著者
三浦 浩治 佐々木 成朗
出版者
愛知教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

これまで知られていなかった超潤滑(超低摩擦)状態が、特徴的な条件・環境のもとで、観測されつつある。これらの摩擦、潤滑の素過程には、原子間結合の破断・生成が寄与するナノニュートンのオーダーから水素結合等が寄与するピコニュートンオーダーの力が関わっている。特に我々によって発見されたフラーレン分子をグラファイトに内包する炭素系超潤滑物質においては、従来の摩擦力測定装置の測定限界をこえるピコニュートンの力が働いている。まさに、これはブラウン運動の領域の熱揺らぎ力に匹敵する。したがって、超潤滑機構の詳細は、ピコニュートンの測定精度をもつ摩擦実験によって明らかになることが期待される。本研究では炭素系超潤滑物質の超潤滑機構を高精度の摩擦力測定により次に示す2点から系統的に調べた。(1) 荷重に対する摩擦力の測定と解析。(2) 速度に対する摩擦力の測定と解析。まず、荷重が100nN以下のとき、摩擦力は実験誤差内でほぼゼロを示す。荷重が100nNまで増加すると、摩擦力像に明確なC_<60>の稠密構造を反映した周期像が現れると同時に有限な摩擦力が出現する。この結果は、荷重の増加によって、グラファイト表面による圧縮で内在するC_<60>分子の動作が凍結されるかC_<60>分子とグラフェン間の化学結合の形成が起こることを示唆している。すなわち、このことは、C_<60>分子の回転や揺らぎの流動性が固体潤滑における超低摩擦発現に極めて重要であることを意味している。さらに、摩擦力が走査方向依存性を示さなかったことより、C_<60>単分子層の多層効果が現れている。走査速度が数10μm/secまでは、摩擦力においては変化がなかったため、この速度内では、超低摩擦が維持されていることを示唆している。
著者
三浦 浩治 佐々木 成朗 石川 誠 板村 賢明
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.30, no.10, pp.554-559, 2009-10-10 (Released:2009-10-22)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

We systematically discuss frictional properties occurring in atomic-force microscope (AFM) tip on graphite system, the graphite/C60/graphite system, and the C60 intercalated graphite system. Several possible mechanism to induced superlubricity of C60 intercalated graphite system are proposed and discussed. It can be expected that the superlubricity is induced by internal sliding between close-packed C60 monolayers and graphite layers. Our results propose one of the simple guidelines of designing practical superlubric system—reduction of the contact area between intercalated C60 and graphite sheet to the point-like contact. We anticipate our novel lubrication system to be a startpoint for developing more practical superlubricant using intercalated graphite, which will contribute to solving the energy and environmental problems.
著者
佐々木 成朗 三浦 浩治 板村 賢明
出版者
成蹊大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

フラーレン-黒鉛ハイブリッド超潤滑界面の摩擦過程を分子力学法で計算するシミュレータを開発し、本界面が走査方向に対して格子の整合・不整合に由来する顕著な異方性を示す事を明らかにした。特に整合性の良い[1010]方向の超潤滑の起源が、(1)C_<60>分子の微小回転(傾き)、(2)C_<60>分子とグラファイトとの点的接触及びそれが誘起するC_<60>分子の弾性変形である事を示した。そして[1230]方向の近似的なゼロ摩擦の出現理由が、隣接する2極小点間のエネルギーバリアが走査過程中消失しないで、常に存在するためである事を明らかにした。