著者
上里 健次 Schinini Aurelio Nunez R. Eduardo Uesato Kenji
出版者
琉球大学農学部
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
no.59, pp.29-34, 2012-12

アルゼンチン北東部のハチドリの生息地に2ヵ年滞在して、ハチドリの行動生態に関する現地調査と写真撮影を行った。とりわけ魅力的で空飛ぶ宝石とも呼ばれるハチドリの飛翔姿態については、著者のみならず、何人にも認められる自然の宝物のひとつである。着任後しばらくはハチドリの飛翔を目にしても、写真撮影のチャンスは治安の悪化情勢もあって、全く考える余地はなかった。その中で専門分野の熱帯花木の開花状況を調査中に、合わせてハチドリの飛翔習性の把握にも努めた。生息する数種のハチドリの一種、コモンハチドリ一種が留鳥として、冬季間も飛来活動を続けることの知見が得られたことも幸運であった。飛翔習性と冬季に開花する植物との関連性の理解、花蜜でない昆虫捕食の活動についても目視できた。これらの現地調査の結果、各植物の花とホバリングの組合わせ、昆虫の空中での捕食、巣と卵の確認などそれぞれに貴重な記録が得られた。留鳥か渡りかの周年の動き、生息するハチドリの種の違いなどにも知見が得られた。ハチドリは鳥類の中では最小最軽量、胸筋が発達して飛翔能力に優れていることから、空中飛翔時に停止後退が可能で、そのことによる飛翔姿態の優雅さが注目される特別の野鳥である。まさしく生きた宝石で、最も魅惑的な野鳥として評価されることは当然である。ハチドリのホバリング撮影は難事なだけに、少なくとも中南米旅行でそのチャンスがあれば留意を望みたい。
著者
張 琳 米盛 重保 上里 健次
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.41-48, 2005-12-01

本調査研究では、ヒカンザクラの開花性における同一地域内の個体間差、地域間差および花芽の発育と花部器官の個体間差について比較検討した。調査は奥国道沿い、八重岳の高位、中位、低位所、嘉数公園、琉球大学内、与儀公園、八重瀬公園で実施した。得られた結果の概要は次のとおりである。1.同一時点の各調査地域における個体間差は幅広く見られた。また各調査樹の開花開始、満開、開花終了日および開花期間の長さにおいてもかなりの個体間差が確認された。2.沖縄におけるヒカンザクラの開花は、地域間では北部から南部へ移行することが認められ、また山地においては標高の高い所で早く咲くことが明確であった。これらのことは、北部および高所では開花に重要な低温遭遇の条件をより早い時期に満たされることを意味し、亜熱帯性サクラ特有のやや高い温度に反応する習性が早期開花の主要因と考えられる。3.花部器官の形態的な特徴にも標準とは異なる6枚の花弁、2本の雌ずいなどの変異が見られ、ヒカンザクラの花部器官もより多様であることが確認された。4.花色濃度の判別に対して、Adobe PhotoShopのRGB三原色分析をもとに、花色濃度指数を規定して花色の濃度差を比較した。この花色濃度指数は実際の花色の濃淡に即しており、利便性が高いと判断された。5.ヒカンザクラは早期開花を示すにもかかわらず、花弁形成、雄ずい形成、雌ずい形成時期は遅く、これには花芽の後半の発育が短期間になされることが考えられる。6.調査対象としたものはすべて実生由来ものであり、遺伝的には雑種であることから、開花性、花部器官における個体間差が生ずるのは当然のことで、その発現に当たってはむしろ環境要因よりも植物側のもつ遺伝性がより重要であると考えられる。
著者
上里 健次
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.1-7, 1993-12-01
被引用文献数
1

