著者
柴山 真琴
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.120-131, 2007-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究では,保育園児を持つ共働き夫婦が子どもの送迎分担をどのように調整しているのかを質的に分析した。データは,私立J保育園を利用する28家族についての送迎記録表と,2001年3月から8月の間に10家族を対象に実施したインタビューによって得た。分析の結果,送迎分担には,(I)母専任型,(II)父母分担型, (III)父専任型,(IV)祖母依存型(下位タイプ:(a)父母+祖母型,(b)母+祖母型),(V)ベビーシッター利用型,の5タイプがあることがわかった。この送迎分担タイプと夫婦間での調整過程(調整過程で使用される相互作用様式,送迎分担についての妻の考え,調整過程での妻の主導的役割の有無)との間には対応関係があった。父親が送迎を分担しない家族(I,IV(b),V)では,妻の多くが送迎は自分の仕事と考え,夫に働きかけて話し合うこともなく,妻が送迎の方針を決めて送迎を実行していた。特に前二者のタイプでは,「暗黙の了解」「話し合いせず」「話し合い不成立」という夫婦間で調整をしない相互作用様式が使用されていた。一方,父親が送迎を分担する家族(II,III,IV(a))では,妻の多くが送迎は夫婦で分担すべきであると考え,夫が送迎を分担するよう積極的に働きかけ,「話し合い」によって形成したルールに従って夫婦で送迎を分担していた。
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究
巻号頁・発行日
vol.2019, no.29, pp.236-256, 2019

<p> 本研究では,小学校高学年児の国際児が,親の支援を受けながら現地校と補習校の宿題を遂行する過程で,どのような家族間調整がなされているのかを独日国際家族の事例に基づいて検討した.日本人母親が記録した約4 年間の日誌記録を「生態学的システム」の修正モデルを分析枠組みにして,家族間の調整過程を具体的に分析した結果,次の3 点が明らかになった.第一に,父母間では,対象児の学年に拘らず,自分が母語とする言語の宿題を支援する言語別役割分担を基本とする支援パターンが形成されていた.第二に,この言語別役割分担は,宿題をめぐる親子間調整の基本単位ともなっていた.現地校宿題をめぐる父子間調整は円滑に進んでいたが,補習校宿題をめぐる母子間調整では対立が頻発していた.第三に,対象児は,自分と活動(宿題遂行)との間に不具合が生じた時に,自らの環境認知に基づいて親に働きかけたり自らの行動を変化させたりする調整を行っていた.対象児の調整過程では,「役割期待」「時間展望」「目標構造」という3 つの軸が参照されていたと考えられる.</p>
著者
ビアルケ (當山) 千咲 柴山 真琴 高橋 登 池上 摩希子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.172, pp.102-117, 2019 (Released:2021-04-26)
参考文献数
19

本研究は,ドイツの補習校に通い,ドイツ語を優勢言語,日本語を継承語とする独日国際児の事例において,二つの異なるジャンルの二言語の作文力が,小4から中3まででどのように形成されるのかを分析した。対象児は,日本居住の日本語母語児に比べ産出量や語彙,構文の多様性等の伸びが遅れながらも,談話レベルでは母語児に近い評価の作文を書いていた。その背景を二言語作文の縦断的分析により探ったところ,優勢なドイツ語に牽引されるように日本語も伸び,まず接続表現や構文の複雑化によって論理的つながりが改善され,次に全体構成や内容の高度化が生じることがわかった。またドイツ語作文のレベルに近い日本語作文を,限られた日本語の表現手段を工夫して書いているが,複雑な内容の説明における文法的誤用や漢字熟語の不足等に表現上の困難が見られた。以上の発達過程の特徴から,補習校での指導への示唆を抽出した。
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.357-367, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
30

本稿では,国際結婚家族の子どもが二言語で同時に読み書き力を習得するという事態を,個人の国境を越えた移動に伴う国際結婚の増加というグローバル化時代の一側面として捉え,こうした時代性と子どもの言語習得とのインターフェースでどのような家族内実践が行われているのかを,ドイツ居住の独日国際家族の事例に基づいて紹介した。特に子どもの日本語の読み書き力形成にかかわる家族内実践にみられる特徴として,(1)現地の学校制度的・言語環境的要因に規定されつつも,利用可能な資源を活用しながら,親による環境構成と学習支援が継続的に行われていること,(2)家族が直面する危機的状態は,子どもの加齢とともに家庭の内側から生じているだけでなく,家庭と現地校・補習校との関係の軋みからも生じているが,家族間協働により危機が乗り越えられていること,が挙げられた。ここから,今後の言語発達研究に対する示唆として,(1)日本語学習児の広がりと多様性を視野に入れること,(2)子どもの日本語習得過程を読み書きスキルの獲得に限局せずに長期的・包括的に捉えること,(3)子どもが日本語の読み書きに習熟していく過程を日常実践に埋め込まれた協働的過程として捉え直すこと,の3点が引き出された。
著者
柴山 真琴
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.211-220, 1994-01-31

