著者
上原 徹三 清水 由美子 荒井 秀一
出版者
武蔵工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

コンピュータによる自然言語研究で辞書とコーパス(文例集。文法情報を付加したものは特に有用)が重要である。単語辞書には読み・品詞情報の他に概念情報が望まれる。現在の日本語については、概念情報を与える単語辞書と文法情報を付加したコーパスが電子化データとして存在する。しかし、古典文に関してはそのような単語辞書もコーパスも存在しない。そこで、単語辞書とコーパスの整備とその応用に関する機能の試作と実験を行ない次の成果を得た。1.総索引からの品詞タグ付きコーパス変換作成機能の試作とそれによる古典文品詞タグ付きコーパスの試作紫式部日記などの日記文学および伊勢物語などの物語文学に関する市販の総索引から、品詞タグ付きコーパスに半自動変換を行った後、人手による修正で古典仮名文コーパスを完成した。2.品詞タグ付きコーパスによる確率的形態素解析上の古典仮名文コーパスを学習・評価データとする確率的形態素解析の実験と評価を実施した。評価においては、学習データとテストデータを順次ずらした繰返し実験により信頼度を求める等の配慮を行った。3.対訳辞書の見出し語の概念推定法訳語の概念が既知の対訳辞書を用いて、訳語からの見出し語概念の推定とその評価を実施した。本技術は、古語辞典(古典語見出しに対し現代語訳語を与える)による古典語の概念獲得の基礎技術となり得るものである。ただし、古語辞典から古語の概念を取得するという研究開始当初の目的は実現できなかった。これに関しては概念辞書の整備、概念推定法の改良など、さらに検討すべき課題がある。
著者
奥野 みどり 上原 徹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.177-189, 2019-04-15 (Released:2019-04-26)
参考文献数
38

目的 保健師がやり取り遊び等を介して乳幼児の社会性や言語発達,微細運動等を評価する半構造化行動観察(Social Attention Communication Surveillance-Japan;以下,SACS-J課題項目)を導入し,自治体乳幼児健康診査(以下,健診)による継続追跡により得られた医学診断を基に,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;以下,ASD)診断との関連を検討した。方法 A町で平成23年・24年に生まれ,1歳半健診および3歳児健診のいずれも受診し,平成28年12月まで追跡できた372人を対象に,15か月,20か月(1歳半健診),27か月,38か月(3歳児健診)の各月齢時期の健診と並行し,SACS-J課題項目を用いて保健師が行動特性を評価した。医学診断によるASD診断群と医学診断に至らない定型発達群の2群について各月齢時期の行動特性との関連を統計的に比較した。結果 医学診断により,ASD診断8人が明らかになった。ASD群と定型発達群の2群を比較したところ,男児が女児に比してASD群の割合が高く[P<.05],「お座り」・「20か月時点での歩行開始」の獲得時期が定型発達群に比してASD群が有意に遅かった[P<.05]。SACS-J課題項目では,各月齢時期に共通して有意差が認められたのは,アイコンタクト(15か月[P<.05],20か月・27か月・38か月[P<.001],共同注意行動(15か月の「視野外の指さし理解」[P<.001],20か月の「大人」[P<.05],「自分」[P<.01],「応答の指さし」[P<.05],27か月の「自発的提示」[P<.001]),言語発達(15か月[P<.01],20か月[P<.01],27か月・38か月[P<.001])であった。微細運動は,15か月[P<.001],27か月[P<.01]において,定型発達群に比してASD群が有意に高かった。結論 保健師による標準化された行動観察評価を1歳半健診前からの早期に導入することで,ASDが疑がわれる児を自治体における公衆衛生活動のレベルで早期に同定し,地域での保健指導や養育発達支援に結び付けられる可能性が示された。
著者
青木 一治 木村 新吾 友田 淳雄 上原 徹 鈴木 信治
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.197-197, 2003

【はじめに】腰椎椎間板ヘルニア(以下,HNP)患者の下肢の筋力低下は日常よく経験する。しかし,術後それらの筋力の回復過程に関する報告は少なく,そもそも筋力低下が回復するかどうか,どの程度の筋力低下なら実用段階まで回復の望みがあるのかなど,患者への説明に苦慮するのが現状であろう。今回,HNP患者の術後筋力回復経過を調査し,若干の知見を得たので報告する。【対象】手術目的で入院し,下肢筋力が徒手筋力テスト(以下,MMT)で4レベル以下であったHNP患者で,術後経過を観察できた35名(男30名,女5名)37肢,平均年齢40.7歳を対象とした。障害HNP高位はL4/5:25名,L5/S1:10名であった。HNPのタイプは,subligamentous extrusion(以下,SLE)10名,transligamentous extrusion(以下,TLE)17名,sequestered(以下,SEQ)8名であった。手術は全て顕微鏡下椎間板摘出術を行った。【方法】筋力測定は全てMMTで,各被験者につき同一検者が行い,前脛骨筋(以下,TA),長母指伸筋(以下,EHL),腓腹筋(以下,GC)および長母指屈筋(以下,FHL)の何れかに低下があるもので,術後筋力の推移をみた。追跡期間は最長6年で,平均11.1ヵ月であった。【結果】それぞれの筋で経過をみると,TAでは,3,4レベルのものは1ヵ月から6ヵ月の間に多くが回復していた。1,2レベルでは6ヵ月頃までには3,4レベルまで回復するが,その後5まで回復するものは少なかった。また,0の症例では1年経っても1レベルであったが,その後回復を始め,6年後には3レベルまで回復していた。EHLでも同様の傾向があり,1,2レベルのものは1年ほど経過を見ても3,4レベルの回復であった。GCでは,2レベルが境になっているようで,5まで回復するものと,大きな回復を見ないものがいた。FHLもGC同様の傾向であった。このように筋力の回復は,3,4レベルでは術後3ヵ月以内に回復するものが多いが,1,2レベルのものでは6ヵ月から1年の経過を要し,ある程度実用段階まで回復するが,長期間を要する。筋力の回復をHNPのタイプで比較すると,TA,EHLではSEQのもので著明な筋力低下を来しているものが多く,TLEでは0,1のものは予後が悪かった。一方GC,FHLはSEQでも術後の回復は良い傾向にあったが,GCの1,2レベルのものは筋力の回復をみないものもあった。【結語】術前の筋力と比較すると,何らかの回復をみたものが多かった。筋力の回復経過では,術前3レベル以上のものは数ヵ月で回復が期待できることが分かった。1,2レベルのものは,中には4,5レベルに回復するものもいるが,多くは4レベル未満の傾向が強く,完全な実用段階の回復ではなかった。