著者
北嶋 志保
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2015-03-25

患者中心の医療が進められており,患者が治療に主体的に参加し,治療方法を選択することが求められている.しかし,病気や診断方法,治療方法が複雑であるため,突然病気を患った患者がこれらを正しく理解し,判断,決定することは容易ではない.患者の意思決定や治療に対する積極性を促し,QOL(生活の質)や健康状態に良い影響をもたらすためには,医療に関する必要な情報を取得し,理解,活用する力が患者自身に求められている.ところで,情報化社会の進展に伴い,誰でも容易にインターネット上に情報発信が可能となっている.そのため,インターネット上に存在する患者やその家族によって発信された情報が近年注目されている.実体験に基づく医療情報は患者の不安を軽減させたり,励みとなる可能があることに加えて、大規模かつ即時的な情報は,既存の調査を上回る可能性がある.しかし,人手で膨大なデータから,求める情報のみを取捨選択し,収集するには多大な労力が必要である.また,人手による検索では,悪い面ばかり無意識に注目し収集してしまうといった問題点が挙げられる.したがって,本研究は,インターネット上から得られる患者の実体験情報を自動的,網羅的に収集,提示することで,患者の判断材料や励みとなるシステムの構築を目的としている.近年,自然言語処理技術を用い,医療カルテから薬剤名や病状を特定する研究が進められている.著者も医療カルテやブログ記事を対象とし,薬剤名や症状名などの医療用語の位置を機械学習により特定する研究を行ってきたが,「頭痛」のような症状名は抽出できても「頭が痛む」のように対象と評価のセットで記載された症状については抽出の対象としておらず,また非専門的な表現にも対応しきれていないなどの問題点があった.本研究で著者が対象とするブログ記事も専門家ではない患者やその家族によって書かれたものであるため,専門家によって書かれたカルテに出現する用語や言い回しとは異なる表現が使われることが多いことが問題点として考えられる.そのため,本学位論文は闘病ブログに現れる表現の多様性を損なわず,適切に抽出するシステムを構築して行った研究について述べている.医療情報のなかでも,医薬品は治療において必要不可欠なものであるため,医薬品の効果や付随して起こる副作用についての情報を取得することは,患者にとってよりよい治療につながると考えられる.本学位論文では,目指すシステムの第一段階として,患者によって書かれたブログ記事から,薬剤の服用による変化,効果,副作用を,(薬剤,対象,効果)の三つ組で抽出するシステムの構築・提案を行った.実際にブログに出現する薬剤の効果,副作用に関する記述の特徴を調査し,その際用いられる特定の表現を収集し,手がかりとした.その手がかり語と構文情報を考慮したパターンマッチングにより抽出を行う.専門用語や評価表現に着目した抽出を行わないため,話し言葉で書かれたブログの表現の多様性を保持した抽出が可能であり,例えばこれまで抽出が困難であった擬音語や擬態語で書かれた評価表現も収集することができる点に本研究の独創性がある.ブログに出現する薬剤に関する効果,副作用の記述に対し,手がかり語を用いたパターンの有効性を確認するため,ブログの要約文であるスニペットを対象に評価実験を行った.一般的に意見抽出に用いられるパターンマッチング手法の評価結果と比較したところ,適合率において40.7ポイント高い42.1%という優位性のある結果を示し,本手法の有効性を確認することができた.要するに,従来の意見抽出に用いられる「薬剤名→対象」「対象→効果」(矢印は係り受け関係を示す)がブログに出現する薬剤に関する情報には不適切なことが多く,提案した「薬剤名→効果」「対象→効果」のパターンが適していることが明らかとなった.しかし,再現率は6.2%と低い結果となった.その原因として,大きく2つ考えられる.手がかり語が存在しない,助詞の省略といった理由から要素が存在する場所を特定することの誤りによって出力ミスまたは出力が得られないこと,また抽出された要素が,三つ組の要素として不適切であることである.これらの問題を解決するため,二つの改善手法を提案した.第一に,提案したパターンが当てはまらない場合についても抽出を可能にするため,手がかり語が存在する場合,しない場合について複数のパターンを提案し,それらを組み合わせて抽出を行った.その結果,再現率が24.8ポイント向上し31.0%となり,より柔軟な抽出が可能となったことが示された.また,評価表現は擬音語や擬態語など多彩な表現で記述されることが多いため,評価表現辞書に存在する表現では不十分なことが多い.しかし,薬剤の効果,副作用が現れる対象は身体の部位や感情など,ある程度限定されている.そこで第二に,対象要素の適切性を判断することにより,適合率の向上を図った.薬剤添付文書中に存在する対象要素として用いられる可能性のある単語を収集し,辞書の作成を行った.このようにして作成した辞書をフィルタとして用いることで,適合率が15.8ポイント向上し57.9%となり,対象単語に対するフィルタリングの有効性が明らかとなった.さらに,スニペットのみならずブログ全文を対象とし,システムの有効性を確認した.システムの改善に役立てるため,薬剤の効果,副作用が書かれたテキストの特徴を解析し,複数のパターンに分類されることを示した.今後は,意味解析を用いて文の構文パターンを分類し,最適な抽出パターンを判別,適用すること,照応解析により薬剤名が含まれない文からも抽出を行うこと,モダリティを考慮した抽出が必要であると考えられる.
著者
安田 崇裕
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2017

