著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.236-256, 2019

<p> 本研究では,小学校高学年児の国際児が,親の支援を受けながら現地校と補習校の宿題を遂行する過程で,どのような家族間調整がなされているのかを独日国際家族の事例に基づいて検討した.日本人母親が記録した約4 年間の日誌記録を「生態学的システム」の修正モデルを分析枠組みにして,家族間の調整過程を具体的に分析した結果,次の3 点が明らかになった.第一に,父母間では,対象児の学年に拘らず,自分が母語とする言語の宿題を支援する言語別役割分担を基本とする支援パターンが形成されていた.第二に,この言語別役割分担は,宿題をめぐる親子間調整の基本単位ともなっていた.現地校宿題をめぐる父子間調整は円滑に進んでいたが,補習校宿題をめぐる母子間調整では対立が頻発していた.第三に,対象児は,自分と活動(宿題遂行)との間に不具合が生じた時に,自らの環境認知に基づいて親に働きかけたり自らの行動を変化させたりする調整を行っていた.対象児の調整過程では,「役割期待」「時間展望」「目標構造」という3 つの軸が参照されていたと考えられる.</p>
著者
ビアルケ (當山) 千咲 柴山 真琴 高橋 登 池上 摩希子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.102-117, 2019 (Released:2021-04-26)
参考文献数
19

本研究は,ドイツの補習校に通い,ドイツ語を優勢言語,日本語を継承語とする独日国際児の事例において,二つの異なるジャンルの二言語の作文力が,小4から中3まででどのように形成されるのかを分析した。対象児は,日本居住の日本語母語児に比べ産出量や語彙,構文の多様性等の伸びが遅れながらも,談話レベルでは母語児に近い評価の作文を書いていた。その背景を二言語作文の縦断的分析により探ったところ,優勢なドイツ語に牽引されるように日本語も伸び,まず接続表現や構文の複雑化によって論理的つながりが改善され,次に全体構成や内容の高度化が生じることがわかった。またドイツ語作文のレベルに近い日本語作文を,限られた日本語の表現手段を工夫して書いているが,複雑な内容の説明における文法的誤用や漢字熟語の不足等に表現上の困難が見られた。以上の発達過程の特徴から,補習校での指導への示唆を抽出した。
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.357-367, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
30

本稿では,国際結婚家族の子どもが二言語で同時に読み書き力を習得するという事態を,個人の国境を越えた移動に伴う国際結婚の増加というグローバル化時代の一側面として捉え,こうした時代性と子どもの言語習得とのインターフェースでどのような家族内実践が行われているのかを,ドイツ居住の独日国際家族の事例に基づいて紹介した。特に子どもの日本語の読み書き力形成にかかわる家族内実践にみられる特徴として,(1)現地の学校制度的・言語環境的要因に規定されつつも,利用可能な資源を活用しながら,親による環境構成と学習支援が継続的に行われていること,(2)家族が直面する危機的状態は,子どもの加齢とともに家庭の内側から生じているだけでなく,家庭と現地校・補習校との関係の軋みからも生じているが,家族間協働により危機が乗り越えられていること,が挙げられた。ここから,今後の言語発達研究に対する示唆として,(1)日本語学習児の広がりと多様性を視野に入れること,(2)子どもの日本語習得過程を読み書きスキルの獲得に限局せずに長期的・包括的に捉えること,(3)子どもが日本語の読み書きに習熟していく過程を日常実践に埋め込まれた協働的過程として捉え直すこと,の3点が引き出された。
著者
ビアルケ (當山) 千咲 青木 幸子
出版者
国際基督教大学
雑誌
教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
no.47, pp.135-143, 2005-03

