著者
中島 巖
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.41-65, 2016-11-30

消費の習慣化は,消費を通じて消費を学習していき,学習が進むにつれ,享受される喜びの度合が増していく過程を意味するとされる。そこでは,過去の消費経験の蓄積が,一種の資本ストックとなって,以後の所定の消費からの効用水準に影響力を発揮するものとされる。かかる所定の消費からの効用水準の変化は,時間経過にともなう選好の変化であり,一方で,外部の好情報,すなわち社会契約,広告を通じたデモンストレーション効果の作用にともなう変化であり,他方で,社会的,物理的相互依存性の作用にともなうそれであるとみなされ,とりわけ,後者は,喫煙,飲酒がその例として言及されてきたごとくである。しかるに,かかる変化のあり方を左右する要素として,効用函数の(非)定常性,割引函数の形状が指摘される。定常的効用函数,指数的割引函数の想定は,喫煙,飲酒,薬物等の消費にともなう中毒性をも合理的選択理論の枠組の中で議論され得る合理的中毒性に導く。以下では,まず,合理的中毒性の議論に分析的基礎を与える異時点間の効用依存性の下での最適定常経路のあり方と,その安定性に関するRyder=Heal の議論を展望し,次いで,合理的中毒性のあり方を,1財の消費が2種類の消費資本をもたらす場合における最適消費経路の周期的行動の発生可能性,さらに,1財の消費資本ストックが現行消費を抑制する負のフィード・バック効用が併せ作用する場合における最適消費経路の周期的行動の発生可能性を安定的領域の特定化を通じて検討する。
著者
中島 巖
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 = Economic bulletin of the Senshu University (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.61-86, 2014-11

民間からの実物資源の買上げを企図した貨幣の発行, すなわち貨幣創造がもたらす収益差は創造益(seigniorage)と呼ばれる。 伝統的理論において, 創造益の最適水準を問う際の最適性は, Phelps の資本蓄積の黄金律のそれに形式的類似性をもつ。すなわち, 貨幣当局が完全予見定常均衡で測った費用, 便益に基づき貨幣供給成長率を選ぶものである。 これに対し, Friedman は, 期待インフレ率を政策変数として創造益の最大化を図る目標を提示した。 さらに, Calvo は, その最大化に際して創造益の割引現在価値を対象値とした。 他方, Romer は, 貨幣創造はハイパー・インフレーションとの相互関係の中で捉えるべきであるとし, 創造益の最大化から導かれる貨幣成長率と創造益の間のLaffer 曲線に対し, Cagan の提示するハイパー・インフレーション時の貨幣需要函数を適用し, 貨幣創造がハイパー・インフレーションの無条件的発生要因ではないことを主張した。しかるに, 貨幣需要に確率過程にしたがう確率変数が作用するとき, Laffer 曲線は, 右上方に, あるいは, 左下方にシフトする可能性が確かめられ, とりわけ, 前者の場合においては, 通貨当局が創造益追求を拡大し得る余地が増し, それに伴ってハイパー・インフレーションが昂進する可能性の増大化が帰結される。また, 貨幣需要の構成要因である名目利子率と実物産出量の固定化の制約が緩められ, 後者の変動が許されるところで, 貨幣創造がハイパー・インフレーションを昂進させ得る情況が満たすべき条件が導かれる。
著者
中島 巖
出版者
専修大学経済学会
雑誌
専修経済学論集 = Economic bulletin of the Senshu University (ISSN:03864383)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.77-98, 2015-11

土星(Saturn)の第7衛星であるピペリオン(Hyperion)の予測不能な回転運動が天体力学におけるカオス運動の観測例であった。その後,最初に研究対象となったカオス運動発生可能なモデルの範疇は振動理論(theory of oscillations)からのものであった。その最初の一般的議論はロシア学派によって展開された。そこでは,理論に留まらず実験の過程をも含んだカオス運動発生モデルの実例がVan der Pol とVan der Mark によって提示されるに至った。1927年のことであった。現在マクロ経済学において重用されているHopf 分岐の議論は,上のVan der Pol の振動モデルから発想を得たものであった。Hopf 分岐は,非振動的運動からリミット・サイクル(limit cycle)運動が発生する可能性を説くものである。以下では,Van der Pol 方程式の例に拠りながらHopf 分岐が発生する過程を確認した後に,生産用役としての資本が利他的選好をもつ親世代から子世代へと遺贈されていく世代重複生産経済において,かかるHopf 分岐が発生するための条件を導く。若年者が賦存労働を自由に弾力的に供給し,生産を組織し,利他的選好をもつ老年者が自らの消費決定と次世代への遺贈水準の決定とを行っていく世代重複経済において,生産過程における労働・資本間の代替弾力性をパラメータとするとき,上の代替弾力性が経済の全所得のうちに資本所得が占める資本分配率を下回るとき,Hopf 分岐が発生し得ることが帰結される。