著者
蜂須 貢 村居 真琴 田中 正明 瀬川 克己 武重 千冬
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.543-550, 1979

1.D-フェニルアラニンのペプチダーゼ阻害作用を生物学的に検定した.モルモット空腸の収縮はエンケファリンで抑制されるが, この抑制はペプチダーゼを含む脳の抽出液が存在する時は消失するが, D-フェニルアラニンを添加すると消失しないで, 脳の抽出液を熱処理して酵素活性を失わせた時と同じになる.<BR>2.ラットの脳室内に投与したエンケファリンによる鎮痛はD-フェニルアラニンの腹腔内投与によって著しく増強される.<BR>3.ラットの尾逃避反応の潜伏期を痛覚の閾値として, 針麻酔の刺激を加えると, 5%の危険率で有意の差のある鎮痛が現われるラットと現われないラットがあり, それぞれ針鎮痛有効群, 無効群とに区分できる.<BR>4.D-フェニルアラニンを投与すると, 針鎮痛無効動物の針鎮痛は著しく増強され, 有効群にD-フェニルアラニンを投与した時のわづかに増強された針鎮痛とほぼ等しくなり, 針鎮痛の有効性の個体差は消失する.<BR>5.針鎮痛有効群ラットは中脳中心灰白質刺激による鎮痛も有効で, 針鎮痛の有効性の個体差と中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差はよく並行する.D-フェニルアラニンを投与すると, 針刺激ならびに中脳中心灰白質刺激無効群ラットの, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛は増強し, D-フェニルアラニン投与後わづかに増強された針刺激有効群ラットの中脳中心灰白質刺激による鎮痛とほぼ等しくなり, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差は消失する.<BR>6.モルヒネ鎮痛の有効性の個体差も針鎮痛の有効性の個体差と並行するが, D-フェニルアラニン投与後はモルヒネ鎮痛は増強され, 鎮痛の程度は両群ともほぼ等しくなり, モルヒネ鎮痛の有効性の個体差は消失する.<BR>7.針鎮痛, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛, モルヒネ鎮痛何れにも鎮痛性ペプタイドの内因性モルヒネ様物質が関与し, これら鎮痛の有効性の個体差はぺプチダーゼの活性の個体差に依存していると考察した.
著者
野田 弘二郎 保阪 善昭 村松 英之 上田 拓文
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.325-336, 2005
被引用文献数
4

顔面骨骨折の診断と治療方針決定に役立てるため, 過去10年間に当院を受診した症例について統計的検討を行った.1994年度より2003年度までに当院を受診した顔面骨骨折1415症例を対象とした.患者数は増加傾向にあり形成外科全患者中の割合も増大していた.平均で7割が救急外来を初診していた.性差は3: 1, 年齢平均は33.3歳であり受傷原因は男性では暴力, スポーツが, 女性では転倒・転落, 交通外傷が多かった.10歳代ではスポーツと暴力が, 高年齢層では転倒・転落が多かった.部位別では鼻骨, 頬骨, 下顎骨, 眼窩, 上顎骨の順に多かった.鼻骨骨折は若年層に多く, 高年齢層では頬骨骨折, 下顎骨骨折が多かった.下顎骨骨折では関節突起, 頤, 下顎角, 体, 筋突起, 歯槽突起の順で多かった.複数骨折での組み合わせは片側関節突起と頤が最も多かった.手術を行った症例が56.3%, 保存的治療は43.7%で, 手術は鼻骨骨折, 眼窩骨折, 下顎骨骨折の約半数で, 頬骨骨折, 上顎骨骨折ではより多く行われていた.症例数は単一施設としては本邦の報告中最多であった.患者数の増加傾向は顔面骨骨折治療の重要度が高まりを示している.受診経路は7割が救急外来でありプライマリケアの重要性が裏付けられた.年齢, 性別は他の報告と概ね一致していた.受傷原因は暴力が多く当院の立地等に影響されていると考えられた.受傷原因の性別, 年代別の差異は社会生活における行動傾向, 社会活動の活発さ, 反射的回避能力, 骨強度の年齢による変化等に起因すると考えられた.骨折部位別頻度は他の報告と同様の結果であったが, 当院の症例では鼻骨骨折の占める割合が高く, 上顎骨骨折も49例の受診があり軽傷から重症例まで幅広く扱う当院の性質を表しているものと考えられた.若年層で鼻骨骨折が特に多く, 中年以降では頬骨骨折の割合が高いが, 若年層ではスポーツや暴力による比較的軽傷の症例が, 高年齢層では転倒・転落など不慮の事故に関わる比較的重症な症例が多い傾向があると言い換えることも出来る.下顎骨骨折の部位別骨折頻度は他の報告と概ね一致していた.下顎骨骨折における複数骨折は, 関節突起や頤との組み合わせが多く, これらの骨折では高率に複数骨折があり注意を要する.全症例の56.3%が平均受傷後8日で手術されており再手術を要した症例は0.7%に過ぎなかった.
著者
松井 住仁
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.271-284, 1981
被引用文献数
3 1