In the changing society in postmodern age, it is becoming more necessary to focus on the individuals who assign meanings to their various experiences and construct the lives from their own unique point of view. The purpose of this article is to reconstruct a life story told by one woman in an autobiographical narrative interview and to consider the meanings of her experiences at school in the context of her whole life process. This analysis is based on the "Case-Mediated Approach" developed by S. Mizuno. Its primary task is a particular understanding of the case in question which should be followed by comparative analyses of other cases to approach the research objective. The case is analysed by focusing not only on main topics which are selected and arranged by the interviewee in a particular order, but also on changing perspectives over time from which the interviewee told her life story. Thus, her life story is elucidated by distinguishing the factual life process which consists of her experiences and actions in the past from her retrospective interpretation of her life. After this reconstruction, the following question is examined: which sustained effects do her experiences at school such as teacher-student-relationships and peer relationships have on the sequential process of her further life and how are these experiences embedded in the whole context of her social environment in each life stage? The analysis of an individual case presented here indicates the possibility to approach meanings of the school in a new way that has not been attempted by previous studies on school education.
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.357-367, 2016

<p>本稿では,国際結婚家族の子どもが二言語で同時に読み書き力を習得するという事態を,個人の国境を越えた移動に伴う国際結婚の増加というグローバル化時代の一側面として捉え,こうした時代性と子どもの言語習得とのインターフェースでどのような家族内実践が行われているのかを,ドイツ居住の独日国際家族の事例に基づいて紹介した。特に子どもの日本語の読み書き力形成にかかわる家族内実践にみられる特徴として,(1)現地の学校制度的・言語環境的要因に規定されつつも,利用可能な資源を活用しながら,親による環境構成と学習支援が継続的に行われていること,(2)家族が直面する危機的状態は,子どもの加齢とともに家庭の内側から生じているだけでなく,家庭と現地校・補習校との関係の軋みからも生じているが,家族間協働により危機が乗り越えられていること,が挙げられた。ここから,今後の言語発達研究に対する示唆として,(1)日本語学習児の広がりと多様性を視野に入れること,(2)子どもの日本語習得過程を読み書きスキルの獲得に限局せずに長期的・包括的に捉えること,(3)子どもが日本語の読み書きに習熟していく過程を日常実践に埋め込まれた協働的過程として捉え直すこと,の3点が引き出された。</p>
著者
ビアルケ(當山) 千咲
出版者
国際基督教大学
雑誌
国際基督教大学学報. I-A, 教育研究 (ISSN:04523318)
巻号頁・発行日
vol.46, pp.153-161, 2004-03

The purpose of this article is to review the development of qualitative studies on school and childhood as well as youth in Germany. The focus of this review will be on studies dealing with the changing experiences of students at school in the post modern age. Moreover, comparable changes in the relationships between students and school in Japan will be also taken into consideration. Studies on this issue in Germany are characterized by the following two points: The first is that perspectives of the studies on school as well as those on childhood and youth are converging increasingly. The second is that research perspectives on the macro, meso, and micro levels are connected with each other. This article deals with two topics which contributed in 1980s to forming the basis of the actual trend mentioned above: "individualization theory" discussed by U. Beck as well as "narrative analysis" developed by F. Schiitze. Then, light will be thrown upon the development of life story studies of students which have been forming the main stream of qualitative research in Germany. Finally, implications of this research trend in Germany for Japanese contemporary situation will be discussed. It indicates the necessity to pay attention to subjective perspectives of individual students who have their own life stories and to explore what they experience school.
著者
ビアルケ(當山) 千咲
出版者
母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究会
雑誌
母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)研究
巻号頁・発行日
no.7, pp.87-105, 2011-03-31

多言語環境に暮らす家族が子どもへの少数言語の継承を望み言語選択をしても、現実にはそれが困難である場合が少なくない。本稿は母語/継承語の保持に重要な影響を与える家庭の言語使用に焦点を当て、母語/継承語の使用を困難にする諸要因の特定を試みた。具体的には、家庭で母語/継承語を使用する生徒の低ドイツ語力が近年問題化しているドイツを取り上げ、3校の母語/継承語補習校(日本語、ポーランド語、ロシア語)の生徒を対象とする質問紙調査のデータを分析した。その結果、生徒の4分の3は高いドイツ語力をもち、半数はドイツ語力も母語/継承語力も高いこと、家庭での母語/継承語使用量は彼らの母語/継承語力と関連しているが、ドイツ語力とは関連していないことが分かった。また少数言語母語話者の親のドイツ語力が高く、その配偶者の少数言語力が低く、子どもがドイツ生まれの場合、特にドイツ語使用にシフトする傾向が明らかになった。