著者
高田 大輔 安永 円理子 田野井 慶太朗 小林 奈通子 中西 友子 佐々木 治人 大下 誠一
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.601-606, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
5
被引用文献数
4 7

福島県内の果樹園における,ブドウ,モモ及びそれぞれが栽培されている土壌の,134Csと137Cs濃度を測定した。ビニールハウス栽培されているブドウ園では土壌と植物体中の放射性Cs濃度は極めて低かった。モモ園の樹体部位別の放射性Csを測定したところ,新梢,葉,果実,根といった部位では低かった。一方で,3年生枝では放射性Cs濃度が高く,特に樹皮で高かった。樹皮の最外層である表皮での放射性核種の存在はイメージングプレートを用いても確認可能であった。
著者
中西 友子
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.217-222, 2017-04-05 (Released:2017-05-13)
参考文献数
8
被引用文献数
1

2011年の福島原発事故直後から,東京大学大学院農学生命科学研究科では40~50人ほどの教員が,原発事故により飛散した放射性核種の現場における動態についての調査研究を開始した.汚染地域の8割が森林を含む農業関連地であり,その活動は現在でも継続して行われている.東京大学大学院農学生命科学研究科は,演習林,圃ほ場,牧場を始めとする多くの附属施設を保有していることから,これらの施設における研究ならびに,福島県農業総合センターや市町村,地域NPOなどとの共同研究も行ってきた.これらの調査研究を通して最も重要な知見の一つは,フォールアウトは,事故当時空気中にさらされていたものの表面に強く吸着されたことである.そして,現在測定される主な核種は134Csと137Csであるものの,フォールアウトは最初に吸着した場所からほとんど動いていない.このようなフリーのセシウムの化学的挙動は通常理解されているセシウムの化学的挙動とは異なる.研究開始から5年以上が経過したが,本論文ではこの間,私共が行ってきた研究の中から,現場における放射性セシウムの動きに関する成果をまとめて紹介する.
著者
大下 誠一 川越 義則 安永 円理子 高田 大輔 中西 友子 田野井 慶太朗 牧野 義雄 佐々木 治人
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.329-333, 2011 (Released:2011-08-29)
参考文献数
11
被引用文献数
9 6

福島原子力発電所から約230km離れた,東京都西東京市における研究圃場において原発事故後に栽培された野菜及び土壌の,134Csと137Csの放射能を測定した。試料は植え付け47日後のジャガイモの葉,並びに,苗の定植40日後のキャベツの外葉を用いた。両者共,134Csと137Csの総量は9Bq/kg以下となり,摂取制限に関する指標値500Bq/kgより低い値であった。土壌は約130Bq/kgであり,天然の40Kの約290Bq/kgと比較しても低い値であった。キャベツの外葉を水で洗浄する前後の放射能像をイメージングプレートにより得たが変化は見られなかった。
著者
中西 友子
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

土壌の砂漠化は世界的規模で進行しており、大きな環境問題となってきている。土壌を回復させ緑化を行うための一つの手段として、土壌へ水分保持剤としての吸水性ポリマーを添加することが着目されているが、化学合成されたポリマーは土壌中に蓄積され新たなる環境問題へと発展する恐れがある。本研究では、吸水性ポリマーを植物を素材として作製することを試み、その評価を中性子ラジオグラフィで行った。材料として混合針葉樹材パルプを用い、カルボキシメチル(CM)化することにより得られたポリマーを使用した。ポリマーは、パルプ材の微細繊維を除去し、イロプロパノール中に懸濁した後、モノクロル酢酸を添加しCM化することにより得た。ダイズを用いたポット試験では、土壌中に0.3%このポリマーを添加して植物体の生育状況を検討した。植物体の乾燥重量は、コントロールと同等であり、ポリマーは植物育成に影響を与えないことが確認された。次に、アルミニウム薄箱中でダイズを育成させ、中性子ラジオグラフィにより土壌中の根の生育状況を非破壊状態で調べた。照射は日本原子力研究所原子炉JRR3を用いた。根の片側にポリマーを添加した場合には、側根はポリマーが添加されていない側のみ生育した。また根の真下にポリマーを添加した場合には主根の生育深度がポリマーの上部で止まり、側根が上部で発達した。しかし、根および植物体の乾燥重量はコントロールと同等であり、地上部の生育状況も良かった。これらの実験を通して、本ポリマーは土壌中の水分保持機能のみならず、植物の生育に影響を与えずに植物を浅い土壌で生育させることが可能であることが判った。植物由来の吸水性ポリマーは、根の生育をデザイン出来るばかりでなく、土壌中で分解した後も環境に影響を与えないと予想されることから、砂漠の緑化剤として将来期待されると思われる。
著者
二瓶 直登 杉山 暁史 伊藤 嘉昭 陰地 威史 喜多 幸司 広瀬 農 田野井 慶太朗 中西 友子
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.66, no.7, pp.235-242, 2017-07-15 (Released:2017-07-15)
参考文献数
22
被引用文献数
4

