- 著者
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三浦 まり
- 出版者
- 日本政治学会
- 雑誌
- 年報政治学 (ISSN:05494192)
- 巻号頁・発行日
- vol.73, no.1, pp.1_96-1_118, 2022 (Released:2023-06-16)
- 参考文献数
- 37
コロナ禍において顕在化した新たなケアの危機に焦点を当て、妊婦/母親/労働者の三領域における日本の政策対応の特色とその要因を分析する。雇用の危機と比べるとケアの危機への対応は鈍く、ケア提供者は二次的依存のために職や賃金を奪われ、ケアニーズもまた充足されなかった。このような事態となったのは、ケアの代表が不十分であり、行政による恣意的なニーズ解釈を許すことになったからである。それを防ぐにはケアの権利及びセクシュアルリプロダクティブ・ヘルス/ライツの保障が必要であることを指摘する。リプロの面では政策の前進も見られたが、これまでの政策基調であった「新自由主義的母性」―新自由主義的な女性労働力の活用と国家家族主義的な母性活用の結合―は、自己決定権の選択的拡大と異性愛規範の強化という新たなかたちで維持された。新自由主義の政策基調は強いものの、保守主義の強い影響力を理解することが、日本の政策対応の正確な把握には必要であることを明らかにする。