著者
小池 健一 上松 一永 上條 岳彦 蓑手 悟一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

小児がんの発症率、原発部位、病理組織像、転移などの臨床所見に関する調査を行い、チェルノブイリ原発事故後に発症した小児がんの生物学的特性を明らかにするため、本研究を行った。1989年から2004年までに238名の小児の骨腫瘍患者が発生した。男児113名、女児125名(男女比1:1.1)であった。年代別発生数をみると、甲状腺がんのような明らかな増加傾向はみられなかった。ベラルーシ共和国の中で、ゴメリ州、モギリョフ州、ブレスト州を汚染州、ミンスク州、グロズヌイ州、ビテフスク州を非汚染州とし、骨腫瘍の臨床所見を比較した。汚染州における男女比は1:1.1で、非汚染州は1:1.57であり、有意差はみられなかった。次に発症年齢を比較した。9歳以下の小児の比率は汚染州では、102例中34例(33.3%)であったのに対して、非汚染州では、136例中29例(21.3%)であり、汚染州において有意に年少児の割合が高かった(p=0.0377)。骨腫瘍の種類は、両群とも骨肉腫とユーイング肉腫が80%以上を占めた。TNM分類で腫瘍の進展度を比較した。両群ともほとんどの例は隣接臓器に浸潤していた。遠隔転移のみられた例は、汚染州では22.5%で、非汚染州では26.5%と同等であった。11例の骨腫瘍内の^<90>Srを液体シンチレーションカウンターを用いて測定したところ、陰性コントロールに比べ、5例が高値を示した。以前の調査で、ゴメリ州立病院に入院した小児の急性リンパ性白血病患児の臨床的特徴として、ビテフスク州立病院に入院した対照患者に比べ、2歳以下の幼若児の比率が高いこと、LDHが500IU/L以上を示す患者の頻度が高いことが明らかとなった。小児期、特に2歳くらいまでの白血病発症は胎児期に始まることが報告されていること、ゴメリ州での放射能被曝は胎児期から始まる低線量の長期間にわたる体内被曝様式をとっていることから、幼若発症例が多い要因として、出生前からの母体内被曝が重要な因子となっている可能性が考えられた。今回の骨腫瘍の調査結果でも白血病と同様な傾向を示したことは注目に値する。現在、がん抑制遺伝子などの遺伝子解析を行っている。
著者
小宮山 淳 上松 一永 小池 健一
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

NK細胞異常症の病態と障害部位を解明するとともに、殺細胞障害の原因遺伝子の解析を進めてきた。1.家族性NK細胞異常症(1)詳細な表面マーカー検索によって、CD56^+細胞はすべてCD3^+CD56^+であり、T細胞系に属する細胞であった。したがって、この疾患は、本質的にNK細胞欠損症であることが判明した。(2)NK細胞の数的減少の原因解明を目的に、NK細胞の分化成熟能を検索した。骨髄細胞をstromal layerとIL-2、またはstem cell factor、IL-7、TNF-α、IL-1βの存在下で培養し、培養細胞についてflow cytometryを行った。その結果、CD3^-CD56^+は検出できず、さらに詳細な検討が必要となった。(3)キラーT細胞ではパ-フォリンmRNA発現機構は正常であった。2.チェディアク-東症候群(1)NK細胞活性はK562細胞に対しては著減していたが、Jurkat細胞に対しては認められた。Jurkat細胞に対する殺細胞機能はTNF-αに基づくものではなかった。(2)パ-フォリンmRNA発現機構は正常であり、蛋白レベルでも正常に存在した。(3)Fas-Fasリガンドを介するアポトーシス系の殺細胞機構を検索した。その結果、Fas mRNA発現は正常であり、機能も正常に発揮された。3.血球貧食症候群、全身性エリテマトーデス、チェルノブイリ原発事故汚染によるNK細胞不全などでも同様に検討した。
著者
右田 清志 上松 一永
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.355-360, 2011 (Released:2011-10-31)
参考文献数
21
被引用文献数
11 11 3

家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever, FMF)は,持続期間が比較的短い(1~3日)周期性発熱と漿膜炎を主徴とする遺伝性の自己炎症疾患である.2009年に行った全国調査の結果では,日本における推定患者数は,約300人で各種臨床症状の頻度は,発熱が95.5%,胸痛(胸膜炎症状)が35.8%,腹痛(腹膜炎症状)62.7%,関節炎が31.3%であった.またAA amyloidosisは5名(3.7%)に確認された.治療に関しては,コルヒチンが91.8%の患者で有効であった.本邦において一定数のFMF患者が存在しており,重篤な合併症であるAA amyloidosisを予防するためにも早期診断,早期治療介入が望まれる.
著者
上松 一永
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.63-67, 2007 (Released:2007-04-30)
参考文献数
5
被引用文献数
3 2

感染や自己免疫に基づかない炎症を反復する疾患群,自己炎症疾患(autoinflammatory diseases)の存在が明らかになった.自己炎症疾患は,炎症を繰り返すものの,病原体,自己抗体,自己反応性T細胞は見出されない.炎症,自然免疫,細胞死の制御に関わる分子群の異常であり,確定診断がなされず治療に難渋することも多い.自己炎症疾患における個々の疾患は治療法が異なるため確定診断が重要である.自己炎症疾患は特徴的な臨床所見を呈するため,比較的診断は容易であり,さらに遺伝子解析による確定診断が可能である.原因不明の炎症があり改善しない場合は,本疾患群を常に念頭に入れて,炎症性疾患を鑑別する必要がある.
著者
樋高 秀憲 坂田 資尚 上松 一永 下田 良 藤本 一眞 岩切 龍一
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.1203-1209, 2015 (Released:2015-04-28)
参考文献数
14

症例は28歳女性.周期性腹痛,発熱で受診.内視鏡検査で虫垂入口部付近の区域性腸炎を認め,区域性大腸炎型潰瘍性大腸炎として加療したが効果なく,遺伝子検査の結果家族性地中海熱(FMF)と診断し,コルヒチン内服加療で症状は改善した.FMFは炎症性腸疾患類似の区域性腸炎を合併することもある.周期的腹痛,発熱のある原因不明の腸炎では炎症性腸疾患以外にFMFを疑い遺伝子検査を行うことが重要である.