著者
森川 聖子
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

宇宙開発は、その性格から国家の関与が大きい事業分野である。特にその傾向が顕著であるのが宇宙輸送の分野であるが、昨今では財政上の問題から、より効率的な事業運営が各国で求められており、その結果、欧米では商業化への移行がなされてきた。日本においても、変遷を経て、平成15年に民間事業者への移管が行われ、現在では打上げ輸送サービスとして事業が行われている。しかし、民間への移管は行われたものの、いわゆる「民営化」とは異なり、宇宙輸送の分野では官の役割が大きい状況となっている。これは、国の基幹ロケットとしての自律性確保や事業のリスクの高さなど、宇宙特有の側面によるものであるが、その結果、ガバナンスの観点でいくつかの問題が生じている。まず、宇宙輸送事業の民間移管は技術移転契約の形態をとっており、条件面で当事者間の合意が得られなかった場合、企図したロケットの打上げが困難になるという不安定な側面がある。また、民間事業者は会社形態をとっており、株主に対する説明責任の背景から、多くのリスクテイクは出来ない状況である。一方で、リスクの多くを官がカバーすることも、そもそもの民間移管の意義に遡ることとなってしまうという状況にあり、多くのジレンマを抱えている。一方、欧州においては、仏国立宇宙センター(CNES)が中心となって3分の1超の株式を所有し、その他欧州各国の製造メーカー等が株式を所有している。国の機関が筆頭株主であるため、一定範囲内でコントロールを及ぼしつつ、経営の裁量や機動性を確保することが可能となっている。日本においては、宇宙機関(JAXA)が出資可能な制度となっておらず、法改正が必要となる。しかし、国が開発した技術を用いた事業について、官が関与しつつ、民間主体による事業展開を行っていくには、欧州における官による出資の活用も有力な選択肢となりうる。
著者
前田 良知
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

最近の研究から、Low metalicityな環境で生まれたWolf-Rayet星がガンマ線バーストの前駆星の最有力候補として注目されている。ガンマ線バーストは超新星の爆発エネルギーが爆発前に撒き散らされたWoif-Rayet windに追いつくことで外部衝撃波を立て、残光としてX線等が放射されている可能性が考えられる。またそのスペクトルはその周りを囲うWolf-Rayef windによる吸収を受ける。したがって、ガンマ線バーストの前駆星の星風の解明が、ガンマ線バーストの理解を推し進める重要な因子になっている。我々は、はえ座θ型星のWC型の星風のアパンダンスを測定し、C/N(炭素/窒素)比が太陽組成を桁で超えることを見つけた。WC星を親星とするガンマ線バーストが発生した時には、この炭素と酸素の吸収を受けることが予想される。したがって、ガンマ線バーストの吸収構造を調べることで、その前駆星の起源が検証できることを観測的に立証した重要な観測結果であると考えている。また、この連星は周期19日の連星と思われていたが、我々の特性X線を用いたドップラー解析で周期130年以上の3番目の伴星が存在することがわかった。一例であるが、Wolf-Rayet星の連星率が高い可能性を支持する結果であり、我々が推進しているX線の分光観測がWolf-Rayet星の連星率の導出にも有効であることを示唆している。
著者
坂上 博隆
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は感圧センサ(Pressure Sensitive Paint, PSP)を用いた圧力の面分布計測で大きな問題となる、PSPの温度依存性を解消する研究である。PSPは、概して圧力感度と同時に温度依存性を持つ。このため、温度補完が不要なPSPの開発が求められてきた。また、PSPの適用分野においては、非定常計測のための時間応答性が求められる。本研究においては、発光波長帯の異なる二色素を陽極酸化皮膜に吸着させることによる、温度依存性を持たない高速応答PSPの開発を目指した。このPSPは作製時の工程(ディッピング法)における条件(二色素におけるディッピング順序、感圧色素・ディッピング時の溶媒の種類、ディッピング温度・時間・濃度)によって、その性能(発光強度・圧力感度・温度依存性)を制御できるものと考えられる。本研究においては、感圧色素としてfluoresceinとbathophen ruthenium、ディッピング溶媒としてクロロフォルムを用いた。実験の結果、二色素が溶解した溶液を用い、一度でディッピングする方法により、良好な発光スペクトルが得られることがわかった。さらに、ディッピング時間によってfluorescein側の発光ピークを制御できる可能性が示された。また、実験の再現性についても確認することができた。最後に、30分ディッピングしたサンプルについて、圧力・温度依存性、時間応答性を調べた。特に発光波長帯:590nm付近においては、通常の高速応答PSPにくらべ圧力感度が損なわれたものの、温度依存性をほとんど示さないことがわかった。また応答性試験により、二色素による感圧塗料が従来の高速応答PSPと同程度の時間応答性を有することが分かった。
著者
吉光 徹雄
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