沖縄諸島におけるヒカンザクラの開花期が,北部地域から始まって南下するという現象について一考してみた。同植物の開花に対しては主として温度要因が考えられることから,八重岳の山道に植栽されているものについて開花,出葉の様相を調べて標高差との関係を検討し,また那覇,宜野湾地区の調査を加えて,地域差も比較した。開花,出葉の程度の調査については,個体毎にその程度をそれぞれ10レベルに分けて行った。得られた結果の概要は,次の通りである。1. 標高290m以上の所では開花は1月下旬にピークを示してきわめて早く,ついで開花が早いのは標高100m以下の低いところであった。標高の中位部の所では総じて開花は遅く,開花期の標高差による傾向も不明で,むしろ標高の高いところほど遅咲きであった。2. 八重岳の山道に連続して植栽されているものすべてをまとめて標高差を見ると,標高の高いほど早く開花するという傾向は,かろうじて有意であった。3. 沖縄北部と南部における開花期の地域差については,八重岳の低標高地のものと比較すると明かに北部に早かった。しかし中位部標高地のものと比較すると有意な差はみられなかった。4. 低温の地域ほど早く開花することの理由については,ヒカンザクラの開花に必要な低温度域が沖縄の最低温期の温度より高いところにあり,そのために12月前後に低温に遭遇する機会の多い地域ほど開花が早くなることがあげられ,結果的に山頂ないし北部において早い開花となるといえる。
著者
上里 健次 比嘉 美和子
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.1-8, 1995-12-01
被引用文献数
1

沖縄におけるヒカンザクラの開花期と地域差および標高差について, 1994年開花の同植物を対象に比較調査を行った。調査地域は八重岳山道の3ケ所の他, 那覇の2ケ所, 浦添, 宜野湾と名護, 今帰仁, 大宜味, 国頭の2ケ所である。調査は開花および出葉の程度を10レベルに分けて定期的に行い, それぞれのグループ毎の比較を行った。得られた調査結果の概要は次の通りである。1. 八重岳の低標高地と中南部における開花の地域差については, 中南部が遅い開花を示す中で嘉数区とは差がないが, 伊祖, 末吉とは差があり, 与儀とは大きな差が見られた。2. 北部地区内における地域差については, 喜如嘉では八重岳と同様の早い開花で, 他の地域についてはわずかな遅れが見られる程度であった。3. 八重岳の山道における標高差については, 山頂, 麓付近で開花が早く, 中腹付近は有意差のあるほどの遅れであった。4. 出葉は開花直後に始まって開花とほぼ同様の遅速の傾向を示すが, 八重岳の麓付近では開花終了前に出葉し始める個体が多く, 一般の発育の様相と異なる面も見られた。5. 名護, 那覇における最低温度は本調査年度の12月, 1月においてかなり大きく, 開花期の早晩における地域差, 標高差への関与が伺われた。
著者
上里 健次 安谷屋 信一 米盛 重保 Uesato Kenji Adaniya Shinichi YoneMori Sigeyasu
出版者
琉球大学
雑誌
琉球大学農学部学術報告 (ISSN:03704246)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.15-23, 2002-12-01

石垣を含めた沖縄における2000年開花のヒカンザクラについて,開花と出葉の早晩性を地域間差,個体間差を含めて比較検討した。調査地域は石垣市,八重瀬公園与儀公園,琉球大府附属農場,敷数公園,八重岳の高,中,低位所,国頭村奥で開花の安定したそれぞれ50本前後を対象とした。3月2日に石垣市,3日に他の地域に出かけ開花度,出葉度を10レベルに分けて調査した。得られた調査結果の概要は次ぎの通りである。1.地域間では石垣では最も遅く,与儀貢献もかなり遅く,八重岳の3区と八重瀬公園は最も早く,他の3区は同様で,4グループ間に有意性のある地域差が見られた。2.八重岳における標高差については高位所と低位所で早く,中位所は遅れる傾向があり,開花に対する350m程度の標高差は明確ではなかった。3.各調査区区における個体間差はかなりの幅で見られ,これは実生系による栽植で異なった遺伝性を持つことによる当然の結果といえる。4.12月,1月の名護,那覇,石垣における日最低気温の推移にかなりの差が見られ,石垣における開花の遅れは冬季の温度の低下が遅れることによるが,与儀公園の遅れも同様に,市民生活に起因する要素を加わった温度上昇が主要因と間がえられる。