著者
上村 博司 窪田 吉信
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

前立腺癌の発生および進展には、男性ホルモンであるアンドロゲンとアンドロゲン受容体が大きく関わっている。初期治療としてのホルモン療法は、完全に癌細胞を死滅させることはできず、治療を開始して数年後には多くの症例がホルモン非依存性を示し、再燃癌へと進んでいく。このメカニズムとして、ホルモン非依存性癌細胞からのパラクリンあるいはオートクリン作用として分泌される増殖因子やサイトカインが再燃への進展機序に関与していることが挙げられる。我々は、高血圧に関わるペプチドであるアンジオテンシンIIが前立腺癌細胞の増殖効果を持ち、降圧剤であるアンジオテンシンII受容体ブロッカー(ARB)が癌細胞の増殖抑制および抗腫瘍効果を持つことを解明し発表した。興味あることに、前立腺癌細胞や間質細胞はアンジオテンシンII受容体(AT1レセプター)を発現していることも、我々は確認している。このことは、ARBが前立腺癌細胞や間質細胞にも作用することを意味しており、ARBが前立腺癌に効果があることを示唆している。この研究では、前立腺癌細胞と間質細胞に対して増殖作用のあるアンジオテンシンIIに焦点をあてた。前立腺癌組織においてレニン-アンジオテンシン系(前立腺RAS)が存在するかどうかを、real time RT-PCRを使って調べた。結果は、正常前立腺や未治療前立腺癌に比べ、再燃前立腺癌で、AT1レセプターやアンジオテンシノーゲン、ACEなどが有意に強く発現していた。また、前立腺癌細胞であるLNCaP細胞をアンドロゲン、エストロゲン、デキサメタゾンや抗アンドロゲン剤で刺激すると、AT1レセプターが強く発現していることが分かった。以上の結果より、再燃癌はエストロゲン剤やデキサメタゾンなど各種治療が行われており、その結果、癌細胞でのAT1レセプターが強く発現し、ARBの効果が得やすいと推測された。
著者
長嶋 洋治 秋本 和憲 石黒 斉 青木 一郎 稲山 嘉明 上村 博司 佐藤 美紀子 谷口 多美代 水島 大一 泉澤 裕介 加藤 真吾
出版者
横浜市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

細胞極性の異常はがん細胞の主要な性質の一つである。本研究では細胞極性制御因子細胞極性制御因子atypicalprotein kinaseλ/ι(aPKCλ/ι)の各種癌組織、がん細胞における発現と局在を免疫組織化学的に検討した。また、前立腺癌においてaPKCλ/ιの下流に存在し、再発に促進的に働くことが細胞レベルで確認されたインターロイキン6(IL6)の発現についても検討した。これにより、胃癌、メラノーマ,膵臓癌,口腔癌,子宮頸癌についてもaPKCの過剰発現と転移や前癌状態からの進行との臨床的な相関を認めている。我々は前立腺癌ではaPKCとIL6の過剰発現との相関性を臨床検体で証明した。
著者
船橋 亮 槙山 和秀 土屋 ふとし 杉浦 晋平 三好 康秀 岸田 健 小川 毅彦 上村 博司 矢尾 正祐 窪田 吉信
出版者
泌尿器科紀要刊行会
雑誌
泌尿器科紀要 (ISSN:00181994)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.133-137, 2005-02

症例1(42歳男性).患者は他院で左精巣腫瘍(seminoma)の高位除精術を受け,その3年後にseminoma縦隔転移で化学療法を施行した.腫瘤は縮小したが,肝機能障害およびAFP高値(40ng/ml)遷延し,今回紹介入院となった.C型肝炎の活動性上昇からAFPのLCA分画測定を行い,化学療法による肝機能障害でC型肝炎の活動性が惹起されAFPが上昇したとの判断で経過観察とした.その結果,10ヵ月経過現在,AFPは13.4ng/mlまで下降した.症例2(30歳男性).患者は左精巣腫大で紹介入院となり,AFPは45ng/mlであった.左高位除精術を行なったところ,病理診断ではceminomaであった.化学療法後もAFPは29.1ng/mlで,LCA分画測定結果から更に化学療法を追加した結果,AFPに変化なかったものの,化学療法休薬中にもAFPは上昇せず経過観察となった.2年経過現在,AFPは20ng/ml台で推移しており,再発は認められていない
著者
上村 博司 里見 佳昭 菅原 敏道 山口 豊明 岸田 健 石橋 克夫 原田 昌興
出版者
社団法人日本泌尿器科学会
雑誌
日本泌尿器科學會雜誌 (ISSN:00215287)
巻号頁・発行日
vol.82, no.2, pp.260-267, 1991-02-20

10年以上経過をみた前立腺癌症例70例を対象として, その予後調査を行った. 治療は内分泌療法を施行した. また, 除睾術を70例中54例 (77%) に施行した. 生存10例, 死亡60例で, 癌死は31例と半数を占めた. stageA, Bでは, 癌死は少なく, stageC, Dは癌死が10例と18例で高率にみられた. 一方, 長期生存例は, stageA_1 1例, A_2例, B1例, C4例, D2例とどのstageにおいても存在した. 病理組織別では, 高分化型群に癌死がみられず, またstageA, Bでは高分化・中分化型群に同様に癌死がなかった. ホルモン剤中断例では, 高分化型群で癌死は存在せず, 中分化型群でstageC, Dに癌死がみられた. 低分化型群は予後が悪く, とくに中断後は短期間内に癌死した. 高分化型群では癌死がいないと, stageA, Bでは高分化・中分化型群で癌死はなく, またホルモン剤中断後も癌死がないことより, 除睾術施行後の高分化型腺癌でstageA, Bの症例では, ある一定期間の継続的内分泌療法を施行後に, ホルモン剤の中断・中止の可能性が推察され, 一定の条件下でホルモン剤の中止ができるのではないかということを提唱した.