他の作物よりもダイズ子実中の放射性Cs濃度は高いがその理由は明らかにされていない。本論文では子実内のCs分布に着目し,133Csを用いたX線蛍光顕微鏡と,137Csを用いたオートラジオグラフィで観察するとともに,成熟期のダイズ体内のCs分布も検討した。CsはKと同様に均一に分布し,吸収したCsの約4割が子実に蓄積した。ダイズ子実は他の作物よりCsを蓄積する割合が大きく,吸収したCsを子実に多く蓄えることが,放射性Cs濃度が高くなる要因の一つと考えられた。
著者
三浦 覚 青山 道夫 伊藤 江利子 志知 幸治 高田 大輔 益守 眞也 関谷 信人 小林 奈通子 高野 直人 金子 真司 田野井 慶太朗 中西 友子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

To predict the movement of radioactive contamination caused by Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant (FDNPP) accident is a strong concern, especially for the forest and forestry sector. To learn from the precedent, we investigated soil samples collected systematically from 316 forest sites in Japan just before the accident, which retain the global fallout 137Cs (137Cs-GFO) from the nuclear test bomb during the 1950s and 60s. We measured the radioactivity of 137Cs-GFO in three layers of soil samples (0-5, 5-15 and 15-30 cm in depth) at each site. We divided 316 sampling sites into 10 groups separated by one longitudinal line and four transversal lines on the islands of Japan, then analyzed rainfall and geomorphological effects on 137Cs-GFO inventories. In addition to the analysis of 137Cs-GFO above, we examined the behavior of 137Cs discharged from FDNPP (137Cs-Fk) within the whole trees to study a possibility of biological effect on 137Cs transport to soils from trees. We measured the radioactivity of 137Cs-Fk of above- and belowground tree parts of three 26 year-old Quercus serrata and associated soils at a contaminated area in Fukushima in April, 2014. We estimated an average of 137Cs-GFO inventories of forest soils in Japan to be 1.7 ± 1.4 kBq/m2 as of 2008. 137Cs-GFO inventories varied largely from 0-7.9 kBq/m2 around the country. We found high accumulation of 137Cs-GFO in the north-western part facing to the Sea of Japan. We detected significant rainfall effects on the high accumulation due to winter rainfall. The vertical distribution of 137Cs-GFO showed that 44% of 137Cs-GFO remained within the 5 cm of soil from the surface whereas the rest of 56% was found in the layer of 5-30 cm in depth, indicating that considerable downward migration of 137Cs-GFO occurred during these fifty years in forest soils in Japan. However, multiple linear regression analysis by geomorphological factors related to soil erosion, such as inclination angle or catchment area calculated from Digital Elevation Model, showed almost no significant effects on the distribution of 137Cs-GFO. The radioactivity of 137Cs-Fk concentrations of fine roots collected from the 0-10 cm layer were 1600-2400 Bq/kg, which were comparable to those of one-year old branches (1400-2200 Bq/kg). The radioactivity of the fine roots was 7 times higher than that found in the soil of 50-100 cm layer (220-350 Bq/kg). This difference the radioactivity of the fine roots among the soil layers was remarkably small when compared with the 1000 times or more difference of radioactivity of soils in the same layers (one outlier sample in the 40-60 cm layer was excluded). The findings indicated that 137Cs-Fk circulated through the whole tree within three years after the accident. Considering root litter fall inside the soils we estimated that contaminated 137Cs on trees at the above ground part could be transported to soils through roots. We clarified that 137Cs-GFO has been held at deposited site and migrated downward gradually in soil. There are two possible major driving forces to be considered to explain the downward migration of 137Cs-GFO. One is the migration of 137Cs associated with vertical water movement and the other one is the transport of 137Cs by root litter fall or root exudate. Further research is needed to analyze these processes to obtain reliable prediction of future distribution of 137Cs-Fk.
著者
塩沢 昌 田野井 慶太朗 根本 圭介 吉田 修一郎 西田 和弘 橋本 健 桜井 健太 中西 友子 二瓶 直登 小野 勇治
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.323-328, 2011 (Released:2011-08-29)
参考文献数
4
被引用文献数
28 31

