著者
小丸 奏 森部 絢嗣 伊藤 健吾 乃田 啓吾
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.91, no.2, pp.I_129-I_135, 2023 (Released:2023-09-05)
参考文献数
17

ケリは水田地帯で営巣し,農業と密接な関わりを持つ野鳥であるが,耕起などの営農活動が繁殖失敗の主な原因と報告されている.用排水路などの整備が進み,早生化が進む現在,ケリと農業の共生を図るためには,農事暦の違いが繁殖に与える影響を解明することが重要である.本研究では岐阜県で栽培される晩生品種ハツシモに注目し,岐阜県内の農事暦の違う調査地間でケリの繁殖状況を調査し,農事暦の違いがケリの繁殖に与える影響を調査した.結果,晩生品種の栽培地域では,他地域と比較し,ケリの繁殖に好適な環境が約1か月長く続き,営農活動などの人為攪乱の影響が小さいことが明らかになった.また,農事暦とそこで繁殖する生物の関係を明らかにすることで,水田生物の生活史を考慮した地域別農事暦を提案し,水田生物と農業の共生を図ることができると考えられる.
著者
窪田 和雄 松沢 大樹 藤原 竹彦 伊藤 健吾 渡辺 弘美 小野 修一 伊藤 正敏 山浦 玄嗣 滝田 公雄 佐々木 雄一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.503-509, 1985-11-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
21

脳は老化に伴ない, 神経細胞を減じ, 体積が減少し, 脳室, 脳溝が拡大してゆく. 我々はこの過程をCTスキャンで定量的に解析し, 脳は加齢に伴ない著明に萎縮するだけでなく, 個人差が非常に大きくなることを明らかにしてきた. 今回脳萎縮の個人差を生ずる要因を明らかにするために, 喫煙が脳萎縮に及ぼす慢性効果について調べた.神経学的に, またCTスキャン上異常のない40歳から69歳までの喫煙者159人, 非喫煙者194人について, 脳萎縮を測定した. コンピューターを使用し, CT像を構成している画素を数え, 頭蓄内の脳実質の割合を求め, 更に若い健常者の脳に比べて何%萎縮したかを示す脳体積指数 (Brain Volume Index) を求めた. BVIは加齢に伴ない低下するだけでなく, 喫煙者において, 50歳~54歳, 55歳~59歳では危険率0.1%以下で, 65歳~69歳では危険率5%で非喫煙者よりも有意に低く, これらの年代では喫煙者の脳萎縮が非喫煙者よりも進んでいることを示した. また非喫煙者では男女差は見られなかった. 喫煙量に対する依存関係を50歳代男性で調べたところ, 喫煙者各群は非喫煙者よりも有意にBVIは低下し, 喫煙指数が多くなるにつれBVIは低下する傾向があったが, 喫煙者各群に有意差はなかった. また喫煙者では血清トリグリセライド (p<0.002) 及び収縮期血圧 (p<0.05) が非喫煙者よりも有意に高かった.脳血流が喫煙者では減少しているという我々の先の報告と合わせ, 喫煙は慢性的に動脈硬化を促進し, 動脈硬化や血圧の上昇その他の要因とともに脳血流を低下させ, 加齢に伴なう神経細胞の喪失を助長し, 脳萎縮を促進させると考えた.
著者
吉田 大輔 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 伊藤 健吾 加藤 隆司 下方 浩史 鷲見 幸彦 遠藤 英俊 鈴木 隆雄
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI1414-EbPI1414, 2011

