著者
蜂須 貢 貝谷 久宜
出版者
昭和大学薬学雑誌編集委員会
雑誌
昭和大学薬学雑誌 (ISSN:18847854)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.17-28, 2010-03

不安障害の治療において、従来のベンゾジアゼピン系抗不安薬に加え、セロトニン1A(5-HT1A)部分作動薬や選択的セロトニン再取り込み阻害剤が使用されている。更に、最近臨床応用された抗鬱薬ミルタザピンも5-HT2A/5-HT2C受容体拮抗作用を持つことから、重症な不安障害に対する効果が期待される。これらの薬剤の特性をよく理解し治療を行うことにより、高い治療効果が得られる。
著者
蜂須 貢
出版者
昭和大学薬学雑誌編集委員会
雑誌
昭和大学薬学雑誌 (ISSN:18847854)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.57-70, 2011-06

2011年現在、新規抗うつ薬は選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)としてフルボキサミン、パロキセチンおよびセルトラリン、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)としてミルナシプランおよびデュロキセチン、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)としてミルタザピンの計6剤が日本国内で使用可能である。これらはいずれもモノアミンの遊離を脳内で促進し、うつ病に効果をもたらすと考えられている。その中でもミルタザピンは特異な薬理作用を持っており、アドレナリンα2受容体を阻害する結果ノルアドレナリンとセロトニンの遊離を促進する(詳細は本文参照)。SSRIやSNRIは抗うつ効果発現までに服薬開始後2~4週間を要するが、NaSSAミルタザピンは抗うつ効果発現は約1週間と速やかである。これはモノアミン再取り込み阻害作用と受容体拮抗作用の違いで説明される。また、うつ病では前頭前野や海馬の機能および容積の低下が認められている。一方、抗うつ薬および抗うつ作用を示す療法(電気けいれん療法など)では海馬などで神経新生が認められている。抗うつ薬の長期投与ではうつ病の再発予防効果が認められており、抗うつ薬による神経新生がうつ病患者の脳機能を強化していると考えられるに至っている。これらの作用について経時的な神経系の活性化とモノアミン受容体の役割についてSSRIとNaSSAを比較しながら概説した。(著者抄録)
著者
蜂須 貢 市丸 保幸
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.115, no.5, pp.271-279, 2000 (Released:2007-01-30)
参考文献数
50
被引用文献数
4 3

1999年5月選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)フルボキサミン(デプロメール®)が欧米よりも10年以上遅れて我が国で初めて上市された.フルボキサミンは「うつ病」を適応症として,1983年より世界約80か国で承認されており,また「強迫性障害(obsessive compulsive disorder: OCD)」の適応に対しては,1994年米国で承認され,現在約30か国で承認されている.本薬は「うつ病およびうつ状態」に対しては従来の三・四環系抗うつ薬と同等の効果を有しており,また強迫性障害への適応は日本で最初のものである.これらの効果はセロトニン神経から遊離されたセロトニンの選択的な再取り込み阻害作用に基づくと考えられている.フルボキサミンは従来の抗うつ薬が持つムスカリン受容体,アドレナリンα1受容体,ヒスタミンH1受容体の遮断作用を持たず,口渇,排尿障害,めまい,立ちくらみ,眠気などの副作用を示さないので,コンプライアンスが良く,うつ病や強迫性障害の持続療法や維持療法に優れている.
著者
蜂須 貢 大林 真幸 船登 雅彦 芳賀 秀郷 上間 裕二 三邉 武幸 向後 麻里
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.187-192, 2021 (Released:2021-07-06)
参考文献数
11

高度な集中力をもって被検者がパフォーマンスを発揮する場合に自律神経活動がどの様に変化するかを明らかにすることを目的として,デッドリフト(DL)直後の自律神経機能の変化を検討した.被検者は常時ウエイトトレーニングを行っている10名(30.0±15.0歳)とした.DLの重量は本人の最大挙上重量の90%(90%max)を基準とし,初日の2回と1週間以上間隔をあけた2日目の1回,計3回それぞれ行った.また,最大挙上重量の90%±5 kgの3重量における自律神経機能への影響を検討した.自律神経機能は心電図を自律神経機能解析ソフト「きりつ名人((株)クロスウエル)」で解析した.測定項目は安静座位時2分間のCVRRとccvL/H,立位時のΔCVRRとΔccvL/Hおよび立位継続時1分間のccvHFである.90%maxのDLの自律神経機能への影響を間隔をあけ3回観察したが有意差は認めなかった.90%max±5 kgのデッドリフトでは重量依存的に心拍数が増加し,90%max−5 kg時の心拍数増加と比較して+5 ㎏で有意な増加を認めた.きりつ名人スコアは90%max−5 kgと比較して90%max時で有意に値を低下し,自律神経機能のバランスの崩れを認めた.
著者
蜂須 貢 大林 真幸 船登 雅彦 落合 裕隆 芳賀 秀郷 上間 裕二 三邊 武幸 向後 麻里
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2188529X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.5, pp.453-458, 2022-01

