著者
加藤 隆弘
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.229-236, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
59

ミクログリアは,中胚葉由来のグリア細胞で,静止状態では樹状に突起を伸展して脳内の監視役としてシナプス間を含む微細な環境変化をモニターしている。環境変化に敏速に反応し活性化するとアメーバ状に変化し,脳内力動の主役として,脳内を移動し,サイトカインやフリーラジカルとい った神経障害因子および神経栄養因子を産生する。こうして,神経免疫応答・神経障害・神経保護に重要な役割を担い,神経変性疾患や神経因性疼痛の病態に深く関与している。我々は,抗精神病薬や抗うつ薬にミクログリア活性化抑制作用があることを in vitro 研究で見出し,ミクログリア活性化とその制御を介した精神疾患の病態治療仮説を提唱している。さらに,筆者は,無意識を扱う力動精神医学の立場から,日常の精神活動や無意識に果たすミクログリアの役割にも関心を寄せている。本稿では,我々の仮説を国内外の知見とともに紹介し,これからの本研究領域の方向性・可能性を検討する。
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 渡部 幹 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.140-145, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
29

死後脳研究や PET を用いた生体脳研究により,統合失調症患者,自閉症患者,うつ病患者において脳内免疫細胞ミクログリアの過剰活性化が次々と報告されている。他方で,ミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリンに抗精神病作用や抗うつ作用が報告されており,筆者らは既存の抗精神病薬や抗うつ薬が齧歯類ミクログリア細胞の活性化を抑制することを報告してきた。筆者らはこうした知見を元に,精神疾患におけるミクログリア仮説を提唱している。本稿では,精神疾患におけるミクログリア仮説解明のために現在進行中のトランスレーショナル研究を紹介する。 筆者らの研究室では,安全性の確立されている抗生物質ミノサイクリン投薬によってミクログリアの活動性そのものが精神に与える影響を間接的に探るというトランスレーショナル研究を萌芽的に進めており,健常成人男性の社会的意思決定がミクログリアにより制御される可能性を報告してきた(Watabe, Kato, et al, 2013 他)。精神疾患に着目したモレキュラーレベルのミクログリア研究では,技術的倫理的側面から生きたヒトの脳内ミクログリア細胞を直接採取して解析することは至極困難であり,モデル動物由来のミクログリア細胞の解析に頼らざるを得ない状況にあった。筆者らは,最近,ヒト末梢血からわずか 2 週間でミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG 細胞)を作製する技術を開発した(Ohgidani, Kato, et al, 2014)。精神疾患患者由来 iMG 細胞の作製により,これまで困難であった患者のミクログリア細胞のモレキュラーレベルでの活性化特性が予測可能となった。こうした技術によって,臨床所見(診断・各種検査スコア・重症度など)との相関を解析することで,近い将来,様々な精神病理現象とミクログリア活性化との相関を探ることが可能になるかもしれない。
著者
神庭 重信 鬼塚 俊明 加藤 隆弘 本村 啓介 三浦 智史
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

うつ病の神経炎症仮説に基づき、動物実験としては、グラム陰性菌内毒素をマウスに投与して、行動および脳内の組織化学的変化について研究した。広範囲に及ぶミクログリアの一過性の活性化は見られたが、それを通じたアストログリア、オリゴデンドログリアへの影響は検出できなかった。ミクログリア活性化阻害物質であるミノサイクリンの投与は、内毒素投与の有無にかかわらず、抑うつ様行動を惹起した。培養細胞系では、ヒト末梢血中の単球から、ミクログリア様細胞を誘導することに成功し、気分障害罹患者を対象とする画像研究でも、拡散テンソル画像を集積した。これらの研究を通じ、うつ病と神経炎症の関連についてさらに知見を深めた。
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 渡部 幹 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.2-7, 2016 (Released:2017-09-26)
参考文献数
26
被引用文献数
1