【目的】物忘れなどの記憶障害は、アルツハイマー病(Alzheimer's disease: AD)の特徴的な前駆症状である。海馬や嗅内野皮質を含んだ内側側頭葉はこの記憶の中枢であり、記憶障害と内側側頭葉の脳萎縮とは密接な関係があると考えられている。一方、日常的に知的な活動や身体活動、あるいは社会活動(社会とのつながり)を保持することは、高齢期における認知症(特にAD)の発症遅延や認知機能の維持にとって有効である可能性が示唆されている。これらのことから、活動性の高い日常生活を送ることは、内側側頭葉の脳萎縮を抑制できると推察されるが、高齢期における内側側頭葉の脳容量と日常生活活動との関係については、これまでほとんど報告されていない。そこで本研究では、どのような日常生活活動が内側側頭葉の脳萎縮と関連があるのか明らかにすることを目的とした。<BR><BR>【方法】主観的な記憶低下の訴えがある、もしくはClinical Dementia Ratingが0.5に該当した65歳以上の地域在住高齢者125名(76.1±7.3歳)を対象とした。すべての対象者は、基本情報に加え一般的な認知機能検査、頭部のmagnetic resonance imaging (MRI)検査を受けた。内側側頭葉における脳萎縮の程度は、MRI検査で得られた画像を基にvoxel-based specific regional analysis system for Alzheimer's disease(VSRAD)を用いて定量的に評価した。日常の生活活動状況は、質問紙を用いて過去1ヶ月における各活動の実施状況(二択式;している/していない)を聴取した。各々の活動項目はセルフケアや手段的日常生活動作、社会活動などの25項目から構成されており、高齢者の生活活動全般を幅広く捉えられる項目内容とした。そして、活動項目ごとに「している」と回答した者(活動群)と「していない」と回答した者(不活動群)の2群間で内側側頭葉の脳萎縮度に差がないか、共分散分析を用いて検討した。なお分析の前段階として、2群いずれかのサンプルサイズが20に満たなかった活動項目は、あらかじめ分析項目から外した。また、年齢と脳萎縮との関係をpearsonの相関係数で確認した。<BR><BR>【説明と同意】すべての対象者に対しては、事前に研究内容を説明し、書面による同意を得た。また、本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得て行った。<BR><BR>【結果】内側側頭葉の脳萎縮と年齢との間には、有意な正の相関関係が認められた(r = 0.457, p < 0.01)。そこで、年齢を共変量とした共分散分析を行い、内側側頭葉の脳萎縮と日常生活活動との関係を検討した結果、「頭を使う活動(将棋や学習)」において、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 6.43, p = 0.01)。同様に、「習い事」においても、活動群(n = 70)の脳萎縮度が不活動群(n = 55)のそれより有意に小さかった(F = 4.40, p = 0.04)。<BR><BR>【考察】記憶とその関連領域である内側側頭葉の脳容量とは、密接な関係があると考えられている。今回、同領域の脳萎縮と知的活動(「頭を使う活動」)の実施状況との間に関連性が認められたことは、先行研究の結果と矛盾しない。地域高齢者にとって、日常的に知的な活動を取り入れることは、認知機能の低下だけでなく内側側頭葉の脳萎縮も抑制できる可能性が示唆された。ただし、それ以外の活動(主に身体活動)の実施状況と内側側頭葉の脳萎縮については、有意な関連性が認められていない。今後は内側側頭葉以外の領域、あるいは活動の実施頻度を考慮したより詳細な検討が必要と考える。また、日常的な知的活動が内側側頭葉の脳萎縮を抑制できるとの仮説を立証するためには、縦断的な研究や介入研究が必要であり、今後も追跡調査を継続する予定である。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法の現場において、認知機能障害を有する高齢者を対象とするケースは少なくない。本研究は、このような高齢者に対し運動療法だけでなく日常の生活活動状況にも配慮した理学療法戦略が重要であることを示した、意義ある研究であると考えられる。また、今回の研究結果をさらに発展させることで、脳萎縮や認知機能の低下を予防するような方策が将来明らかになると期待している。
著者
伊藤 健吾 秋山 吉寛 近藤 高貴 岸 大弼
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

希少種カワシンジュガイの保全のため,宿主魚を多く養殖している養魚場の活用を試みた。その結果,養魚場のような高密度で宿主魚が生息している環境であれば,ごく少数の母貝から吐出されるグロキディウム幼生であっても十分な個体群を維持できることが明らかになった。また,幼生の寄生による宿主魚への影響を調べたところ,本調査地におけるカワシンジュガイの個体群維持に必要なレベルの寄生数(宿主魚一尾当たり数百)では成長率及び生残率には影響がないことが示された。以上の結果,イシガイ目二枚貝の保全には,水産業のような宿主魚を高密度で養殖している場所を積極的に活用することが非常に効果的であることが明らかになった。
著者
ロザキ ズフッド コマリア スマニ シ・デウィ ウィデイヤットミ 吉山 浩平 伊藤 健吾 千家 正照
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.59-66, 2017
被引用文献数
1

