著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 渡部 幹 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.140-145, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
29

死後脳研究や PET を用いた生体脳研究により,統合失調症患者,自閉症患者,うつ病患者において脳内免疫細胞ミクログリアの過剰活性化が次々と報告されている。他方で,ミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリンに抗精神病作用や抗うつ作用が報告されており,筆者らは既存の抗精神病薬や抗うつ薬が齧歯類ミクログリア細胞の活性化を抑制することを報告してきた。筆者らはこうした知見を元に,精神疾患におけるミクログリア仮説を提唱している。本稿では,精神疾患におけるミクログリア仮説解明のために現在進行中のトランスレーショナル研究を紹介する。 筆者らの研究室では,安全性の確立されている抗生物質ミノサイクリン投薬によってミクログリアの活動性そのものが精神に与える影響を間接的に探るというトランスレーショナル研究を萌芽的に進めており,健常成人男性の社会的意思決定がミクログリアにより制御される可能性を報告してきた(Watabe, Kato, et al, 2013 他)。精神疾患に着目したモレキュラーレベルのミクログリア研究では,技術的倫理的側面から生きたヒトの脳内ミクログリア細胞を直接採取して解析することは至極困難であり,モデル動物由来のミクログリア細胞の解析に頼らざるを得ない状況にあった。筆者らは,最近,ヒト末梢血からわずか 2 週間でミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG 細胞)を作製する技術を開発した(Ohgidani, Kato, et al, 2014)。精神疾患患者由来 iMG 細胞の作製により,これまで困難であった患者のミクログリア細胞のモレキュラーレベルでの活性化特性が予測可能となった。こうした技術によって,臨床所見(診断・各種検査スコア・重症度など)との相関を解析することで,近い将来,様々な精神病理現象とミクログリア活性化との相関を探ることが可能になるかもしれない。

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