福島第一原子力発電所事故で放射性物質が多量に降下してから約2か月後に,耕起されていない水田の深さ15cmまでの表土を厚さ1~5cmの6層に分割してサンプリングし,放射性セシウム(134Csと137Cs)の鉛直濃度分布を求めた結果,放射性Csの88%が0~3cmに,96%が0~5cmに止まっていた。しかし,量的に大半は表面付近に存在するものの,15~20cmの層まで新たに降下した放射性Csの影響が及んでいた。濃度分布から求めた放射性Csの平均移動距離は約1.7cmで,70日間の雨量(148mm)から蒸発散量を引いて体積含水率で割った水分子の平均移動距離は約20cmと推定され,土壌への収着により,Csの移流速度は水の移流速度に比べて1/10であった。しかし,文献にみられる実験室で測定した収着平衡時の土壌固相と土壌水との間の分配係数から計算される移流速度よりは2~3桁大きく,現場の移動現象が収着平衡からほど遠いことを示している。一方,耕起された水田では,表層の高濃度の放射性セシウムが0~15cmの作土層内に混合されて平均値(約4000Bq/kg)となっていた。
著者
田野井 慶太朗 李 俊佑 中西 友子 西村 拓 二瓶 直登 山岸 順子 小林 奈通子 廣瀬 農
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-07-10

福島第一原発事故以降、放射性セシウムで汚染された堆肥の使用を差し控える傾向にある。汚染堆肥から作物への移行に関して不明であった。そこで、どの程度の汚染堆肥だとどういった量の放射性セシウムが作物に移行するのか調べた。高濃度に汚染した堆肥はソバへの移行も確認されたが、低い汚染レベルの堆肥の場合、連用してもソバへの移行は少なかった。堆肥から供給されるカリウムによる移行係数の低減効果が考えられた。
著者
高田 大輔 安永 円理子 田野井 慶太朗 中西 友子 佐々木 治人 大下 誠一
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.517-521, 2012 (Released:2012-10-26)
参考文献数
6
被引用文献数
9 9

放射性核種の降下時に土壌表面を被覆していた鉢植え樹体と非被覆の鉢植え樹体を比較することにより,土壌由来の放射性Csのモモ樹体中への移行を検討した。土壌中の放射性Csは被覆処理により6分の1に低下した。被覆の有無にかかわらず,根の放射性Csは検出限界値以下であった。地上部の放射性Cs含量は地下部に比べて多いが,被覆の有無による差は見られなかった。以上のことから,事故当年において地上部の放射性Cs濃度に対する土壌中の放射性Csの寄与は極めて少ないことが示唆された。
著者
岡部 勝 伊川 正人 山田 秀一 中西 友子 馬場 忠
出版者
THE SOCIETY FOR REPRODUCTION AND DEVELOPMENT
雑誌
Journal of Reproduction and Development (ISSN:09168818)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.j19-j25, 1997 (Released:2010-10-20)
被引用文献数
1 2

オワンクラゲ類のもつ蛍光蛋白質は総称してGreen Fluorescent Proteinと呼ばれている.Aequorea victorea(和名:発光オワンクラゲ)のGFPは分子量27 Kdaの蛋白質で,アミノ酸残基65番目のserinと67番目のglycinのペプチド結合部位が脱水縮合を起こした後に酸化されて発色団を形成し蛍光蛋白質となる.この構造変化は酸素以外に特別な因子を必要とせず,蛍光は細胞を観察するだけでよい.外来遺伝子としてGFP遺伝子を導入すると,蛍光をもつ培養細胞,植物,線虫,ハエ,魚,マウスなどが得られる.現在では人工的に作製された,緑,青,黄色など種々の波長の蛍光を出す多くの変異体があり,今後,実験動物の分野で新しいマーカーとして使用される例が増えるものと予想される.本稿では我々の作製したトランジェニックマウスを中心にGFPの応用例を述べる.
著者
大下 誠一 川越 義則 安永 円理子 高田 大輔 中西 友子 田野井 慶太朗 牧野 義雄 佐々木 治人
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
Radioisotopes (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.329-333, 2011-08-15
参考文献数
11
被引用文献数
4 6