Hokkaido University(北海道大学). 博士(文学)
著者
田村 力
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
1998-03-25

本研究は、北西北太平洋および南極海におけるミンククジラの食性と摂餌量を明らかにするために、採集された胃内容物を解析した。1994年-1996年の夏季、北西北太平洋において採集されたミンククジラ184個体の胃内容物から、カイアシ類1種、オキアミ類4種、頭足類1種および魚類10種の合計16種類が出現した。夏季のミンククジラの主要餌生物は、太平洋側ではオキアミ類、サンマおよびカタクチイワシ、オホーツク海ではツノナシオキアミであった。ミンククジラは索餅海域で資源量の多い生物を利用しており、環境の変化によってその餌生物を柔軟に変化させる広食性を有することが示唆された。摂餌されていたサンマなどの体長組成の経年および地理的な差異は、索餌海域における組成を反映した結果であると考えられた。1989/90年-1995/96年の夏季、南極海IV区において採集されたミンククジラ398個体の胃内容物から、端脚類1種、オキアミ類4種の合計5種類が出現した。夏季のミンククジラの主要餌生物は、プリッツ湾以外の海域ではナンキョクオキアミ、プリッツ湾ではナンキョクオキアミおよびE. crystallorophiasが主要餌生物であり、ミンククジラは索餌海域において資源量の多いオキアミ類を摂餌しているとみなされた。また、摂餌されていたナンキョクオキアミの体長や成熟度組成の経年および地理的な差異は、その海域でのナンキョクオキアミの体長や成熟度を反映した結果であると考えられた。ミンククジラの摂餌活動の日周期性の有無を検討した。北西北太平洋におけるミンククジラの摂餌活動は、主として昼間に表層で行われるが、利用している餌生物の分布状態によって摂餌回数や摂餌量が不規則であることが示唆された。一方、南極海におけるミンククジラの摂餌活動は、主として朝方に多量の餌生物(主としてナンキョクオキアミ)を摂餌するが、要求量が満たされない状況の時はそれ以降に数回の摂餌を行うことが示唆された。胃内容物重量の経時変化から求める直接的方法と、エネルギー要求量から求める間接的方法を用いて、ミンククジラの日間摂餌量を算出した結果、両海域とも体重の4%程度を摂餌していると試算された。最大摂餌量は、北西北太平洋のミンククジラで96.4kg、体重比で2.3%であったのに対し、南極海のミンククジラでは289.0kg、体重比で3.1%を示し、南極海のミンククジラは北西北太平洋のミンククジラに比べて重量で3.0倍、体重比で1.3倍の量を摂餌していた。北西北太平洋およびオホーツク海におけるミンククジラ個体群の年間摂餌量を算出した。北西北太平洋で12.5-19.2万トン(95%信頼区間: 6.1-39.3万トン)、オホーツク海で41.3-59.1万トン(同: 21.5-119.9万トン)と試算され、摂餌量の多さから、ミンククジラが夏季の北西北太平洋およびオホーツク海の生態系において鍵種として機能しているとみなされた。さらに摂餌されていた餌生物はサンマやイワシ類などの有用魚類で、その組成も漁業の対象となっている組成と同じであることから、人間の漁業活動にも影響している可能性が示唆された。南極海におけるミンククジラ個体群の年間摂餌量を算出した。IV区で174-193万トン(同: 105-316万トン)と試算され、IV区周辺のナンキョクオキアミ資源量の15.7-47.4%に相当した。また、南極海全体のミンククジラ個体群の年間摂餌量は1,771-1,965万トン(同: 1,069-3,217万トン)で、南極海に分布する全鳥類のそれに匹敵し、さらに、他のヒゲクジラ類の年間摂餌量の6.8-20.4倍に達すると試算された。この結果は、北西北太平洋やオホーツク海と同様、ミンククジラが夏季の南極海生態系において重要な鍵種として機能しているとみなされた。そのため、ミンククジラと索餌海域や餌生物が重複しているシロナガスクジラ、鰭脚類、海鳥類および魚類などは、餌資源を巡る種間競争において多くの影響を受けていると考えられた。
著者
尾崎 有紀
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2018-03-22