デッドリフトはパワーリフティング競技3種目の中で最も重い重量を扱うため,精神統一し試技の終了まで無呼吸で行うことが多く,自律神経活動への影響が大きいと考えられ,デッドリフト直後の自律神経活動は競技者のパフォーマンス発揮を知る上で重要である.一方,デッドリフトは試技の開始から終了まで一般的に歯を噛み締めバーベルを挙上するため,カスタムメイドマウスガード(CMG)の影響を観察するには適していると考えた.被検者は常時ウェイトトレーニングを行っている10名(30.0±15.0歳)とし,心電図から自律神経活動解析ソフト「きりつ名人((株)クロスウエル)」を用い自律神経活動を解析した.測定項目は安静座位(2分間) および立位時の心拍変動係数(CVRR),低頻度と高頻度心拍変動係数比(ccvL/H)および立位継続(1分間)時の高頻度心拍変動係数(ccvHF)である.重量変化による自律神経活動への影響は最大挙上重量の90%を基準とし,これに±5kgの重量を追加した.その後2mmあるいは4mm厚のCMGを口腔内に装着し基準重量である最大挙上重量の90%のデットリフトに対する影響を検討した.CMGは各人の歯列に合わせEthyl vinyl acetate sheetを加熱成形し,第一大臼歯部で厚み2mmおよび4mmとなるように製作した.統計解析は分散分析を行いその後Bonferroniの多重比較を行った.重量依存性の心拍数変化(ΔHR)は90%−5kg時のデッドリフトと比較して,±0kg(90%時)で増加傾向,+5kgで有意な増加を認めた.CMG装着の影響はCMG装着なしに比べCMG 4mm装着の場合ccvHFが増大する傾向を示した.ccvHFの値の低下はトレーニング負荷量やそれによる疲労感と関係することが報告されていることからCMG装着は疲労を軽減する傾向にあると思われる.
著者
蜂須 貢 村居 真琴 田中 正明 瀬川 克己 武重 千冬
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.543-550, 1979-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
21

1.D-フェニルアラニンのペプチダーゼ阻害作用を生物学的に検定した.モルモット空腸の収縮はエンケファリンで抑制されるが, この抑制はペプチダーゼを含む脳の抽出液が存在する時は消失するが, D-フェニルアラニンを添加すると消失しないで, 脳の抽出液を熱処理して酵素活性を失わせた時と同じになる.2.ラットの脳室内に投与したエンケファリンによる鎮痛はD-フェニルアラニンの腹腔内投与によって著しく増強される.3.ラットの尾逃避反応の潜伏期を痛覚の閾値として, 針麻酔の刺激を加えると, 5%の危険率で有意の差のある鎮痛が現われるラットと現われないラットがあり, それぞれ針鎮痛有効群, 無効群とに区分できる.4.D-フェニルアラニンを投与すると, 針鎮痛無効動物の針鎮痛は著しく増強され, 有効群にD-フェニルアラニンを投与した時のわづかに増強された針鎮痛とほぼ等しくなり, 針鎮痛の有効性の個体差は消失する.5.針鎮痛有効群ラットは中脳中心灰白質刺激による鎮痛も有効で, 針鎮痛の有効性の個体差と中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差はよく並行する.D-フェニルアラニンを投与すると, 針刺激ならびに中脳中心灰白質刺激無効群ラットの, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛は増強し, D-フェニルアラニン投与後わづかに増強された針刺激有効群ラットの中脳中心灰白質刺激による鎮痛とほぼ等しくなり, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差は消失する.6.モルヒネ鎮痛の有効性の個体差も針鎮痛の有効性の個体差と並行するが, D-フェニルアラニン投与後はモルヒネ鎮痛は増強され, 鎮痛の程度は両群ともほぼ等しくなり, モルヒネ鎮痛の有効性の個体差は消失する.7.針鎮痛, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛, モルヒネ鎮痛何れにも鎮痛性ペプタイドの内因性モルヒネ様物質が関与し, これら鎮痛の有効性の個体差はぺプチダーゼの活性の個体差に依存していると考察した.
著者
武冨 麻恵 信太 賢治 大嶽 浩司 泉山 舞 山元 俊憲 蜂須 貢 増田 豊 亀井 大輔
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.514-519, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
14

神経因性疼痛の治療にSSRIが有効であるという報告がある.加えて近年新しく臨床使用されているノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(noradrenergic and specific serotonergic antidepressant:NaSSA)であるミルタザピンは三環系抗うつ薬やSSRIと異なる機序により脳内でノルアドレナリンとセロトニン神経を活性化する抗うつ薬である.本研究の目的は帯状疱疹関連痛(zoster-associated pain:ZAP)に対するミルタザピンの除痛効果を明らかにすることである.2010年〜2013年にZAPによるアロデニアを発症している患者を前向きに調査した.SSRIであるフルボキサミンを50mg/日で一週間内服し,その後NaSSAのミルタザピンを15mg/日で一週間内服し効果を確認した.評価項目は視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS),嘔気,眠気の発生率とした.エントリー症例12例(男性8例.女性4例)の平均年齢は70歳(58〜79歳)であり,うちミルタザピンを7日間服用できたのは8例であった.ミルタザピンを内服中に中止となった3例はいずれも眠気とふらつきとが主な理由であり,7日間服用できた症例の中でも1例,眠気のため半量しか服用できなかった症例があった.ミルタザピン服用の8例中4例でVASは減少し,嘔気が問題となった症例はなかった.抗うつ薬にはさまざまな種類があり,どの薬を選択するかは難しいが,ミルタザピンは眠気の副作用があるもののフルボキサミン無効例にも効果があった.
著者
吉澤 徹 山田 浩樹 堀内 健太郎 中原 正雄 谷 将之 高山 悠子 岩波 明 加藤 進昌 蜂須 貢 山元 俊憲 三村 將 中野 泰子
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和学士会雑誌 (ISSN:2187719X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.459-468, 2016 (Released:2017-03-16)
参考文献数
23