脳内の主要な免疫細胞であるミクログリアは,さまざまな脳内環境変化に応答して活動性が高まると,炎症性サイトカインやフリーラジカルといった神経傷害因子を産生し,脳内の炎症免疫機構を司っている。ストレスがミクログリアの活動性を変容させるという知見も齧歯類モデルにより明らかになりつつある。近年の死後脳研究や PET を用いた生体脳研究において,さまざまな精神疾患患者の脳内でミクログリアの過剰活性化が報告されている。精神疾患の病態機構にストレスの寄与は大きく,ストレス→ミクログリア活性化→精神病理(こころの病)というパスウェイが想定されるがほとんど解明されていない。 筆者らの研究室では,心理社会的ストレスがミクログリア活動性を介してヒトの心理社会的行動を変容させるという仮説(こころのミクログリア仮説)を提唱し,その解明に向けて,動物とヒトとの知見を繋ぐための双方向性の研究を推進している。健常成人男性においてミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリン内服により,強いストレス下で性格(特に協調性)にもとづく意思決定が変容することを以前報告しており,最近筆者らが行った急性ストレスモデルマウス実験では,海馬ミクログリア由来 TNF-α産生を伴うワーキングメモリー障害が TNF-α阻害薬により軽減させることを見出した。本稿では,こうしたトランスレーショナル研究の一端を紹介する。
著者
加藤 隆弘
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.151-157, 2016 (Released:2018-04-24)
参考文献数
35

精神医学研究において,精神病理学や精神分析学を含む心の研究は,生物学的研究(脳の研究)とは対極に位置すると思われがちである。筆者は,幸か不幸か,所属している大学病院精神科医局の中で精神分析と生物学的研究という両方の世界に割と深く身を置いてきた。こうした二足の草鞋を履くという経験を元に,現在では,両者は相補的な関係にあると考えており,例えば,精神分析理論の重要概念である無意識的欲動(「生の欲動」や「死の欲動」)の起源はミクログリアをはじめとした脳内免疫細胞ではないか?とさえ考えるようになっている。筆者の研究室(九大精神科分子細胞研究グループ)では,脳と心のギャップを橋渡しするためのトランスレーショナル研究システムを試行錯誤しながら萌芽的に立ち上げてきた。本稿では,特に若手精神科医向けに,こうした研究に着手するようになるまでの一端を紹介する。筆者としては,二足の草鞋を履き続けたことによるメリットを実感しているため,生物学的精神医学を志す精神科医にも精神分析的な素養を少しでも身につけていただければと願っている。
著者
加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

精神疾患への脳内免疫細胞ミクログリアの関与が最近の研究により示唆されているが、詳細は解明されていない。本研究ではミクログリアがヒトの社会的意思決定プロセスにおいて重要な役割を果たしているのではないか?という仮説の元で、健常成人男性を対象としてミクログリア活性化抑制作用を有する抗生物質ミノサイクリン内服による社会的意思決定プロセスの変化を計るための社会的意思決定実験(信頼ゲーム)を行った。ミノサイクリンを4日間内服してもらい、自記式質問紙による心理社会的項目を測定するとともに、信頼ゲームを実施した。ミノサイクリン内服により、性格や欲動依存の行動パターンが変容することを見出すことが出来た。
著者
加藤 隆弘 松島 敏夫 瀬戸山 大樹
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.7-12, 2023 (Released:2023-03-25)
参考文献数
30

うつ病など精神疾患をもつ患者が発症初期から精神医療機関を受診することはまれであり,適切な精神医療の導入は遅れがちである。他方,こうした患者は身体症状のために身体科を受診していることがまれではない。しかるに,筆者らは精神科以外でも実施可能な採血による血液バイオマーカーの開発が,精神疾患の早期発見・早期介入につながることを期待して,血液を用いた精神疾患の客観的バイオマーカー開発を進めている。本稿では,血液メタボローム解析について概説し,うつ病やひきこもりに関連した研究の成果を紹介する。筆者らはこれまで抑うつ重症度と3ヒドロキシ酪酸,自殺とキヌレニン経路代謝物,ひきこもりとアシルカルニチン/アルギニンとの関連を萌芽的に見いだしてきた。こうした研究の発展により精神疾患を採血で客観的に生物学的に評価できるシステムが構築されることで,精神疾患の早期発見・早期介入の実現に加えて精神疾患への偏見解消が期待される。
著者
加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2010