福島原子力発電所から約230km離れた,東京都西東京市における研究圃場において原発事故後に栽培された野菜及び土壌の,<SUP>134</SUP>Csと<SUP>137</SUP>Csの放射能を測定した。試料は植え付け47日後のジャガイモの葉,並びに,苗の定植40日後のキャベツの外葉を用いた。両者共,<SUP>134</SUP>Csと<SUP>137</SUP>Csの総量は9Bq/kg以下となり,摂取制限に関する指標値500Bq/kgより低い値であった。土壌は約130Bq/kgであり,天然の<SUP>40</SUP>Kの約290Bq/kgと比較しても低い値であった。キャベツの外葉を水で洗浄する前後の放射能像をイメージングプレートにより得たが変化は見られなかった。
著者
二瓶 直登 増田 さやか 田野井 慶太朗 頼 泰樹 中西 友子
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.194-200, 2012
被引用文献数
4 1

有機態窒素の作物生育に与える影響を解明するために,単一窒素源としてタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を用いて5種類の作物を無菌栽培し,各アミノ酸に対する作物毎の生育への影響を検討した.作物別の比較をすると,イネ,チンゲンサイでは,アミノ酸間の生育差が大きく,コムギ,キュウリはイネ,チンゲンサイよりアミノ酸間の生育差は小さかった.ダイズでは,アミノ酸間の生育差はほとんどみられなかった.アミノ酸別の比較をすると,アスパラギン,グルタミンでは,無窒素区より地上部乾物重,地上部窒素含量の増加がみられ,一方,システイン,メチオニン,ロイシン,バリンでは地上部乾物重や地上部窒素含量が無窒素区より低下した.そこで,アミノ酸濃度を変えた時の影響を調べるため,生育への影響が異なる5種類のアミノ酸を単一窒素源に選び,イネ幼植物に対する影響について検討した.その結果,グルタミンで生育したイネは窒素濃度増加に伴い地上部乾物重,地上部窒素含量は増大した.セリン,バリンで生育したイネは,低濃度から生育阻害がみられた.グルタミンは無機態窒素を代謝する際に最初に同化されるアミノ酸でもあるので,植物体内で濃度が高くても障害をおこさず,窒素源として効率的に利用されていると考えられた.セリン,バリンはグルタミンに比べてアミノ酸生成経路の末端で生成されるアミノ酸であるため,植物に吸収されても代謝されず植物体内で濃度が上がり,生育を阻害したものと考えられた.
著者
高橋 友継 榎本 百利子 遠藤 麻衣子 小野山 一郎 冨松 理 池田 正則 李 俊佑 田野井 慶太朗 中西 友子 眞鍋 昇
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.551-554, 2012 (Released:2012-11-29)
参考文献数
2
被引用文献数
1 5

福島第一原子力発電所事故の2か月半後の2011年5月30日から直線距離で約130km南方に位置する東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場で栽培されていた牧草から調製したヘイレージを飼料として同場で飼養中の乳牛に2週間給与した後2週間福島第一原子力発電所事故に起因する放射性核種を含まない輸入飼料を給与し,牛乳中の131I,134Cs及び137Csの放射能濃度の推移を調べた。飼料と牛乳中の131Iは検出下限以下であった。飼料中の放射性核種(134Csと137Cs)は牛乳中に移行したが,ヘイレージ給与を停止すると1週間は3.61Bq/kg/day,1から2週間は0.69Bq/kg/day,平均すると2.05Bq/kg/dayの割合で速やかに減少した。なお試験期間中を通じて牛乳中の134Csと137Csの放射能濃度は国の暫定規制値及び新基準値(放射性セシウム:200及び50Bq/kg)以下であった。
著者
塩沢 昌 田野井 慶太朗 根本 圭介 吉田 修一郎 西田 和弘 橋本 健 桜井 健太 中西 友子 二瓶 直登 小野 勇治
出版者
Japan Radioisotope Association
雑誌
Radioisotopes (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.323-328, 2011-08-15
被引用文献数
10 31

福島第一原子力発電所事故で放射性物質が多量に降下してから約2か月後に,耕起されていない水田の深さ15cmまでの表土を厚さ1~5cmの6層に分割してサンプリングし,放射性セシウム(<SUP>134</SUP>Csと<SUP>137</SUP>Cs)の鉛直濃度分布を求めた結果,放射性Csの88%が0~3cmに,96%が0~5cmに止まっていた。しかし,量的に大半は表面付近に存在するものの,15~20cmの層まで新たに降下した放射性Csの影響が及んでいた。濃度分布から求めた放射性Csの平均移動距離は約1.7cmで,70日間の雨量(148mm)から蒸発散量を引いて体積含水率で割った水分子の平均移動距離は約20cmと推定され,土壌への収着により,Csの移流速度は水の移流速度に比べて1/10であった。しかし,文献にみられる実験室で測定した収着平衡時の土壌固相と土壌水との間の分配係数から計算される移流速度よりは2~3桁大きく,現場の移動現象が収着平衡からほど遠いことを示している。一方,耕起された水田では,表層の高濃度の放射性セシウムが0~15cmの作土層内に混合されて平均値(約4000Bq/kg)となっていた。
著者
田野井 慶太朗 斉藤 貴之 岩田 直子 大前 芳美 広瀬 農 小林 奈通子 岩田 錬 中西 友子
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.299-304, 2011 (Released:2011-08-29)
参考文献数
9
被引用文献数
6 6