非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬に比べ錐体外路系の副作用などが少なく,また陰性症状にも効果を示すため,統合失調症治療薬の第一選択薬として用いられている.しかし,これら非定型抗精神病薬の副作用として,体重増加や耐糖能異常などが生じることが問題となっている.われわれは抗糖尿病作用,抗動脈硬化作用,抗炎症作用などを示し,脂質代謝異常により減少する高分子量アディポネクチン (HMWアディポネクチン) や増加するとインスリン抵抗性を助長するレチノール結合蛋白4 (RBP4) を指標として非定型抗精神病薬であるオランザピンとブロナンセリンの影響を統合失調症患者において観察した.薬物は通常臨床で使用されている用法・用量に従って投与され,向精神病薬同士の併用は避けた.その結果オランザピンはブロナンセリンに比べ総コレステロールおよびLDLコレステロールに対し有意な増加傾向を示し,HDLコレステロールは有意に増加させた.また,HMWアディポネクチンとRBP4に対してオランザピンは鏡面対称的な経時変化を示した.すなわち,オランザピン投与初期にHMWアディポネクチンは減少し,RBP4は増加した.ブロナンセリンはこれらに対し大きな影響は示さなかった.体重およびBMIに対してはオランザピンは14週以後大きく増加させたが,ブロナンセリンの体重増加はわずかであったが,両薬物間ではその変化は有意な差ではなかった.インスリンの分泌を反映する尿中C-ペプチド濃度に対してはオランザピンはこれを大きく低下し,ブロナンセリンはわずかな平均値の低下であり,有意な差はなかった.血中グルコースおよびヘモグロビンA1c (HbA1c) やグリコアルブミンは両薬剤において有意な影響は認められなかった.このようにオランザピンはコレステロール値や体重,BMIなどを増加させ,さらにインスリンの分泌を抑制し耐糖能異常を示す兆候が認められたが,ブロナンセリンはこれらに大きな影響を与えないことが示された.
著者
蜂須 貢 村居 真琴 田中 正明 瀬川 克己 武重 千冬
出版者
The Showa University Society
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.543-550, 1979

1.D-フェニルアラニンのペプチダーゼ阻害作用を生物学的に検定した.モルモット空腸の収縮はエンケファリンで抑制されるが, この抑制はペプチダーゼを含む脳の抽出液が存在する時は消失するが, D-フェニルアラニンを添加すると消失しないで, 脳の抽出液を熱処理して酵素活性を失わせた時と同じになる.<BR>2.ラットの脳室内に投与したエンケファリンによる鎮痛はD-フェニルアラニンの腹腔内投与によって著しく増強される.<BR>3.ラットの尾逃避反応の潜伏期を痛覚の閾値として, 針麻酔の刺激を加えると, 5%の危険率で有意の差のある鎮痛が現われるラットと現われないラットがあり, それぞれ針鎮痛有効群, 無効群とに区分できる.<BR>4.D-フェニルアラニンを投与すると, 針鎮痛無効動物の針鎮痛は著しく増強され, 有効群にD-フェニルアラニンを投与した時のわづかに増強された針鎮痛とほぼ等しくなり, 針鎮痛の有効性の個体差は消失する.<BR>5.針鎮痛有効群ラットは中脳中心灰白質刺激による鎮痛も有効で, 針鎮痛の有効性の個体差と中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差はよく並行する.D-フェニルアラニンを投与すると, 針刺激ならびに中脳中心灰白質刺激無効群ラットの, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛は増強し, D-フェニルアラニン投与後わづかに増強された針刺激有効群ラットの中脳中心灰白質刺激による鎮痛とほぼ等しくなり, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛の有効性の個体差は消失する.<BR>6.モルヒネ鎮痛の有効性の個体差も針鎮痛の有効性の個体差と並行するが, D-フェニルアラニン投与後はモルヒネ鎮痛は増強され, 鎮痛の程度は両群ともほぼ等しくなり, モルヒネ鎮痛の有効性の個体差は消失する.<BR>7.針鎮痛, 中脳中心灰白質刺激による鎮痛, モルヒネ鎮痛何れにも鎮痛性ペプタイドの内因性モルヒネ様物質が関与し, これら鎮痛の有効性の個体差はぺプチダーゼの活性の個体差に依存していると考察した.