著者
三友 仁志
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.37-46, 2015 (Released:2015-07-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本論文では、地域情報化に内在する諸課題の解決を目指した、ユニバーサルサービス提供のための新しい枠組みを提案するともに、そのメリット・デメリットを考察し、実行可能性を検討する。条件不利地域においては、通信をあまねく利用可能とするため、ユニバーサルサービス基金制度に基づき適格通信事業者の費用を一部補填することにより、現状、アナログ固定電話を対象としてユニバーサルサービス制度が維持されている。光ネットワーク網の進展に伴い、光 IP 電話もユニバーサルサービスの対象に含まれたが、他方、携帯電話が普及し利便性も高いため、固定電話への依存度は下がっている。さらにブロードバンドの世帯カバー率も 100%に近づくなど、技術的な側面からも制度の抜本的な検討が迫られている。また、番号ユーザに全額転嫁されるというユニバーサルサービス基金への拠出の在り方にも消費者団体を中心に抵抗感が根強いため、費用負担の在り方にも再検討が必要である。一方、地域におけるブロードバンドの提供のため、2.5GHz 地域 BWA 帯が用意されているが、利用度は低く、その活用が喫緊の課題となっている。本発表では、これらの課題に総合的に対処し、地域情報化の維持発展のための枠組みを提案する。
著者
金 エリ 三友 仁志
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.1_57-1_70, 2011 (Released:2011-10-05)
参考文献数
38

本研究は、モバイル版SNSの典型的なサービスであるモバイルツイッターの主たる利用者である大学生に焦点を当て、その利用がユーザー間の関係性と社会に与える影響の実証的分析を行うことを目的とする。対象として、モバイルインターネットが世界で最も高度に利用されている日本と韓国を選び、両国の大学生において、人間関係や社会的な影響にいかなる効果を及ぼすかを実証的に検証する。分析の結果、モバイルツイッター利用によるユーザー間のコミュニケーションの頻度数は増えたが、実質的な人間関係の変化に与える影響は限られることがわかった。また、フォロワーが多い政治家や有名人などの影響力より、良質の情報を提供するユーザーの影響力の方が大きいという結果となった。このことから、今後提供される情報の内容は、さらに詳細に細分化された専門的なものになる可能性があることが示唆される。
著者
三友 仁志
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-31, 2021-11-30 (Released:2021-12-10)
参考文献数
20

2020年6月19日に提供が開始されたわが国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)は、陽性者との接触を利用者に通知することにより、利用者の行動変容を促し、感染症対策の一端を担うことが期待された。プライバシーに配慮するため、GoogleとAppleが開発したAPI(アプリ相互のやりとりに必要な接続仕様)を採用し、スマートフォンのBluetooth機能を利用して個人情報を収集しない形で接触確認する仕組みが採用された。多くのスマートフォン利用者がアプリをダウンロードすることにより、感染拡大の防止に貢献するという社会的メリットを政府は強調した。しかし、実際には2021年9月半ば時点で、延べ3千万ダウンロードにとどまっており、陽性登録率に関しては全陽性者の2.3%に過ぎない。本稿では、新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAに関して、①厚生労働省が発表するデータに基づき、普及の状況とその要因解明の可能性について分析し、②中国の接触確認アプリ「健康コード」および韓国の感染者移動経路管理と比較するとともに、③2021年3月に独自に研究室で実施したCOCOAに関するアンケート調査に基づき、COCOAのダウンロードが感染の拡大状況に感応的でないこと、および信用の欠如がアプリの導入や陽性登録に大きな影響を与えている実態を把握する。社会的便益を強調しても、導入のインセンティブとはならず、個人がアプリから知覚する便益は低く、期待される社会的便益の形成とは大きく乖離していることが効果の発現を妨げていると言える。デジタル技術の活用の恩恵を社会が受けるためには、技術だけでなく、社会にどのように浸透させるかに関する戦略が不可欠であることをCOCOAは示唆している。
著者
三友 仁志
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.15-31, 2021