著者らは,入手が困難である28Mgを製造,精製し,イネの根によるMg吸収解析を行った。純アルミニウム箔に,27Al(α,3p)28Mgの核反応を試みて28Mgを製造した。カラム精製を経た後,およそ1MBqのキャリアフリーの28Mgを得ることができた。この放射性同位元素を用いてイネの根のMg吸収速度を算出した。すなわち,0.1mM及び5.0mMのMg濃度の溶液に28Mgを加え,そこに根を15から30分間浸すことで28Mgを吸収させた後,28Mgを画像として検出した。得られた画像よりイネの根から吸収されたMg量を定量した結果,溶液が5.0mMの条件下におけるMg吸収速度は,0.1mMの場合よりも6から7倍大きいことがわかった。更に,溶液のMg濃度を0.025~10mMの9段階に設定したところ,溶液のMg濃度が低い時ほど根のMg吸収能力は高まった。以上から根は溶液のMg濃度が低い場合には,Mgを能動的に吸収する機構を有することが示された。
著者
田野井 慶太朗 橋本 健 桜井 健太 二瓶 直登 小野 勇治 中西 友子
出版者
公益社団法人 日本アイソトープ協会
雑誌
RADIOISOTOPES (ISSN:00338303)
巻号頁・発行日
vol.60, no.8, pp.317-322, 2011 (Released:2011-08-29)
参考文献数
4
被引用文献数
11 14

著者らは,2011年3月11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質の麦への蓄積様式について,γ線放出核種の同定及び分布について明らかにした。5月15日のコムギについて核種分析したところ,134Csと137Csが検出され,これらを足した放射性セシウム濃度は,枯葉で約284500Bq/kgと穂の約300Bq/kgと比較して約1000倍と突出して高い値であった。次に,5月26日のコムギについて,各葉位,穂及び茎に分けて同様に測定したところ,放射性セシウム濃度は,事故当時既に展開していた葉において高く,事故後展開した葉も含め,古い葉の順に高い値であり,穂が最も低い濃度であった。これら放射性物質の分布を可視化したところ,既に展開中の葉においてスポット状に強いシグナルが観察された。これらの結果から,事故時展開していた葉で高濃度に検出される放射性物質は,放射性降下物が直接付着したものが主であることが示唆された。一方で,事故時展開していなかった葉においても,古い順に放射性セシウム濃度が高かったことから,植物体内において葉へ移行した放射性セシウムは転流(再分配)されにくいことが示唆された。
著者
西澤 隆 松嶋 卯月 川満 芳信 中西 友子
出版者
山形大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.メロンの生理障害の一つである「水浸状果」の発生メカニズムについて調べ,トリガーとしてのエチレンの働きと,細胞壁の崩壊に伴う細胞壁間隙の乖離,水移動に伴う,果肉の透明化のメカニズムを明らかにした.2.メロンの「水浸状果」発生には,嫌気的呼吸に伴う果実内部における発酵物質(アセトアルデヒドやエタノール)の蓄積が直接的な要因として関与しているのではなく,細胞壁の乖離に伴う水移動が直接的要因として関与していることを明らかにした。3.メロンの「水浸状果」発生には,必ずしも細胞壁にイオン結合するカルシウムが不足することにより細胞壁同士の乖離が生じる必要はなく,共有結合性ペクチン分子の低分子化に伴う細胞壁同士の乖離が原因として働くこともあることを明らかにした.4.作物の水移動に伴う生理的変化を,切り花,食用作物,青果物を使って検討し,水移動の可視化,細胞の構造的変化とテクスチャーとの関係を明らかにすると共に,農産物の新たな貯蔵法について提唱した.5.近赤外分光分析法,中性子イメージング,レーザードップラー等を用いた,新たな作物内部の非破壊検査法,水移動のリアルタイムな追跡法について検討し,測定技術の改善と応用性を広げることができた.