須田 年生 岡野 栄之 石川 冬木
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本特定領域研究では1)細胞の初期化の機構の解明、2)幹細胞の未分化性維持機構、3)幹細胞の多様性と可塑性の三つの柱を中心に5年間にわたり研究を進めた。ES細胞、組織幹細胞のそれぞれにおいて研究が大きく進展したが、最近2年間に本特定領域研究の分担研究者である山中伸弥教授らによって遺伝子導入によって体細胞を多能性幹細胞に変換する技術が開発され、再生医療・幹細胞研究に大きな転換を迎える事態となったことは特筆すべきことである。厳しいガイドラインのため本邦においてはヒトES細胞研究が諸外国と比して進展に遅れていたが、倫理的問題を含まないiPS細胞技術の登場により、多能性幹細胞の分野にも今後大きな研究の進展が見込まれる。そこで昨年度は新しく開発されたiPS細胞産生技術を中心に「幹細胞研究を支える新しいテクノロジー」というテーマのもとでシンポジウムを開催した。産業界を含む300名近い研究者が参加し意見を交換することにより、本研究領域における研究で得られた知見を速やかに共有することができた。また、総括班メンバーを中心に今後の幹細胞研究の進め方などについても討議がなされた。
著者
秋谷 直矩 丹羽 仁史 岡田 真依 山崎 敬一 小林 貴訓 久野 義徳 山崎 晶子
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.302-313, 2009-01-15

高齢者介護施設において,高齢者とスムーズにコミュニケーションができるロボットを開発するためには,まず,「いかにしてロボットと高齢者がコミュニケーションチャンネルを確立するのか」ということを考えなければならない.そこで,高齢者介護施設における複数人環境でのケアワーカーと高齢者のコミュニケーションチャンネルの作り方を観察した.分析方法として,社会学の一領域であるエスノメソドロジーを用いた.そこでは,行為を始めることを可能にする「対応可能性」,指向の重なりを示す「受け手性」,そして指向の重なりを参与者相互が理解したことを示す「理解の表示」という一連の手続きの制度的特徴が見られた.この調査結果をリソースとして,ロボット開発を行った.その印象評価実験を行ったところ,開発したロボットがユーザに親近感や安心感を与えることが分かった.この実験の結果は,本稿の取り組みが一定の有効性を持つということと,人びとの日常的実践の場面において社会学の手法を用いて調査し,その結果を開発に生かすということの方法論的意義を示した.
著者
秋谷 直矩 丹羽 仁史 坪田 寿夫 鶴田 幸恵 葛岡 英明 久野 義徳 山崎 敬一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.798-807, 2007-03-01
被引用文献数
7

筆者らはこれまで,依頼行為を理解するロボットを開発してきた.しかし,介護ロボットの実用化を目指すのであれば,どのような依頼行為が実際の介護場面でなされているかを分析する必要がある.そこで,介護ロボット開発のために,実際の介護場面におけるコミュニケーションを高齢者介護施設で観察した.そこでは,単に介護者が高齢者の依頼を受けて行動しているだけではなく,介護者と高齢者が同時に協同して作業している場面が多く見られた.この同時的協同的作業の達成のために,介護者と高齢者双方の予期的な調整行動が大きな役割を果たしていることが分かった.高齢者支援の開発のためには,この予期を支援するシステムの開発が必要である.
著者
秋谷 直矩 丹羽 仁史 久野 義徳 山崎 敬一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. WIT, 福祉情報工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.684, pp.35-40, 2006-03-22
被引用文献数
2

高齢者社会が進む昨今、福祉ロボットの開発は時代のニーズに即したものである。本論文では、被介護者の簡単な依頼を理解するロボットを開発する基礎段階として、実際に人間同士の依頼行為がどのように組織化されているか、ということをエスノメソドロジー的見地により見ていく。この分析に基づき、依頼行為は、依頼行為が行われる以前にコミュニケーション・チャンネルが相互反映的な形で確立されていること、そして実際の依頼行為も依頼発話とジェスチャがお互いを精緻化しながら、相互反映的な形で組織化されているということがわかった。