大きさ数km以下の太陽系小天体表面での絶対自己位置同定として,小天体近傍に滞在する探査機からの電波を用いる手法の検討をシミュレーションとGPSによる模擬実験により実施した.
著者
山村 一誠
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、有効温度が極めて低く、恒星と惑星の中間状態にある褐色矮星大気の物理的・化学的状態を、赤外線天文衛星「あかり」によって世界で初めて得られた近赤外線分光観測データの解析によって理解しようとする試みである。本研究によって(1) 一酸化炭素、二酸化炭素の量が通常の理論では説明出来ないこと、(2) 褐色矮星の元素組成にばらつきがあるらしいこと、(3) 世界で初めて褐色矮星の半径について議論できたこと、などの成果が得られた。
著者
中川 貴雄 JEONG Woong-Seob
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

現代の天文学における大きな課題の一つは、宇宙における大規模構造の形成の原因を解明することにある。我々はその大きな課題に赤外線天文衛星「あかり」を活用して、その謎の解明に挑んだ。「あかり」打ち上げ前には、数値シミュレーションにより、「あかり」の観測戦略を検討し、打ち上げ後は、そのデータ解析活動において、中心的な役割を果たしてきた。宇宙における大規模構造の形成の原因の情報は、積分された形でCosmic Infrared Backgroundの中に埋もれている。我々は、赤外線天文衛星「あかり」のデータを解析し、「あかり」の優れた空間分解能により、Cosmic Infrared Backgroundのかなりを点源として分離できることを示した(Jeong, et. al.2007)。さらに、「あかり」の多色サーベイを用いることにより、さまざまなタイプの銀河を抽出し、銀河の進化を観測的に追うと同時に、極めて珍しい種族の銀河も抽出できることを、数値シミュレーションにより明らかにした(Pearson & Jeong, et. al.2007)。さらに、「あかり」のデータ解析、観測に関して、多くの共同研究を行った。それには、小マゼラン雲において、初めて中間赤外線で超新星残骸を検出(Koo, et. al.2007)、過去の宇宙における星形成史を「あかり」遠赤外線による観測から解明(Matsuura, et. al.2007)、さらに中間赤外線15μmで検出された天体と光学観測との同定(Matsuhara, et. al.2007)など、多くの研究論文が含まれている。
著者
佐藤 理江
出版者
独立行政法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

GRBは宇宙最初期における大質量星が放つ最期の輝きと考えられている。爆発で放射される相対論ジェットは膨大なエネルギーをもち、高エネルギー宇宙線の加速原としても有力視されている。しかし、どのような星がいかなる機構で相対論ジェットを形成するのかは未だ謎である。本研究ではすざく衛星、Fermi衛星と連携することで、これまで不可能であった広帯域・高感度の観測を実現し、GRB放射機構の解明に迫る。2008年6月にFermi衛星は無事打ち上げられ、これまでに順調に科学データを取得している。Fermi衛星で狙うGRBサイエンス(GeVガンマ線起源の解明など)の成果もあがっており、科学論文も発表されている。この中で私は、Fermi衛星の運用が始まってから。日本チームの一員としてGRB発生の監視当番や、データ解析を行ってきた。昨年9月に発生したGRBにおいては、Swift衛星によるX線、Fermi衛星によるGeV領域のデータを合わせた解析を行っている。X線からGeVガンマ線領域にわたる同時解析は初めての試みである。一方で私は、すざく衛星のデータを用いたブレーザーの解析も進めており、TeVブレーザー「1ES1218+304」や「SwiftJ0746」では、時間発展、多波長スペクトルから磁場の強さなどブレーザー領域における物理量を導いた。さらには、すざく衛星を用いて観測された5つのブレーザー天体と、Fermi衛星による同時期のデータをあわせた解析を行い、その結果を投稿論文としてまとめているところである