- 著者
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野村 幸治
中山 裕一郎
- 出版者
- 日本教科教育学会
- 雑誌
- 日本教科教育学会誌 (ISSN:02880334)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, no.2, pp.39-48, 1997-09-25 (Released:2018-05-08)
80年代から90年代にかけて中国の学校教育は大きな変化を遂げた。芸術教育の面でも,1986年に美育が国家の教育方針の中に正式に位置づくことにより音楽教育を含む芸術教科が教育全体の中に重要な意味を持つようになる。本論文は,80年代から現在に至る中国の音楽教育をめぐる教育全体の動向を踏まえながら,音楽教科書(小学校)の分析を中心に中国の音楽教育の現在について考察を試みたものである。資料は論文及び最新の音楽教科書そして日本の「学習指導要領」に相当する「教学大綱」などである。音楽教科書に見られる特徴としては次のような点が挙げられるだろう。(1)社会主義賛美を謳った政治的内容を持つ教材は相変わらず多い。しかし,教材自体の芸術性自体についても重視する方向性が生まれている。(2)民族音楽の学習(とくに少数民族の音楽)を基礎に,アジア圏,さらにヨーロッパなど世界各地の音楽へ同心円的に学習内容を広げ,子どもたちが多様な音楽文化に触れられるよう工夫されている。(3)遊びの要素や即興性を楽しむ教材・学習活動が増えている。(4)踊りなど,身体の動きを伴った音楽的活動がふんだんに取り入れられている。これらから,社会主義体制の堅持をはかりつつ,美的教育を重視し,音楽学習と生活的なものとの接点を足場に,包括的に音楽学習を捉えようとする中国の音楽教育に対する基本的姿勢が理解される。政治形態も異なり,「型」から入った内容のものもある。しかし,特徴中,特に(2)(3)(4)の点については,日本の音楽教育も学ぶべき内容を多分に含んでいるのではないだろうか。