- 著者
-
鈴木 允
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
- 巻号頁・発行日
- vol.91, no.2, pp.125-145, 2018 (Released:2022-09-28)
- 参考文献数
- 32
本稿では,愛知県東加茂郡賀茂村の『寄留届綴』を用いて,大正期の山村からの人口流出の実態を検討した.寄留届に記載された寄留先や寄留者の属性,寄留年月日を入力したデータベースを用いた分析から新たな知見を見出し,人口流出が人口動態に与えた影響を考察した.その結果,寄留者の大部分は若年層で占められ,その多くが県内への寄留であった.中でも,10代~20歳前後での一時的な近隣への単身寄留と,20~30代の世帯主とその同伴家族による都市部への寄留が多数を占めていた.前者では,結婚前の10代女性が女工として働きに出る寄留が目立ち,こうした動向が結婚年齢の上昇や大正期の出生率低下に影響を与えた可能性が考えられた.後者では,大都市への寄留者がそのまま都市内にとどまる傾向が見出され,都市人口の増加への寄与が考えられた.人口移動が都市化や人口転換に与えた影響をより動態的に解明していくことが,今後の課題である.