著者
上橋 菜穂子
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.583-601, 2021 (Released:2021-07-06)
参考文献数
25

本稿は、自らの物語執筆の過程をふり返り、文化人類学を学んできたことが、物語執筆と、どのように関わっているかを明らかにしようと試みたものである。 文化人類学と出会い、学び続けてきたことは、物語執筆に大きな影響を与えているはずだが、私はこれまで、そのことを、きちんと考えてみたことはなかった。学会賞をいただいたことを機に、初めて、真剣に自らの物語執筆と文化人類学の関係を考えてみたのだが、自分の思考の流れを追う作業は、近づくと消える逃げ水を追うようなもので、明らかにできなかった部分も多い。私にとって物語は「生み出すもの」であると同時に「生まれてくる」ものでもあり、執筆の過程には意識して行っている部分だけでなく、「自分の脳がなぜこういう動き方をしているのかわからない」と感じる部分が含まれているからである。 ただ、物語が生まれるきっかけとなる「いきなり頭に浮かぶ映像」が、実際の執筆に結びつくのは、特殊な「連想」が生じたときであり、火がついたように一瞬で広がっていくその「連想」には、私が文化人類学を学び、フィールドワークをしてきたことが深く関わっていることが見えてきた。人間の脳が物語を生み出す、ある意味普遍的な創作の過程に、個人の経験がどのように関わるか、わずかでも明らかにできているようなら幸せである。

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物語の執筆と文化人類学 13ページ目より https://t.co/3ZhbcZ7wu0 私は、物語にアボリジニの文化要素を使わないようにしています。フィールドワークを経験してから、ある人々や、ある文化を表象することが包含する様々を考えずに何かを書くことはできないようになりました。
J-STAGE Articles - 物語の執筆と文化人類学 https://t.co/iOx7ve29kF
『獣の奏者』でお馴染み上橋菜穂子先生が物語が生まれる瞬間について論じた論文ですよ。 その瞬間は外発的で不意のタイミングだしそれを種に連想の火を燃やせるかがむしろ重要で、物語は頭では書けない。だいたいこんな話。 J-STAGE Articles - 物語の執筆と文化人類学 https://t.co/Zr5KUDW12Z
https://t.co/FIszb9m8BP
一年くらいすればフリー公開になってweb上で見られるかな? https://t.co/jP9TyxFC7B

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