著者
三浦綾希子
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.90, pp.191-212, 2012-06-15 (Released:2013-06-17)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

本稿は,フィリピン系ニューカマーが集うエスニック教会を対象に,その教育的役割を参加者に対するインタビューと参与観察から明らかにするものである。具体的には,教会の日曜学校とユースグループを教育的役割を担うものとして捉え,これら二つの育ちの場が参加者たちにとってどのような役割を果たすものなのかを親世代,子世代の世代間の差異に注目しながら描き出していく。 考察の結果,得られた知見は以下の通りである。第一に,日曜学校は親の子どもに対する教育期待を手助けする場,ユースグループは子どもや若者にルーツの確認や承認を与える場としての役割を担っていた。第二に,日曜学校は親の論理で成り立ち,ユースグループは若者や子どもの論理で成り立っているが,そこには親の期待の継承と断絶があった。親が子どもに期待する英語学習はユースグループでは継承されず,むしろ親が重視しないタガログ語が継承されていたが,教会内における友人関係の構築は親世代,子世代の両方で重視されるものであった。第三に,日曜学校にせよユースグループにせよ,これら二つの場は子どもたちがフィリピン系ニューカマーとして日本社会にうまく適応していくための役割を果たそうとするものであった。以上エスニック教会の教育的役割を見ていくことで,自ら資源を作り出すニューカマーの主体的営みを明らかにすることが可能となった。
著者
三浦 綾希子
出版者
中京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

フィリピン系ニューカマー第2世代とその母親たちに対するインタビュー調査を行った。対象者たちには2010年より断続的にインタビュー調査を行っており、今回の調査もその延長上にある。青年期へ突入した対象者たちのインタビューからは、フィリピン人母との関係性が成長するにつれて変化していることが分かった。特に、男女交際等について母親から干渉されることが多くなっており、それに対して反発する者もいれば、うまく交渉しつつやり過ごしている者もおり、その対応の仕方にはバリエーションが見られた。しかし、いずれの場合も母親と娘たちは親密な親子関係を築いており、フィリピン社会の特徴とされる「家族中心主義」が維持されている様相が見て取れた。また、コミュニティ内の人間関係が母親たちの娘への干渉を強める動機にもなっていることも明らかとなった。母親たちはコミュニティ内で早期に妊娠した者たちのことを念頭におき、娘たちが同様のことをしないよう、厳しく管理する。一方で娘たちは、コミュニティ内のメンバーと自らをうまく差異化することによって母親からの干渉にうまく対応しようとしていた。思春期以降、特に女性たちは親から性行動に対する干渉を受けることが海外の先行研究でも明らかにされているが、類似の傾向が日本でも見て取れた。ただし、日本の場合、両親というよりも母親からの干渉が強いことが特徴的であり、国際結婚家庭が多い日本の状況を反映したものであるといえそうである。