著者
上田 紘司 永井 孝志
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2010, (Released:2021-05-24)
参考文献数
60

水草の多様性や現存量が世界的に減少しているが、水草には多様な魚類や甲殻類等が生息し、水草はそれらの餌資源、産卵場、生息場として機能している。水草の生態学的有用性の機能の視点から水草の保全対策が重要と考えられる。しかし、具体的にどこでどのような動物種がどのような水草種をどのように利用しているのかというエビデンスについて、これまでに発表されている膨大な文献の中から体系的に整理した報告はない。本研究では魚類と甲殻類等に対する水草の有用性を明らかにするために、システマティックマップの手法を用いて膨大な文献を体系的に整理した。データベースは、 Web of Science Core Collectionと J-STAGEを使用した。検索は 2017年 10月に行い、検索式は水草、魚類、甲殻類、餌資源、産卵場、生息場を示すキーワードを組み合わせた。採択基準は 1)魚類や甲殻類等が水草又は大型藻類を利用した結果が得られている文献であること、 2)人工植物を扱っていないこと、 3)文献の種類は原著に限定し、レビューを含まないこと、 4)抄録があること、 5)英語又は日本語で記載されていることである。本調査の該当文献は 512件(英文献 470件、和文献 42件)とした。これらの文献を整理した結果は以下の通りである: 1)調査地では北米、中南米、欧州、豪州が多くアジア、アフリカが少ない; 2)調査水域は湖と河川が多く、海域は少ない; 3)調査対象水草はホザキノフサモ等の沈水植物が多く、抽水植物、浮遊植物、浮葉植物がそれに続く; 4)調査対象の動物は魚類が半数を占め、中でもブルーギルやヨーロピアンパーチの未成魚を扱った文献が多い; 5)水草の利用目的は生息場を扱った文献が 80%以上を占め、餌資源や産卵場を扱った文献は少ない。アジア・アフリカ地域での研究や産卵場としての利用を扱う研究が不足していることが示され、今後のさらなる研究が望まれる。また、新たな試みとして生態学分野の 10種類の研究手法を 3段階のエビデンスレベルに分類した。その結果、水草が魚類や甲殻類等に対して生態学的に有用であることを高いエビデンスで示す文献を抽出することができた。しかし、今後のエビデンスレベルの評価には、研究手法だけでなくより詳細な検討が必要と考えられた。また、このようにエビデンスを整理した結果が科学的根拠に基づいた保全活動や政策に活用されていくことが重要である。

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