著者
島津 俊之
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.88-113, 2002-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
110
被引用文献数
3 2

本稿は地理学史におけるクリティカル・ヒストリーの潮流に鑑み,明治政府の地誌編纂事業を新出史料に基づいて再構成し,近代日本の国民国家形成との関係性を考察した.一国地誌の編纂は当初民部省・文部省・陸軍省で個別に構想され,文部省は『日本地誌略』を,陸軍省は『兵要日本地理小誌』などを刊行した.陸軍省から正院に移った塚本明毅は『日本地誌提要』を編纂し,さらに「皇国地誌」の編纂を推進した.それを「大日本国誌」に発展させた内務官僚桜井勉の異動は,その中止や地誌編纂事業の帝国大学移管と規模縮小につながり,井上毅文相の裁定と死は当該事業の命運を断った.正院-内務省系統のキーパースンは,地誌編纂の表象的な国土統合機能を主権強化の要件としたが,国民統合の構想には欠けていた.しかし,対外的な国威発揚の用具ともなった『日本地誌提要』は,その記載内容が実質的に国民統合に向けて動員された.かかる「意図せざる結果」は,国土統合や主権強化の諸過程とあいまって,国民国家形成に寄与し得るものであった.

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【地理学評論掲載論文】島津俊之 2002.明治政府の地誌編纂事業と国民国家形成.地理学評論75: 88-113.https://t.co/rFzB3MqjTv

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