Rapid growth of Thai economy in the 1980's brought about a dramatic increase of Japanese sojourners, which affected Japanese community and socialization environments for Japanese children in Bangkok. This paper is to describe characteristics of socialization environments surrounding children in 1990 comparing with those in the middle of the 1970's which Ebuchi described. One year's participant observation in 1990-1991 found : (1) a drastic increase in the number of Japanese sojourners, along with fewer residential quarters considered to be appropriate for foreigners to live in Bangkok, caused high concentration of Japanese families in a same apartment house, which resulted in a particular pattern of children's circle, that is, playing with the same Japanese children in the same building, (2) the move of Japanese school from the central Bangkok to its suburb forced Japanese school children to be confined in a school bus for an hour or so which curtailed their direct contact with Thai society, (3) an increse of vehicles and poorly equipped traffic facilities prevented Japanese children from going out alone to spend time with their friends without adult supervision, (4) prevalent among Japanese children were Japanese TV games, Japanese video-tapes and Japanese magazines and so on, (5) very limited ability to understand Thai language prevented Japanese children from getting acquainted with social realities of Thailand through mass media, and (6) social contact with Thai people in and out of their families and school remained at the superficial level; consequently their understanding of realities of Thai society is poor. These findings indicate that realities of Japanese children growing up in Bangkok is far from the ideal of overseas education advocated by the Ministry of Education. In order to mitigate unfavorable socialization environments, three proposals were made. (1) The concept of child rearing currently prevailing among Japanese parents and teachers in Bangkok was that children must be prepared for making a smooth transition academiccally and socially at the time of their return to Japan. This concept should be transformed into fostering strength in children to overcome difficulties under unfavorable circumstances. (2) The Japanese school in Bangkok should be re-organized as a center for understanding Thai culture and society for both children and parents. And (3) Japanese parents should be provided with the inter-cultural training which enabled them to understand their problems they faced in Bangkok.
著者
柴山 真琴 ビアルケ(當山) 千咲 高橋 登 池上 摩希子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.357-367, 2016

<p>本稿では,国際結婚家族の子どもが二言語で同時に読み書き力を習得するという事態を,個人の国境を越えた移動に伴う国際結婚の増加というグローバル化時代の一側面として捉え,こうした時代性と子どもの言語習得とのインターフェースでどのような家族内実践が行われているのかを,ドイツ居住の独日国際家族の事例に基づいて紹介した。特に子どもの日本語の読み書き力形成にかかわる家族内実践にみられる特徴として,(1)現地の学校制度的・言語環境的要因に規定されつつも,利用可能な資源を活用しながら,親による環境構成と学習支援が継続的に行われていること,(2)家族が直面する危機的状態は,子どもの加齢とともに家庭の内側から生じているだけでなく,家庭と現地校・補習校との関係の軋みからも生じているが,家族間協働により危機が乗り越えられていること,が挙げられた。ここから,今後の言語発達研究に対する示唆として,(1)日本語学習児の広がりと多様性を視野に入れること,(2)子どもの日本語習得過程を読み書きスキルの獲得に限局せずに長期的・包括的に捉えること,(3)子どもが日本語の読み書きに習熟していく過程を日常実践に埋め込まれた協働的過程として捉え直すこと,の3点が引き出された。</p>
著者
柴山 真琴
出版者
東京大学教育学部
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.211-220, 1994-01-31

