著者
高橋 秀雄 江藤 盛治 芦沢 玖美 江藤 盛治 高橋 秀雄
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1969年から1984年の間に,10年以上にわたって毎年1回左手および手根部をX線撮影することのできた東京都内の5歳から18歳までの女子65名について,TW2骨成熟と成長を調べた.1.骨成熟(1)イギリス基準との比較:RUS成熟は全般により速く進行し,1年早い15歳で完熟する.Carpal成熟はイギリス基準とかなりよく一致して進行し,13歳で完熟する.(2)日本人標準との比較:RUS成熟は全般により速く進行するが、完熟に達するのは同じ15歳である.Carpal成熟の完熟は1年早く,13歳である.20-Bone成熟は同じ15歳で完熟する.2.思春期成長42名の初経年月日,身長,体重,胸囲が毎年記録されている者の成長と骨成熟のスプライン平滑化速度を解析した.(1)成長速度の解析:平均して,身長増加のピークは11.1歳に出現し,その8か月後に体重と胸囲のピークが現われた.初経年齢は身長ピークの1年4か月後,12.4歳である.初経時は身長150.3cm,体重41.8kg,胸囲73.6cmであった.また最終身長は157.9cmであった.(2)骨成熟速度の解析:Carpal成熟のピークの出現は最も早く,9歳である.RUS成熟のピークは初経年齢に最も近く,11歳10-11か月に出現する.(3)成長と骨成熟の関連:1)平均初経年齢は12歳3,4か月,身長のピークは初経の1年3か月前,RUS成熟のピークは初経の4,5か月前である.2)初経の早い少女では,身長とRUS成熟のピーク年齢が低く,ピークの強さ(量)が大きい.そして初経時の身長とRUSスコアは低い.3)最終身長が高い少女はピーク時の身長と初経時の身長も高い.また最終身長は思春期の身長成長およびTUS成熟とは無相関である.
著者
島田 忠人
出版者
独協医科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

(研究目的)ヒト胃粘膜におけるヘリコバクター・ピロリ(Hp)感染は、慢性胃炎、消化性潰瘍のみならず胃発がんとも関連すると考えられている。本研究ではHp除菌前後の胃粘膜における発がんと関連した諸因子の変化について検討することを目的としており、今年度はその予備的検討を行った。(方法と結果)Hp除菌判定法に関する検討:除菌治療後の判定にHpのureAをターゲットとしたPCR法を併用し、治療1カ月後の時点で通常の方法でHp陰性と判断された症例の中にもPCR法ではHp陽性と判断される症例が少なくないことが明かとなった。これらの症例の少なくとも一部が臨床的にHp感染の再燃を来すものと考えられた。医原性Hp感染に関する検討:内視鏡を介する医原的なHp感染の可能性を検討するため内視鏡検査前にHp陰性であった症例を経過観察し、内視鏡検査後自覚症状的にも、また血清学的にもHp感染が起こっていないことを確認した。Hpサイトトキシン遺伝子の解析:Hpの菌体側の病原因子として重要なサイトトキシン遺伝子vacAの多型性についてPCR-RFLP法で解析し、各臨床分離株の間で著しい多様性があることが明かとなった。胃粘膜におけるケモカイン発現の解析:Hp感染胃粘膜における炎症反応の解析のため、胃粘膜でのケモカインの発現をRT-PCR法などで検討した。IL-8などのCXC型ケモカインだけでなく、MCP-1、RANTESなどのCC型ケモカインも高頻度に発現していることが明かとなった。(考案)本研究によってHp除菌治療評価に関する有用な情報が得られ、また胃内視鏡検査に伴うHp感染の危険性はほとんどないことが確認された。また、Hpの菌体側因子、Hp感染胃粘膜における慢性炎症病態の解析も進んできたので、これらの情報をもとに、実際に慢性胃炎でHp除菌を希望する患者の胃粘膜における諸因子の治療前後における変化についての検討に着手している。
著者
田中 康夫 井上 庸夫 鈴木 雅一
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