統合失調症の病態治療機序はいまだ解明されていないが、近年酸化ストレスの関与が示唆されている。脳内酸化ストレス機序にはミクログリア由来のフリーラジカルが重要な役割を果たしている。研究者は近年精神疾患におけるミクログリア仮説を提唱しており、本研究では、培養ミクログリア細胞を用いた、invitro系を樹立し、その機序の一端を探った。統合失調症治療薬である抗精神病薬、特に、ユニークな非定型抗精神病薬であるアリピプラゾールに、ミクログリア活性化抑制を介した抗酸化作用を見出した。さらに、神経一ミクログリア細胞との共培養システムを用いた実験によって、アリピプラゾールには抗酸化作用を介した神経保護作用があることを見出した。これらの成果は、国際誌等で発表している。Among various antipsychotics, only aripiprazole inhibited the' 02 generation from PMA-stimulated microglia. Aripiprazole proved to inhibit the' 02 generation through the cascade of protein kinase C(PKC) activation, intracellular Ca2+ regulation and NADPH oxidase activation via cytosolic p4iphox translocation to the plasma/phagosomal membranes. Formation of neuritic beading, induced by PMA-stimulated microglia, was attenuated by pretreatment of aripiprazole.
著者
山村 和彦 加藤 しおり 加藤 隆弘 溝口 義人 門司 晃 竹内 聡 古江 増隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第39回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.156, 2011 (Released:2011-08-20)

慢性蕁麻疹は6週間以上継続する蕁麻疹を指し、その病態には、自己免疫性メカニズムを介した肥満細胞の脱顆粒に伴う、ヒスタミンを中心としたケミカルメディエーター放出が深く関わっている。通常、抗ヒスタミン薬の内服治療を行うが、治療抵抗性症例も少なくない。我々は、こうした治療抵抗性の慢性蕁麻疹に対して、認知症に伴う精神症状や不眠症などで用いられる抑肝散の内服が奏功した症例を報告してきた。抑肝散はソウジュツ、ブクリョウ、センキュウ、チョウトウコウ、トウキ、サイコ、カンゾウの7種類の生薬からなる漢方薬で、近年、外傷性脳損傷後の精神症状の緩和やアルツハイマー病の痴呆による行動異常や精神症状の改善といった、中枢神経に対する新たな効能も報告されている。今回、我々は肥満細胞モデルとして良く使われるラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3細胞)を用いて、抑肝散の治療抵抗性蕁麻疹に対する抑制メカニズムを検討した。その結果、カルシウム蛍光指示薬Fura-2を用いた測定系で、抑肝散がIgE感作後の抗原刺激によるRBL-2H3細胞の急激な細胞内カルシウム濃度上昇(脱顆粒を反映)を著明に抑制することを見出した。この抑制効果は代表的な抗ヒスタミン薬であるクロルフェニラミンでは認められず、治療抵抗性蕁麻疹への抑肝散の薬効を反映するものと考えられた。
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 瀬戸山 大樹 久保 浩明 渡部 幹 康 東天 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.18-25, 2021 (Released:2021-03-25)
参考文献数
37

近年,さまざまな精神疾患において脳内炎症,特に,脳内免疫細胞ミクログリア活性化がその病態生理に重要である可能性が示唆されている。筆者らは十年来ミクログリア活性化異常に着目した精神疾患の病態治療仮説を提唱してきた。ヒトでミクログリアの活動性を探る代表的な方法として死後脳の解析やPETを用いた生体イメージング技術が用いられている。しかしながら,こうした脳をみるというダイレクトな方法だけではミクログリアのダイナックで多様な分子細胞レベルの活動を十分に捉えることは困難である。筆者らは,採取しやすい患者の血液を用いて間接的にミクログリア活性化を分子細胞レベルで評価するためのリバース・トンラスレーショナル研究を推進してきた。例えば,ヒト血液単球から2週間でミクログリア様(iMG)細胞を作製する技術を開発し,幾つかの精神疾患患者由来のiMG細胞の解析を進めている。本学会誌では,すでにこうした研究による成果を幾度も報告しており,本稿では,筆者らが最近報告したうつ病患者のメタボローム解析の知見を後半に紹介する。
著者
加藤 隆弘 兵藤 文紀 大和 真由実 内海 英雄 神庭 重信
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.135, no.5, pp.739-743, 2015 (Released:2015-05-01)
参考文献数
36
被引用文献数
2 5