The purpose of this thesis is to reinterpret the philosophicaltheory developed by George Berkeley (1685-1753) as the philosophical theory with a new perspective to grasp a problem of modern physics. As the philosophy of physics, Berkeley’s philosophyis usually viewed as a precursor of Mach’s philosophy. Although it is well known that Mach’s philosophy is attracting attention of modern physicists and that Berkeley is highly evaluated as a precursor of Mach, the research of Berkeley’s philosophy itself is still fruitful. The reasons are as follows. Firstly, Berkeley’s philosophy has some original points that can affect the interpretation of physics. Secondly,the original points can give the reinterpretation of a problem of modern physics. In this thesis, on the basis of a reinterpretation of Berkeley’philosophy, I discuss the above two themes. In general, there are few attempts that connect Berkeley’s philosophy with the problem of modern physics. This thesis deals with the reinterpretation of Berkeley’s philosophy by focusing on the philosophical topic of the construction of the concept of speed. Mach, who is viewed as a successor of Berkeley, asserts that the concept of speed should be defined as the ratio of a spatial distance to another spatial distance. Julian Barbour (1937-) , who attempts the reconstruction of modern physics by utilizing some of Mach’s philosophical points, also argues that the concept of speed shouldn’t contain the concept of time interval. The reason for their claim is that the concept of speed that doesn’t contain the concept of time interval is considered to be a solution for the philosophical problem of the definition of time intervals. This thesis deals with the reinterpretation of Berkeley’s philosophy by focusing on that the concept of speed defined as the ratio of a spatial distance to another spatial distance can be constructed on the basis of Berkeley’s philosophy.
著者
石垣 佳奈子
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2018

北海道大学. 博士(文学)
著者
馬 穎瑞
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2017

Hokkaido University(北海道大学). 博士(文学)
著者
閻 慧
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2017

Hokkaido University(北海道大学). 博士(文学)
著者
園井 ゆり
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2013

Hokkaido University(北海道大学). 博士(文学)
著者
中屋 隆明
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
1997-03-25