誘発耳音響放射(OAE)に関する私共の行なってきた研究(Tamaka et al.,1988他)からこの音響現象が騒音難聴などの内耳障害程度の指標として役立つことや,更にそれがdip型聴力障害の易傷性と関係を有していることが示唆されてきた。本研究では実際の騒音環境にある対象で耳音響放射の測定を行ない,音響易傷性の個体差について検討を行なった。対象としてF中学校女子吹奏楽部員33名およびS自動車部品工場勤続2年従業員16名を選び,聴覚検査とOAEの測定を行なった。騒音測定装置を用いて解析した作業場の騒音レベルは90.0〜97.0 dBLcegであった。1). 中学吹奏楽部員33名64耳のうち,41耳(63.5%)に自記オ-ジオグラム上のdip型聴力損失を認めた。OAEの持続が6ms以上であった。cーOAEは36耳(56.3%)に認められた。cーOAE(+)耳群のうちdip損失のあった耳は80.6%なかった耳は19.4%であった。dip損失のあった群のうちcーOAE(+)耳は70.7%,cーOAE(-)耳は29.3%であった。2). 工場従業員16名32耳のうち,16耳(50.0%)にdip型聴力損失が認められ,20耳(62.5%)にcーOAEが観察された。cーOAE(+)20耳のうち,13耳(65.0%)にdip型損失あるいは高音急墜がみられたが,7耳(35.0%)には障害が認められなかった。cーOAEが(+)であり,かつdip損失を伴っていた耳群のうち8耳は,22ケ月前の調査で,全例がcーOAE(-)であり,そのうち7耳はdip損失も伴っていなかった。今回の中学校における調査結果は以前に行ったH中学校で得られた成績と同様に,OAEの持続する耳と音響易傷性の関係を支持するものであった。工場における調査では,両者の関係を実証する統計的に有意な結果は得られなかった。工場の調査ではcーOAEが素因ではなく結果である可能性が示唆され今後,作業環境,耳栓装用,および検査前休養時間などの条件をさらに厳密に一定化して検討する必要があると考えられた。
著者
田中 康夫 岡田 真由美 井上 庸夫
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

騒音の曝露によって起る聴器障害の程度の個体差は大である。この個体差が何に基因するかは未だ不明である。誘発耳音響放射(OAE)は内耳の微小機械系振動の外耳道への投影と考えられており、騒音難聴の初期像であることの多いdip型聴力損失との関係が示唆されている。本研究ではそのような関係の有無を実際に騒音環境下にある中学校女子吹奏楽部の部員および、板金工場の従業員に対し動特性分析器および現有の聴力検査機器を用いて施行したOAEならびに聴力の測定結果より検討した。1.吹奏楽部員62名118耳の調査結果、1)dip型聴力損失を有する耳は純音オ-ジオグラム上は10.2%に存在し、連続自記オ-ジオグラム上では59.4%に認められた。2)持続が6ms以上であったC-OAEは50耳42.4%に検出できた。3)純音オ-ジオグラム上にdipのある耳は、C-OAE(+)耳で16.0%、C-OAE(-)耳で5.9%であった。連続自記オ-ジオグラム上でdipのある耳はC-OAE(+)耳で82.0%、C-OAE(-)耳で34.8%であった。2.板金工場で騒音下作業7年以上の従事者34名52耳の調査結果、1)連続自記オ-ジオグラム上で高音急墜型の聴力損失は2耳3.8%dip型聴力損失は34耳、65.4%に見られた。2)C-OAEは17耳32.7%に認められた。3)C-OAEのみられる耳において高音急墜型およびdip型聴力損失を示す耳の割合は82.4%、C-OAEのない場合には62.9%であった。C-OAEをもつ耳の頻度は正常聴力群で3.0%、dip型聴力損失群および一側dip型健側群で約90%であることを以前に報告した。今回の実際の騒音環境下での調査においても、主として騒音障害の初期像であるdip型聴力損失の発生頻度はC-OAEをもつ耳で高いことが示された。C-OAEは内耳の微小機械系の可動性に関係があるので、音響受傷性の個体差の一因子と考えられ、易傷性の予知に役立つ指標といえる。