Altered antioxidant status has been implicated in schizophrenia. Microglia are major sources of free radicals such as superoxide in the brain, and play crucial roles in various brain diseases. Recent postmortem and imaging studies have indicated microglial activation in the brain of schizophrenia patients. Animal models that express some phenotypes of schizophrenia have revealed the underlying microglial pathology. In addition, minocycline, an antibiotic and the best known inhibitor of microglial activation, has therapeutic efficacy in schizophrenia. We have recently revealed that various antipsychotics directly affect microglia via proinflammatory reactions such as oxidative stress, by in vitro studies using rodent microglial cells. Based on these findings, we have suggested that microglia are crucial players in the brain in schizophrenia, and modulating microglia may be a novel therapeutic target. In this review paper, we introduce our hypothesis based on the above evidence. The technique of in vivo molecular redox imaging is expected to be a powerful tool to clarify this hypothesis.
著者
扇谷 昌宏 加藤 隆弘 細井 昌子
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.390-393, 2022 (Released:2022-09-01)
参考文献数
17

脳細胞の一種であるミクログリアは,微小な環境変化に敏速に反応し,貪食やサイトカイン産生などを行うことで脳内免疫応答の中心として機能している.また,その機能不全や異常活性化がさまざまな病態に関与していることが示唆されている.慢性疼痛は,単なる痛みだけの疾患ではなく,人間(ヒト)に特有の多面的な疾患ともいえる.このヒト特有の疾患を研究するためには,当然ながらヒトの細胞を用いて実験する必要がある.しかし,そのハードルはきわめて高い.われわれは末梢血中の単球からミクログリア様細胞(induced microglia-like cells:iMG細胞)を作製する技術開発に成功した.iMG細胞は,単球にGM-CSFとIL-34の2種類のサイトカインを添加して2週間培養するだけで作製することが可能である.iPS細胞と異なり,遺伝子組み換えの操作を行わない化学誘導によって作製が可能なため,簡便で安全性が高く,一般臨床施設においても作製が容易である.われわれはこのiMG細胞を用いて那須・ハコラ病や双極性障害といった疾患におけるミクログリア異常を報告してきた.本稿では,われわれの開発したiMG細胞のトランスレーショナル研究ツールとしての有用性と可能性についてこれまでの結果を報告し,線維筋痛症を対象としたトランスレーショナル研究の実際を報告する.
著者
他田 真理 池内 健 竹林 浩秀 加藤 隆弘 柿田 明美
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

白質の恒常性維持機構のキープレイヤーはミクログリアとアストロサイトである。私たちはミクログリアの分化や機能に必須であるCSF1Rの変異によるAdult-onset leukoencephalopathy with axonal spheroids and pigmented gliaの患者脳に、ミクログリアの異常に加え、アストロサイトの過剰な反応と変性を見出し、ミクログリアの機能不全によるアストロサイトへの制御機構の破綻が白質変性を引き起こすという仮説を得た。本研究では、ミクログリオパチーをモデルとして、ミクログリアによるアストロサイトの制御機構の存在とその白質変性への関与を証明する。
著者
神庭 重信 牧之段 学 平野 羊嗣 加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