ウイルスの感染を受けた細胞は、大別して3つの運命をたどる。一つは、ウイルスの増殖に伴い、細胞が破壊される溶解感染(lytic infection)である。第2の感染様式は、ウイルスの感染によって、細胞が、がん化(transformation)する場合である。そして第3番目は、細胞とウイルスが共存する感染様式であり、持続感染(persistent infection)ないしは潜伏感染(latent infection)と呼ばれる。特に、溶解感染を起こし、死滅するか、あるいは持続感染を起こし、ウイルスとの共存下で生き続けるかは、ウイルスの細胞傷害性と深く関わる。また、潜伏感染からの活性化は宿主側の免疫応答能と深く関わる。本研究では、ヒトに持続、潜伏感染し、免疫疾患を引き起こすヒト免疫不全ウイルス、および精神神経疾患との関連が示唆されているボルナ病ウイルスについて、その感染機序を解明することを目的とした。ヒト免疫不全ウイルス1型(Human immunodeficiency virus type 1: HIV-1)は、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであり、感染機序の解明は、治療法を確立する上で極めて重要である。本研究では、HIV-1の感染様式をin vitroの実験系において解析し、HIV-1の細胞傷害性および持続感染機序に関与する遺伝子の同定を試みた。また、HIV-1の調節タンパク質の一つであるRevの働きを阻害するデコイオリゴヌクレオチドを用いて、抗ウイルス剤としての可能性を検討した。一方、ボルナ病ウイルス(Borna disease virus: BDV)は、元来ウマに脳炎を起こすボルナ病の原因ウイルスとして分離されたものであるが、最近の研究により、ヒト、特に精神疾患患者との関連が指摘されている。一方、慢性疲労症候群は、その病因にウイルス感染症が疑われており、うつ症状などの精神症状も見られることから、本研究では、BDVと慢性疲労症候群との関連性を検討すると共に、免疫抑制状態にあるHIV-1感染者および悪性脳腫瘍患者に対するBDVの疫学調査を行い、ヒトにおけるBDVの感染様式について検討した。従って、本論文は「第1章: ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の細胞傷害性の低下に関わるアクセサリー遺伝子の変異」、「第2章: RREデコイオリゴヌクレオチドによるHIV-1増殖抑制効果」および「第3章: ヒトにおけるボルナ病ウイルスの感染に関する研究」から構成される。第1章は以下の内容に要約される。1. HIV-1のin vitroにおける継代感染により、低細胞傷害性のウイルスが現れ、継代4代以降は持続感染する細胞が出現した。継代と共にvpr遺伝子内のナンセンス変異の割合が増加し、20代以降の持続感染細胞では、ほぼ全てのプロウイルスが変異型であった。これらのことから、vpr遺伝子の変異が細胞傷害性の低下をもたらす一因であることが示唆された。2. 継代50代において、vifからvprにかけてミスアライメント欠失と考えられる変異を伴うウイルスが検出された。この欠失ウイルスは、複製、増殖が可能であり、さらに細胞傷害性をほぼ消失していることが、組み換えウイルスを用いた感染実験により明らかとなった。3. vpr遺伝子内のナンセンス変異は生体内のプロウイルスにも高率に認められ、in vivoにおける存在様式の一つであることが示唆された。第2章は以下の内容に要約される。1.Rev response element(RRE)内のRevタンパク質結合部位(bubble構造)を含むオリゴヌクレオチド(RREオリゴヌクレオチド)を合成した。これらのオリゴヌクレオチドはRevと結合することが明らかとなった。2. RREオリゴヌクレオチド(ARO-2)は、1から10μMの濃度において、ヒトT細胞由来株であるMOLT#8およびM10細胞に持続的に感染したHIV-1(実験室株)のウイルス産生を抑制した。また、HIV-1が潜伏感染したヒトT細胞由来株(CEM)であるACH-2細胞において、TNF-α刺激によるウイルスタンパク質の合成(ウイルスの活性化)を抑制した。一方・添加濃度10μMにおいて、RREオリゴヌクレオチドの細胞に対する傷害性は認められなかった。3. RREオリゴヌクレオチド(ARO-2)は、ヒト末梢血単核球細胞に感染したHIV-1(臨床株)のウイルス産生を抑制した。第3章は以下の内容に要約される。1. HIV-1感染者(タイ国)は非感染者に比べ、BDV抗体陽性率が有意に高く、特にHIV-1陽性の性病(STD)患者ではその傾向は顕著であった。また、一般に免疫抑制状態であることが報告されている悪性脳腫瘍患者(グリオブラストーマ)の脳腫瘍組織からもBDV RNAが高率に検出された。2. 日本国内の慢性疲労症候群(CFS)患者では、健常者と比較し、抗BDV抗体およびBDV遺伝子の陽性率が有意に高かった。3. CFSの家族内集団発症例において、CFSと診断された患者(両親、次男および長女の4名)は全てBDVとの関連が示された。一方、CFSのいずれの基準にも該当しない長男はPBMC中のBDVp24遺伝子および抗BDV抗体は陰性であった。以上のことから、HIV-1はアクセサリー遺伝子の変異により、宿主細胞と共存している可能性が示唆されること、また変異が起きにくい領域(RRE)のアナログであるRREデコイオリゴヌクレオチドの抗ウイルス剤としての有用性を明らかにすることができた。さらに、BDV感染とCFS患者の発病あるいは症状との関連性を指摘すると共に、ヒトにおけるBDVの存在様式は、宿主生体の免疫応答により抑制された状態にあると考えられる知見を得ることができた。
著者
趙 恵真
出版者
Hokkaido University(北海道大学)
巻号頁・発行日
2018

Hokkaido University(北海道大学). 博士(文学)