人間生活に与える気候変動の影響は避けがたく,とくに農業への影響は顕著である。ほとんどの国民が農業に従事しているインドネシアでは,多くの農家が気候変動の影響を感じ始めている。そこで,現在と過去における害虫による被害,水の充足,収穫被害の頻度に関する認識について,農家にインタビュー調査を実施し,集計したデータを統計分析した。その結果,雨季の初めの降雨がしばしば不安定であるため,農家は第1作目の作付け時期を遅らせており,そのため,第2作目の途中から乾季となり収穫が不安定になっていることが示された。本研究はこうした結果を踏まえて,農家が水不足の懸念なく雨季の初めから第一作目を開始できるよう圃場内に小規模貯水池を建造することを提案し,このような小規模貯水池は,収穫不良の原因となる雑草や害虫が発生しないよう水田内を湛水状態に維持するための用水を供給することもできる点を指摘した。
著者
久田 重太 千家 正照 伊藤 健吾 丸山 利輔
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.1-7, 2011-02-25 (Released:2012-02-25)
参考文献数
10

ヒノキを中心とした常緑針葉樹林流域とミズナラなどの落葉広葉樹林流域において水文観測を行い,林相の違いが水収支特性に及ぼす影響を検討した.短期水収支法を1時間単位の流量データに適用した結果,広葉樹林流域に比べて針葉樹林流域の蒸発散量が大きいことが明らかになった.また,蒸散量をPriestley-Taylor式により推定することで, 蒸発散量から遮断蒸発量を分離したところ,落葉広葉樹流域に比べて針葉樹流域の遮断蒸発量が大きいことが示唆される結果となった.さらに,総流出量を直接流出量および基底流出量に分離することで,両流域の流出特性を検討したところ,2流域間に直接流出率に差がみられず,総流出量の差を生じさせているのは基底流出量の違いであった.これら水収支の各成分の検討から,林相の違いが遮断蒸発量と基底流出量に大きく影響していることを明らかにした.
著者
前田 規秀 伊藤 健吾 田所 匡典 加藤 隆司 渡辺 一功 根来 民子 麻生 幸三郎 羽賀 淑子 鬼頭 正夫 Shylaja Nuguri 大木 隆史 佐久間 貞行
出版者
一般社団法人 日本てんかん学会
雑誌
てんかん研究 (ISSN:09120890)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.224-232, 1992

小児期発症の局在関連性難治てんかん患者24例 (側頭葉てんかん12例, 後頭葉てんかん6例, 前頭葉てんかん6例) にMRI, SPECT, PETを施行し, その病態について検討した。全体では, MRIでは14例, SPECTでは15例, PETでは20例で大脳皮質に局在する異常を認めた。側頭葉てんかん12例では, MRIで10例に側頭葉に異常を認め, 5例は側頭葉内側硬化が, 他の5例では側頭葉内側硬化以外の病変が疑われた。SPECTでは9例で, PETでは11例で側頭葉に異常を認めた。後頭葉てんかん6例では, MRIでは4例で, SPECTでは5例で後頭葉に異常を認めた。PETでは6例全例で後頭葉に異常を認め, 視覚発作を伴う4例で1次視覚中枢の異常を認めた。前頭葉てんかん6例では, MRI, SPECTでは全例異常を認めなかったが, PETでは3例で局在する異常を認め発作焦点と考えられた。PETは焦点部位の検出に極めて有用であった。
著者
近藤 美麻 伊藤 健吾 千家 正照
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.395-402, 2013-10-25 (Released:2014-10-25)
参考文献数
27