入院患者の至適温熱環境を求めるため, 内科病棟において1年間温湿度測定, 患者への温冷感等のアンケート調査及びカルテ調査を実施し, 以下の知見をえた.至適温度は秋22~23℃, 冬20~21℃, 春21~22℃, 夏24~25℃, と季節差があった.若年者は, よりより凉しい室温でより涼しく, より暖かい室温でより暖かく感じる傾向にあった.温熱環境に対して類似の温冷感申告を呈する傾向を有す患者を1群として, 5群の疾患群に分類した.この傾向から疾患毎の至適温度を求めることが望ましいと考えた.夏の冷房しすぎ, 冬の暖房しすぎ等, 冷暖房時期, 時間, 実施方法について再考の余地を認めた.湿度感においても季節差があり, 特に冬は乾燥感の申告が増加していた.患者は病室内温熱環境の変化に対して, 衣服, 寝具等によって個々に体温調節を行っており, これによって現在一般的な空調設備は満足しえるものと考えられたが, 個々調節不能な重症者, 幼児等では依然問題が残されている.
著者
梅本 岳宏 幕内 幹男 武内 聖
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.47-51, 2006
被引用文献数
1

症例は69歳男性.平成14年9月25日右下腹部痛が出現した.痛みは一時軽快したが, 27日夜から28日朝にかけて痛みが増悪し, 近医を受診した.虫垂炎と診断され, 抗生剤を処方されて帰宅した.その後症状は一時軽快したが, 9月30日再び右下腹部痛が出現し再診した.限局性腹膜炎の診断で手術目的にて同日当院に紹介入院となった.腹部単純X線ではfree airや異物陰影は認められず, 腹部CT検査で右下腹部にlow densityの腫瘤を認め, 内部に直線状のhigh densityの異物陰影が認められた.魚骨による消化管穿孔と診断し, 同日緊急手術を行った.開腹すると中等量の膿性腹水を認め。Treitz靱帯から220cmの部位に, 腸間膜側に穿孔する長さ2.5cmの針状の魚骨を認めた.小腸部分切除術と洗浄ドレナージ術を施行した.本症例は患者からの病歴聴取と腹部CT像の注意深い読影によって術前診断が可能であった.
著者
野井 信男
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.501-512, 1978

Subcutaneous adipose tissue (SAT) in 36 parts of the body was examined on 92 junior high school girl subjects in Tokyo, and 167 junior and senior high school girls in Okinawa. During their menarche years, the thickness and distribution of SAT were studied and the following results were obtained :<BR>1) Before menarche, the thickness of SAT on most parts of body was thicker in Tokyo girls than in Okinawa girls, and was especially predominant on the hip, abdomen and the proximal parts of the extremities of Tokyo girls. However, no geography related differences were seen around the nipple and waist.<BR>2) On the premenarche girls in Tokyo, the thickness of SAT was largest primarily at the lower halves of the hip, secondarily at the upper hip and upper posterior thigh, followed by the middle region of the thigh and waist, and the nipple, calf and navel in that order. This distribution pattern of SAT seemed to be nearly the same on the premenarche girls in Okinawa ; although the thickness of SAT around the nipples of Okinawa girls was equal to that in the middle thigh and waist, while on the calf it was thinner than in Tokyo girls.<BR>3) The thickness of SAT in the nipple part proceeded to increase for one year in Tokyo girls and for 2.5-3.5 years in Okinawa girls after menarche. It reached the thickness of hip, middle thigh and waist SAT in Tokyo girls, and matched the largest parts in Okinawa girls.<BR>4) On the post-menarche girls, the thickness of SAT increased strikingly in the thigh, calf and proximal parts of the upper extremities during 1-2 years after menarche in Tokyo, while in Okinawa the thickness gradually enlarged during 3-4 years after menarche and reached the same values as those of Tokyo girls. The thickness of SAT which was seen in the post-menarche girls in Tokyo was greater than in Okinawa in the shoulder, abdomen, hip, anterior parts of the lower extremities and posterior parts of the legs.<BR>5) In the post-menarche years, the development of thickness of SAT was a rapid type in Tokyo and a gradual type of Okinawa. The former seemed to be close to the type seen in Kagoshima prefecture which was reported by Kawamura (1954) .<BR>These facts suggest that the differences in development of thickness of SAT in young girls during their post-menarche years is one of the effects of regional environment differences.