<p>2020年6月19日に提供が開始されたわが国の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)は、陽性者との接触を利用者に通知することにより、利用者の行動変容を促し、感染症対策の一端を担うことが期待された。プライバシーに配慮するため、GoogleとAppleが開発したAPI(アプリ相互のやりとりに必要な接続仕様)を採用し、スマートフォンのBluetooth機能を利用して個人情報を収集しない形で接触確認する仕組みが採用された。多くのスマートフォン利用者がアプリをダウンロードすることにより、感染拡大の防止に貢献するという社会的メリットを政府は強調した。しかし、実際には2021年9月半ば時点で、延べ3千万ダウンロードにとどまっており、陽性登録率に関しては全陽性者の2.3%に過ぎない。</p><p>本稿では、新型コロナウイルス接触確認アプリCOCOAに関して、①厚生労働省が発表するデータに基づき、普及の状況とその要因解明の可能性について分析し、②中国の接触確認アプリ「健康コード」および韓国の感染者移動経路管理と比較するとともに、③2021年3月に独自に研究室で実施したCOCOAに関するアンケート調査に基づき、COCOAのダウンロードが感染の拡大状況に感応的でないこと、および信用の欠如がアプリの導入や陽性登録に大きな影響を与えている実態を把握する。社会的便益を強調しても、導入のインセンティブとはならず、個人がアプリから知覚する便益は低く、期待される社会的便益の形成とは大きく乖離していることが効果の発現を妨げていると言える。デジタル技術の活用の恩恵を社会が受けるためには、技術だけでなく、社会にどのように浸透させるかに関する戦略が不可欠であることをCOCOAは示唆している。</p>
著者
近藤 勝則 中村 彰宏 三友 仁志
出版者
公益財団法人 情報通信学会
雑誌
情報通信学会誌 (ISSN:02894513)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.35-44, 2015

近年、インターネットを利用すると同時に、テレビやラジオも視聴する、あるいは音楽も聞く、といった他の消費行動も同時に行う「インターネットのながら利用」が増加している。このようなインターネットのながら利用は、時間を多重的に使っている点に特徴があり、予算制約式に時間を含めて効用最大化行動を分析する枠組みでは、その便益を推計することは困難である。本研究では、その推計の1つの手法として、技術の進歩によってインターネットのながら利用ができるようになった点を新サービスの市場への投入と捉え、新サービスの登場による消費者便益の増加を推計する手法を援用して、インターネットのながら利用による便益の推計を試みた(推計の対象は「ながら利用ができること(機能)」ではなく、「インターネットをながら利用すること(利用実績)」)。<br>推計の結果、インターネットのながら利用による消費者余剰は平均的な利用者において約3,500円/日程度となっており、こうした新サービスは相応の便益を生じていることが示唆される。<br>また、本研究では利用できるデータの制約上スマホ普及前の時点でのインターネットのながら利用の便益を推計したが、現在のスマホの利用環境下ではさらに大きな便益が生じていることが推測される。
著者
三友 仁志 鬼木 甫 樋口 清秀 太田 耕史郎 実積 寿也 田尻 信行
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、わが国企業の情報化投資が当該企業あるいは産業のみならず、市場メカニズムを通じて消費者に対して及ぼす影響を理論的に解明し、併せて実証的統計的に分析することにある。平成17年度~19年度の研究期間を通じて、内外の研究動向の把握、専門家との意見交換、分析のための仮説モデルの構築、実証分析に用いるためのデータ収集、実証分析による仮説の検証、実証研究からのインプリケーションの抽出を遂行した。研究の遂行に当たっては、具体的には以下のようなテーマを取り上げた。(1)情報化が企業に与える便益のメカニズムの解明に関する研究の総括(2)情報化が消費者に与える便益のメカニズムの解明に関する実証研究(3)情報化と消費者保護に関する研究(4)通信と放送の融合にともなう市場メカニズムの変化に関する研究(1)については、企業部門における情報化投資メカニズムに関する研究の成果のまとめと総括を行い、情報化が消費者に与える影響の研究との関連を明らかにした。(2)については、情報化が消費者に与える便益のメカニズムの解明について、特に行動経済学から得られる知見を用いてこれまでの伝統的なミクロ経済学では分析しえなかった消費者行動(たとえば定額料金制度に対する選好など)に関する分析を行った。(3)については、情報化時代における消費者保護の問題について、主として個人情報保護法下における情報通信技術の活用とセキュリティ対策について研究を行った。(4)については、2011年に実施されるアナログ放送の停波とそれに伴うデジタルテレビへの移行に関して、企業並びに消費者に与える影響について研究を行った。
著者
三友 仁志 樋口 清秀 太田 耕史郎 実積 寿也 フィリップ 須貝 大塚 時雄 鬼木 甫
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、地球環境問題を軽減するための方策として、情報通信ネットワークの活用の可能性への着目し、その方向性を見出すことを目的とする。直接的な規制や経済学的な方法に加え、情報を適切に提供することによって人々を啓蒙し、より環境にやさしい行動をとることが可能となる。他方、これによって環境問題を認知するものの、行動に移らない可能性も指摘される。本研究では以下の3つのプロセスを通じて、かかる課題の解決を試みた:(1)情報通信の普及効果を把握するための評価モデルの確立;(2)情報通信の普及段階に応じた環境対応型産業政策とそれに呼応した企業戦略の明示;(3)従来の経済理論分析の下では十分に探索されてこなかった問題の検討。