Rapid growth of Thai economy in the 1980's brought about a dramatic increase of Japanese sojourners, which affected Japanese community and socialization environments for Japanese children in Bangkok. This paper is to describe characteristics of socialization environments surrounding children in 1990 comparing with those in the middle of the 1970's which Ebuchi described. One year's participant observation in 1990-1991 found : (1) a drastic increase in the number of Japanese sojourners, along with fewer residential quarters considered to be appropriate for foreigners to live in Bangkok, caused high concentration of Japanese families in a same apartment house, which resulted in a particular pattern of children's circle, that is, playing with the same Japanese children in the same building, (2) the move of Japanese school from the central Bangkok to its suburb forced Japanese school children to be confined in a school bus for an hour or so which curtailed their direct contact with Thai society, (3) an increse of vehicles and poorly equipped traffic facilities prevented Japanese children from going out alone to spend time with their friends without adult supervision, (4) prevalent among Japanese children were Japanese TV games, Japanese video-tapes and Japanese magazines and so on, (5) very limited ability to understand Thai language prevented Japanese children from getting acquainted with social realities of Thailand through mass media, and (6) social contact with Thai people in and out of their families and school remained at the superficial level; consequently their understanding of realities of Thai society is poor. These findings indicate that realities of Japanese children growing up in Bangkok is far from the ideal of overseas education advocated by the Ministry of Education. In order to mitigate unfavorable socialization environments, three proposals were made. (1) The concept of child rearing currently prevailing among Japanese parents and teachers in Bangkok was that children must be prepared for making a smooth transition academiccally and socially at the time of their return to Japan. This concept should be transformed into fostering strength in children to overcome difficulties under unfavorable circumstances. (2) The Japanese school in Bangkok should be re-organized as a center for understanding Thai culture and society for both children and parents. And (3) Japanese parents should be provided with the inter-cultural training which enabled them to understand their problems they faced in Bangkok.
著者
柴山 真琴
出版者
一般社団法人日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.120-131, 2007-08-10

本研究では,保育園児を持つ共働き夫婦が子どもの送迎分担をどのように調整しているのかを質的に分析した。データは,私立J保育園を利用する28家族についての送迎記録表と,2001年3月から8月の間に10家族を対象に実施したインタビューによって得た。分析の結果,送迎分担には,(I)母専任型,(II)父母分担型, (III)父専任型,(IV)祖母依存型(下位タイプ:(a)父母+祖母型,(b)母+祖母型),(V)ベビーシッター利用型,の5タイプがあることがわかった。この送迎分担タイプと夫婦間での調整過程(調整過程で使用される相互作用様式,送迎分担についての妻の考え,調整過程での妻の主導的役割の有無)との間には対応関係があった。父親が送迎を分担しない家族(I,IV(b),V)では,妻の多くが送迎は自分の仕事と考え,夫に働きかけて話し合うこともなく,妻が送迎の方針を決めて送迎を実行していた。特に前二者のタイプでは,「暗黙の了解」「話し合いせず」「話し合い不成立」という夫婦間で調整をしない相互作用様式が使用されていた。一方,父親が送迎を分担する家族(II,III,IV(a))では,妻の多くが送迎は夫婦で分担すべきであると考え,夫が送迎を分担するよう積極的に働きかけ,「話し合い」によって形成したルールに従って夫婦で送迎を分担していた。
著者
松尾 知明 乾 美紀 澤田 稔 柴山 真琴 津村 公博 徳井 厚子 野崎 志帆 馬渕 仁 見世 千賀子 森茂 岳雄
出版者
国立教育政策研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、外国人児童生徒教育の現状及び最善の実践を把握するとともに、これらの取り組みを諸外国の多文化教育の視点から批判的に比較検討することを通して、日本版の多文化教育モデルの構築をめざすことを目的とする。(1)多文化教育の理念と枠組み(4論文)、(2) 多文化教育と学校(4論文)、(3) 多文化教育と地域(3論文)を提示するとともに、まとめとして、多文化共生の実現に向けたプロセスを日本社会の構築→脱構築→再構築として整理した。
著者
先﨑 真奈美 柴山 真琴
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.221-231, 2010

本研究では,幼児期までに異なった自己制御行動を発達させつつあるとされる小学生が出会い,同じ活動に参加する時に,どのような自己制御行動をとるかを,ある体操教室でのフィールドワークに基づいて明らかにすることを目的とする。研究方法は,エスノグラフィーの手法を採用し,実際の場面で子どもが他者とやりとりをする中で,自己制御行動がどのように生起しているのかを検討した。日本学校通学児5名と国際学校通学児3名を対象とし,2006年7月から2007年3月までの間に23回観察を行った。分析の結果,国際学校通学児は自己主張・実現行動の方略が日本学校通学児よりも多様であるだけでなく,自己主張行動では複数の自己主張・実現行動カテゴリーを組み合わせた方略を用いていた。一方,日本学校通学児は,自己抑制行動の対象とする幅が国際学校通学児よりも広く,さらに自己主張・実現行動とも自己抑制行動とも捉えられる自己主張/自己抑制行動をとっていることが明らかになった。