著者
澤井 一彰
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 アーカイブズ研究篇 = The Bulletin of The National Institure of Japanese Literature, Archival Studies (ISSN:24363340)
巻号頁・発行日
vol.53, no.18, pp.3-20, 2022-03-18

トルコ共和国は、日本と同様に地震多発国として知られる。その最大の都市であり、オスマン朝期(c.1300-1922年)には都として栄えたイスタンブルもまた、巨大なものだけでも1509年、1648年、1719年、1766年そして1894年と5度にわたって地震が発生し、そのたびに甚大な被害を受けてきた。 かつて、オスマン朝の宮廷が置かれていたイスタンブルのトプカプ宮殿に付属する文書館には、ひとつの史料が伝世している。D.9567の分類番号をもつ同史料は、ある巨大地震の後に、被災した多くの建築物を修復、再建するために行われた調査の記録である。 近年、公刊されたイスタンブルの災害史料集において、このD.9567はスレイマン1世時代(1520-1566年)の文書として紹介された。しかしD.9567には、スレイマン1世期以降に建設された複数の建物の罹災記録が残されており、また先行研究では、1648年の大地震による史料とする主張と、1766年の大地震によるものとする見解とが対立している。 本稿は、D.9567の全文を翻訳して紹介するとともに、それが作成された経緯について、先行研究で示されてきた史料的根拠を再検証する。さらに、別系統の史料も用いながら、D.9567が上記のいずれでもない、1719年の大地震によって作成されたものである可能性がきわめて高い、という新たな仮説を提示するものである。 The Republic of Turkey is known as a country where earthquakes occur frequently like Japan.Istanbul, its largest city and prospered as a capital during the Ottoman period (c.1300-1922), was also hit bymany earthquakes and suffered great damage each time. There were five earthquakes in 1509, 1648, 1719,1766 and 1894, even if counting only the huge ones.One historical document is held in the archive attached to the Topkapi Palace in Istanbul, wherethe Ottoman court was once located. This document, with the classification number D.9567, is a recordof investigations conducted to restore and reconstruct many buildings damaged by a major historicalearthquake.Recently, D.9567 was introduced as a document of the Suleyman the Magnificent era (1520-1566) inthe published archives of historical disasters in Istanbul. However, D.9567 contains a record of the damage tobuildings built after his reign. Also, in previous studies, the claim that D.9567 was a historical source of the1648 earthquake and the view that it was due to the 1766 earthquake are at odds with each other.This paper translates the full text of D.9567 and reexamines the historical grounds shown in previousstudies as to how this document was created. In addition, this paper also presents a new hypothesis thatD.9567 is likely to have been created by the 1719 earthquake, which is neither of the above, using othersources.
著者
亀長 洋子 飯田 巳貴 西村 道也 宮崎 和夫 黒田 祐我 櫻井 康人 堀井 優 佐藤 健太郎 高田 良太 澤井 一彰 齋藤 寛海
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

多文化が交錯する世界である中近世の地中海世界を、東洋史・西洋史の共同研究として再考した。中近世のグローバリゼーションのなかで、アラブ、マグリブ、トルコのイスラーム諸勢力、ビザンツ、西洋カトリック諸勢力、ユダヤ教徒などが地中海世界の各地で政治、経済、宗教、社会の様々な面において対峙する様相を各研究者は個人研究として進め、その成果を海外研究者の協力も得つつ互いに共有した。それにより研究者たちは西洋史・東洋史のいずれにも偏らない視野を育くみ、一国史観を超えた歴史叙述を充実させた。その成果を含んだ研究報告書を作成し多くの研究者に配布し、また共同研究の成果を公開シンポジウムの形で広く人々に公開した。
著者
澤井 一彰
出版者
早稲田大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本科研の研究成果としては、東地中海世界の中心都市であったイスタンブルにおいて16世紀から18世紀にかけて発生した複数の自然災害の実態と、その後の復興の過程を詳細に解明したことが挙げられる。具体的には、1509年のイスタンブル大地震、1563年のイスタンブル大洪水、そして1766年のイスタンブル大地震について、研究報告を合計5回行い、それらを活字にした論文を合計4本執筆した。海外の研究機関に所蔵されている関係史料の調査も積極的に行い、イスタンブルの首相府オスマン文書館、メトロポリタン美術館、パリ国立図書館、ヴェネツィア国立文書館、ライデン大学図書館から多数の史料を収集することができた。
著者
澤井 一彰
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

最終年度である平成23年度は、これまでの研究成果の公表と、今後の新たな研究のための史料調査が活動の中心となった。共著としては、2012年3月に山川出版社から出版予定の『オスマン帝国史の諸相』に、博士論文の一部である「穀物問題に見る16世紀後半のオスマン朝と地中海世界」が採録された。同論文は、16世紀後半の地中海世界における物資流通と国際関係のかかわりを、穀物問題に焦点をしぼることによって解明することを目指したものである。国内における研究発表としては、拡大地中海史研究会において、「16世紀後半の東地中海世界における「穀物争奪戦」-エマール=ブローデル・テーゼの再検討-」と題する報告を行った。博士論文の一部でもある同報告は、モーリス・エマールとフェルナン・ブローデルによって主張されてきたテーゼを再検討したものである。また、羽田正東京大学教授を代表とする基盤研究(S)「ユーラシアの近代と新しい世界史叙述」において、「16世紀後半のオスマン朝における飲酒行為をめぐる諸問題-多元的社会における「価値」を考える-」と「イスタンブルへの穀物供給に見る「伝統」と「近代」」と題した報告を行った。さらに、山川出版社から刊行されている『歴史と地理世界史の研究』には、イスタンブルの歴史を様々な著作を挙げつつ紹介する「イスタンブル歴史案内」が掲載された。今後の研究に向けての史料調査では、2011年8月14日から9月2日までトルコ(イスタンブル)とアイルランド(ダブリン)を、2012年1月15日から2月3日まではトルコ(イスタンブル)とイギリス(ロンドン)をそれぞれ訪れ、現地の文書館や図書館において関連史料の調査収集を行った。以上が、平成23年度の研究実績の概要である.