著者
七田 崇
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.72, 2016 (Released:2018-08-26)
参考文献数
2

西アフリカでエボラ出血熱が流行し,地球規模の混乱を引き起こしたことは記憶に新しい.現地で医療活動に当たっていたアメリカ人がエボラウイルスに感染したことから,ワクチンをはじめとする治療手段の開発について世界的な関心をよんだ.本稿では,ツヅラフジ科植物であるシマハスノハカズラ(Stephania tetrandra S. Moore)に含まれるベンジルイソキノリンアルカロイド2量体のテトランドリンが,エボラ出血熱に対する優れた治療効果を持つことがSakuraiらによって報告されたので紹介する.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Sakurai Y. et al., Science, 347, 995-998 (2015).2) Kolokoltsov A. A. et al., Drug Dev. Res., 70, 255-265 (2009).
著者
七田 崇
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.1, pp.9-14, 2018
被引用文献数
5

<p>脳梗塞は脳卒中全体の7割程度を占め,脳組織が虚血壊死に陥ることにより炎症が惹起される.脳梗塞に対する有効な治療薬の開発は未だに十分ではない.脳梗塞後の炎症は,治療可能時間の長い新規治療薬の開発にあたって重要な治療標的となりえる.脳は無菌的な臓器であるため,脳細胞の虚血壊死に伴う自己組織由来の炎症惹起因子(DAMPs)の放出によって炎症が引き起こされる.DAMPsは脳血液関門を破綻させ,脳内に浸潤した免疫細胞を活性化して炎症を惹起する.ミクログリア,マクロファージ,T細胞は脳梗塞巣で炎症性因子を産生して梗塞体積の拡大,神経症状の悪化を引き起こす.T細胞はマクロファージに遅れて脳内に浸潤することから,脳梗塞における新規の治療標的として注目されている.脳梗塞後の炎症を抑制する治療法は有効性が見出されていないが,これはマクロファージやミクログリアが脳梗塞後の炎症の収束期には,修復性の機能を担う細胞へと転換するためであると考えられる.今後は,脳梗塞後の炎症が収束して修復に至るまでのメカニズムが詳細に解明されることにより,炎症の収束を早める治療法の開発に期待が高まっている.</p>
著者
中村 幸太郎 中村 朱里 大星 博明 七田 崇
出版者
日本脳循環代謝学会
雑誌
脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌) (ISSN:09159401)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.77-81, 2018

<p>脳梗塞後の炎症は,次世代における脳卒中医療のための治療標的として注目されている.脳梗塞では,細胞死に伴って放出されるダメージ関連分子パターン(DAMPs: damage-associated molecular patterns)がマクロファージ・好中球を活性化し,炎症性サイトカインが産生されると,さらにT 細胞を活性化して炎症を遷延化させる.発症3 日目にはスカベンジャー受容体MSR1 を発現する修復性マクロファージが脳内に出現し,DAMPsを排除して炎症を収束させ,神経栄養因子を産生することによって修復に働く.脳梗塞における無菌的炎症は,DAMPs の働きのように,脳が自律的に制御する生体防御の一環であると捉えることができる.</p>