新規に造成されたビオトープ池への魚類の移動に伴うイシガイの定着と再生産に着目し,それに寄与した宿主魚種を検討した.イシガイの宿主として適性をもつ魚種を明らかにするために行なった寄生実験では,対象とした12魚種のうち6魚種から稚貝が得られた.そのうち寄生幼生の稚貝への変態率はオイカワおよびヨシノボリ類で高く,それぞれ95.3%と88.1%であり,他の魚種では5%に満たなかった.また,過去に行なわれたビオトープ池におけるイシガイ幼生の寄生状況およびイシガイと魚類の生息状況の調査結果より,オイカワは現地における幼生の平均寄生数と寄生率も高く,生息数も多い魚種であったことから,ビオトープ池においてはオイカワが主な宿主としてイシガイの定着と再生産に寄与したと考えた.
著者
近藤 美麻 伊藤 健吾 千家 正照
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.117-123, 2011-04-25 (Released:2012-04-25)
参考文献数
9

2008年5月から10月にかけて岐阜県に位置するビオトープ池と隣接排水路,その間に設置された魚道において魚類を採捕し,イシガイ類幼生の寄生状況を調査した.その結果,イシガイ類幼生の主な寄生主は,イシガイおよびトンガリササノハガイではオイカワ,ドブガイおよびマツカサガイではヌマムツであった.また,魚道において採捕した魚類のうち,ビオトープ池から排水路への降下魚と排水路からビオトープ池への遡上魚におけるイシガイ類幼生の寄生状況を比較した結果,遡上魚よりも降下魚において平均寄生数が大きく,かつ,寄生幼生の総数も多い結果となり,ビオトープ池がイシガイ類の繁殖場所としての機能を持ち,周辺水域への分布域の拡大や個体数維持に貢献していることが示唆された.
著者
北口 暢哉 川口 和紀 中井 滋 伊藤 信二 加藤 政雄 酒井 一由 伊藤 健吾
出版者
藤田保健衛生大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

血中Aβ除去で脳内Aβを減少させるアルツハイマー病治療機器を創製するために、血中Aβがよく除去される血液透析で以下の検討を行った。1) 血液透析患者の死後脳では、非透析者に比して脳内Aβの蓄積(老人斑数)が有意に少なかった。2)横断的研究:非透析者では腎機能が低下するにつれて血中Aβは増加し認知機能は低下したが、血液透析患者では透析歴が長くなっても血中Aβは増加せず、認知機能はほぼ維持された。3) 前向研究:非透析腎不全患者5例 (平均64.0歳)は透析導入とともに、血中Aβ濃度は低下し、認知機能は改善傾向を示した。以上から、血中Aβ除去器がアルツハイマー病治療につながる可能性が示唆された。
著者
鳥塚 莞爾 伊藤 健吾
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
Radioisotopes (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.33-43, 2008-01-15
被引用文献数
4 3

全国PET施設のアンケート調査の回答結果から保険適用外の18種類の腫瘍における[<SUP>18</SUP>F]FDG-PET(FDG-PET)の有用性を検討した。すなわち神経内分泌腫瘍(神経芽細胞腫,褐色細胞腫,カルチノイド),悪性中皮腫(悪性胸膜中皮腫,悪性腹膜中皮腫),泌尿器領域癌(腎細胞癌,尿管癌,膀胱癌,Wilms腫瘍),男性性器癌(前立腺癌,精巣癌),縦隔腫瘍,副腎腺腫,皮膚癌(悪性黒色腫を除く),乳房外Paget病,多発性骨髄腫,心臓内腫瘍(左心房悪性線維性組織球腫),脾臓腫瘍(脾臓血管腫)の18疾患,133例(男性98例,女性35例)における成績を検討した。「極めて有用」は神経芽細胞腫,悪性腹膜中皮腫,腎細胞癌,尿管癌,膀胱癌,Wilms腫瘍,副腎腺腫,乳房外Paget病,左心房悪性線維性組織球腫,脾臓血管腫の10疾患であり,「有用性が高い」はカルチノイド,悪性胸膜中皮腫,前立腺癌,皮膚癌,多発性骨髄腫の5疾患であり,「有用」は褐色細胞腫,精巣癌,縦隔腫瘍の3疾患であった。なお,報告された泌尿器科領域癌及び皮膚癌は全例,術後の症例で,再発・転移巣の有無の検索のためにFDG-PETが実施された症例であって,術後の経過観察にFDG-PET検査は極めて有用と考えられた。