著者
山崎 秀夫
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.63, no.6, pp.299-316, 2014
被引用文献数
1 2

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故(以下,原発事故と略記する)では,大量の放射性核種が環境に放出された。環境射能汚染からの低線量被ばくによる生体影響に関しては様々な議論が繰り返されており,その実態については明瞭に解明されていない。今回の事故では,東日本一帯の環境が広範囲に放射能汚染され,事故による直接的な影響を受けなかった地域にも,物流などによって放射性物質が拡散している。原発事故による環境放射能汚染の特徴は,①大規模な海洋汚染が,事故後3年以上経過した現在も継続している。②首都圏を含む人口稠密な都市が,高度な放射能汚染にさらされた。③大量の放射性核種が,今でも森林生態系に沈着している。このような複雑な環境放射能汚染は,過去に世界各地で起きた大規模原子力事故では経験していない。原発事故で環境科学的に問題になる主要な核種は,<sup>131</sup>I,<sup>134</sup>Cs,<sup>137</sup>Csである。また,原子炉冷却水は,炉内のデブリにも接触しているので,<sup>90</sup>Srの他に核燃料のウランやプルトニウム同位体,核分裂生成核種,中性子捕獲生成核種などが含まれる可能性が高く,汚染冷却水の環境への漏えいは,深刻な放射能汚染を引き起こす可能性がある。福島第一原発による環境放射能汚染の概要がようやく明らかになり始めた。環境放射能汚染の状況を明らかにし,汚染に対処するためには,放射性核種の環境中での移行,蓄積,拡散を正しく評価しなければならない。本稿では,現在までにわかっている,原発事故による環境放射能汚染の動態を,環境中の放射性核種の移行と蓄積の観点から概説する。
著者
塩沢 昌 田野井 慶太朗 根本 圭介 吉田 修一郎 西田 和弘 橋本 健 桜井 健太 中西 友子 二瓶 直登 小野 勇治
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
Radioisotopes (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.323-328, 2011-08-15
被引用文献数
10 31

福島第一原子力発電所事故で放射性物質が多量に降下してから約2か月後に,耕起されていない水田の深さ15cmまでの表土を厚さ1~5cmの6層に分割してサンプリングし,放射性セシウム(<SUP>134</SUP>Csと<SUP>137</SUP>Cs)の鉛直濃度分布を求めた結果,放射性Csの88%が0~3cmに,96%が0~5cmに止まっていた。しかし,量的に大半は表面付近に存在するものの,15~20cmの層まで新たに降下した放射性Csの影響が及んでいた。濃度分布から求めた放射性Csの平均移動距離は約1.7cmで,70日間の雨量(148mm)から蒸発散量を引いて体積含水率で割った水分子の平均移動距離は約20cmと推定され,土壌への収着により,Csの移流速度は水の移流速度に比べて1/10であった。しかし,文献にみられる実験室で測定した収着平衡時の土壌固相と土壌水との間の分配係数から計算される移流速度よりは2~3桁大きく,現場の移動現象が収着平衡からほど遠いことを示している。一方,耕起された水田では,表層の高濃度の放射性セシウムが0~15cmの作土層内に混合されて平均値(約4000Bq/kg)となっていた。
著者
柏森 伸子 村上 直行 小西 徹也
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.278-281, 1987
被引用文献数
2 1