統合失調症は重篤な社会機能の障害を来す難治性精神疾患であり、神経シナプスの伝達異常仮説を元にして様々な研究がなされてきたが、未だ病態生理は十分には解明されていない。近年、神経系異常に加えて、脳内炎症をはじめとする免疫異常が統合失調症ばかりではなく気分障害・発達障害など様々な精神疾患で示唆され、我々は神経活動異常仮説に加えて、精神疾患ミクログリア仮説を先駆けて提唱してきた。本研究ではこれまで我々が提唱し報告してきた、精神疾患の脳波異常(特にガンマオシレーション異常)と神経免疫異常(特にミクログリアの活動性異常)に関して両仮説の解明とその両者をつなぐ橋渡し研究の成果を論文として報告してきた。
著者
加藤 隆弘
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.40-45, 2020 (Released:2020-03-30)
参考文献数
39

神経のシナプス間の神経伝達異常仮説に基づいた精神疾患の治療薬の開発がすすめられてきたが,実際には画期的な創薬には未だ到達しておらず,ほとんどの精神疾患では病態すら十分には解明されていない。脳内細胞ミクログリアはサイトカインやフリーラジカルを産生することで脳内免疫細胞として働き,近年ではシナプスと断続的に接触していることも判明し,精神疾患の病態への関与が示唆されはじめている。本稿では筆者らが十年来提唱してきた精神疾患のミクログリア病態治療仮説,および,仮説解明のために推進している主に血液を用いた橋渡し研究を紹介する。
著者
神庭 重信 加藤 隆弘
出版者
九州大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

精神疾患患者を含む患者でのミクログリア異常を解明するための橋渡し研究ツールとして、末梢血単球に2種類のサイトカインを添加することでわずか2週間で作製可能な直接誘導ミクログリア様細胞(iMG細胞)を独自開発し、一次性ミクログリア病の那須ハコラ病患者、双極性障害患者、線維筋痛症患者で、iMG細胞の活性レベルが重症度と相関するなど疾患特異的な興味深い反応の抽出に成功した。さらに、ヒト線維芽細胞由来直接誘導ニューロン(iN細胞)の作製技術を自身のラボで改良し、わずか1週間で誘導可能な早期iN細胞の作製に独自で成功し、NF1患者由来の早期iN細胞において興味深い遺伝子発現パターンを見出すことに成功した。
著者
加藤 隆弘 扇谷 昌宏 桑野 信貴 瀬戸山 大樹 康 東天 神庭 重信
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.182-188, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
43

近年,うつ病をはじめとする気分障害において脳内炎症,特に,脳内免疫細胞ミクログリア活性化がその病態生理に重要である可能性が示唆されており,筆者らは10年来ミクログリア活性化異常に着目した気分障害の病態治療仮説を提唱してきた。ヒトでミクログリアの活動性を探る代表的な方法として死後脳の解析やPETを用いた生体イメージング技術が用いられているが,こうした方法だけではミクログリアのダイナックで多様な活動性を十分に捉えているとは言い難いのが現状である。筆者らは,間接的にミクログリア活性化を評価するための血液バイオマーカー研究を推進してきた。一つは,ヒト末梢血単球にGM‐CSFとIL‐34を添加することで2週間で作製できる直接誘導ミクログリア様(iMG)細胞を用いた精神疾患モデル細胞研究であり,もう一つは,血漿・血清を用いたメタボローム解析・リピドーム解析などの網羅的解析研究である。本稿では,こうしたヒト血液を用いてのミクログリアに焦点を当てた橋渡し研究を紹介する。
著者
松本 京子 岳野 公人 浦田 慎 松原 道男 加藤 隆弘 鈴木 信雄 早川 和一
出版者
一般社団法人 日本環境教育学会
雑誌
環境教育 (ISSN:09172866)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1_16-22, 2017 (Released:2018-06-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

This study clarifies the factors that influence children’s settlement intention in rural areas through community-based education. Derived from a questionnaire that surveyed elementary and junior high school students, we found that offering an education focusing on marine studies made a significant contribution to a child’s motivation to learn marine education, to participate in community festivals, participate in community events other than community festivals and to take pride in local products. This confirms that contact with nature and developing pride in the natural surroundings of the community heighten involvement in the community and children’s settlement intention.