著者
曽我部 信広 久野 雅智 中釜 悠 幕内 陽介 原田 尚憲 高桑 輝人 岡村 浩史 廣瀬 朝生 西本 光孝 中嶋 康博 康 秀男 中前 美佳 城戸 康年 中前 博久 日野 雅之
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.63, no.10, pp.1379-1385, 2022 (Released:2022-11-10)
参考文献数
15

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するmRNA COVID-19ワクチン接種後に自己免疫性血球減少を発症することが知られているが,成熟B細胞腫瘍患者のワクチン接種が腫瘍随伴症状へ与える影響を調べた報告はない。症例は71歳男性。数年前に成熟B細胞腫瘍を疑う症状があったが自然軽快し経過観察されていた。BNT162b2 mRNA COVID-19ワクチン2回目接種10日後に温式自己免疫性溶血性貧血を発症した。貧血はステロイドで改善したが,脾腫,IgM-M蛋白血症,腎障害が増悪した。診断・治療目的に脾臓摘出術を施行し,脾辺縁帯リンパ腫と診断され,M蛋白血症,腎障害は改善した。本症例でSARS-CoV-2特異的抗体の獲得は障害されていた。ワクチン接種後の非特異的な免疫賦活が,成熟B細胞腫瘍の腫瘍随伴症状を増悪させる可能性が示唆されたが,病態解明のためにさらなる症例集積が必要である。
著者
中前 博久
出版者
一般社団法人 日本造血・免疫細胞療法学会
雑誌
日本造血細胞移植学会雑誌 (ISSN:21865612)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.48-57, 2021 (Released:2021-01-15)
参考文献数
48

移植後大量シクロホスファミドを用いたHLA半合致血縁間移植(PTCy-haplo)は,HLA半合致移植のプラットホームとなりつつある。しかしながら,近年の一連のメタ解析にはHLA適合移植と比較して,慢性GVHDのリスクは低いものの,HLA適合非血縁と比べると再発が多いとする報告がある。再発率の低減のためには,PTCy-haploによるgraft-versus-leukemia(GVL)効果の機序に関する分析が重要である。PTCy-haploにおいてはGVL効果には,NK細胞による同種反応が大きな役割を果たしていることを示唆するいくつかの報告がある。しかしながら,PTCyがNK細胞の回復に影響を与えるという報告もある。今後さらなる成績改善のために,ドナー選択方法,移植片の細胞輸注量,PTCyの至適用量やタイミング,および免疫抑制剤の投与方法など,さまざまな角度からの検討の必要があると考える。
著者
中前 博久 日野 雅之 太田 健介 鈴木 賢一 青山 泰孝 酒井 宣明 阪本 親彦 長谷川 太郎 山根 孝久 巽 典之
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.216-220, 1998 (Released:2009-04-28)
参考文献数
13

症例は22歳,未婚女性,看護学生,低色素性貧血ならびに不明熱にて入院となった。入院後,鉄欠乏性貧血と診断し,鉄剤の投与を行っていたが周期的に貧血の進行がみられた。特に外泊後に急激な貧血の進行が認められていたことより,われわれはfactitious anemiaを強く疑い,テレビモニターでの監視ならびに所持品検査を行ったところ,患者病室のロッカーならびに自宅より多数の注射器,注射針および血液の入ったボトルが発見された。以上より本症例をfactitious anemiaと診断した。患者は自己瀉血を認め,心療内科医のカウセリングにより貧血の改善傾向がみられたが,退院6カ月後に通院しなくなった。十分量の鉄剤投与に反応を示さない極度の慢性低色素性貧血患者にはfactitious anemiaを考慮する必要がある。