<I>The fallout caused by the accident of Chernobyl' nuclear reactor has been monitored in Niigata City (April 30-June 3, 1986) . Twelve nuclides</I> (<SUP>131</SUP>I, <SUP>132</SUP>I, <SUP>129</SUP>Te, <SUP>129m</SUP>Te, <SUP>132</SUP>Te, <SUP>134</SUP>Cs, <SUP>136</SUP>Cs, <SUP>137</SUP>Cs, <SUP>103</SUP>Ru, <SUP>99m</SUP>Tc, <SUP>140</SUP>La, <SUP>140</SUP>Ba) <I>were identified in aerosol samples. The same nuclides plus</I> <SUP>7</SUP>Be <I>were identified in rain-water. Gaseous and particle-bound</I> <SUP>131</SUP>I <I>were separately trapped on a glass filter and a charcoal filter, respectively. Results indicate 50-60% of atmospheric</I> <SUP>131</SUP>I <I>is gaseous and the rest is particlebound. Chloroform extraction of rain-water revealed that 40-60% of</I> <SUP>131</SUP>I <I>in the rain-water sample exists in the form of</I> IO<SUB>3</SUB><SUP>-</SUP> <I>and</I> <SUP>131</SUP>IO<SUB>3</SUB><SUP>-</SUP> (<SUP>131</SUP>IO<SUB>4</SUB><SUP>-</SUP>) /<SUP>131</SUP>I<SUP>-</SUP> <I>seemed to increase with the lapse of time after the accident.</I>
著者
末広 牧子 飯尾 正宏 森川 惇二
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.285-289, 1982

<SUP>13</SUP>C呼気検査法の感度と精度について検討した。<SUP>13</SUP>CO<SUB>2</SUB>分析用として質量分析法を用いた場合, <SUP>13</SUP>CO<SUB>2</SUB>存在比の変化の検出限界は, 0.085‰であったのに対し, 内因性の呼気中<SUP>13</SUP>CO<SUB>2</SUB>存在比の時間変動, すなわち, ベースラインのフラッキは0.202‰, さらに, 試料保存用の真空試料管中の残存CO<SUB>2</SUB>による影響は0.136‰であり, これらの値から, 総括的な<SUP>13</SUP>C呼気検査法の感度は0.52‰と決定された。これは, <SUP>14</SUP>C法の約1/1000の感度である。また, <SUP>13</SUP>C呼気検査法の精度は, <SUP>13</SUP>C濃縮化合物投与によるベースからの<SUP>13</SUP>CO<SUB>2</SUB>上昇, △<SUP>13</SUP>Cに比例して高くなり, 1.94×△<SUP>13</SUP>Cで表現されることが分かった。これらの感度, 精度に基づき, さらに, <SUP>13</SUP>C濃縮化合物の必要最小投与量についても考察した。
著者
鳥塚 莞爾 伊藤 健吾
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
Radioisotopes (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.33-43, 2008-01-15
被引用文献数
4 3

全国PET施設のアンケート調査の回答結果から保険適用外の18種類の腫瘍における[<SUP>18</SUP>F]FDG-PET(FDG-PET)の有用性を検討した。すなわち神経内分泌腫瘍(神経芽細胞腫,褐色細胞腫,カルチノイド),悪性中皮腫(悪性胸膜中皮腫,悪性腹膜中皮腫),泌尿器領域癌(腎細胞癌,尿管癌,膀胱癌,Wilms腫瘍),男性性器癌(前立腺癌,精巣癌),縦隔腫瘍,副腎腺腫,皮膚癌(悪性黒色腫を除く),乳房外Paget病,多発性骨髄腫,心臓内腫瘍(左心房悪性線維性組織球腫),脾臓腫瘍(脾臓血管腫)の18疾患,133例(男性98例,女性35例)における成績を検討した。「極めて有用」は神経芽細胞腫,悪性腹膜中皮腫,腎細胞癌,尿管癌,膀胱癌,Wilms腫瘍,副腎腺腫,乳房外Paget病,左心房悪性線維性組織球腫,脾臓血管腫の10疾患であり,「有用性が高い」はカルチノイド,悪性胸膜中皮腫,前立腺癌,皮膚癌,多発性骨髄腫の5疾患であり,「有用」は褐色細胞腫,精巣癌,縦隔腫瘍の3疾患であった。なお,報告された泌尿器科領域癌及び皮膚癌は全例,術後の症例で,再発・転移巣の有無の検索のためにFDG-PETが実施された症例であって,術後の経過観察にFDG-PET検査は極めて有用と考えられた。