著者
中川 公恵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.220-224, 2015 (Released:2018-08-26)
参考文献数
24

薬学の分野においては,ビタミンKが血液凝固に必須の役割を担うことは周知の事実であり,常にワルファリンとの相互作用を考慮しなければならないことはよく知られている.また,骨粗しょう症の予防や治療においても重要な栄養素であり,ビタミンK2(メナキノン-4(menaquinone-4:MK-4))は,骨粗しょう症治療薬として臨床応用されている.ビタミンKは栄養素として摂取しないといけないもの,摂取不足により欠乏症になるビタミンである.しかし,ただ単に摂取したものが,そのまま生体内で利用されているだけではない.MK-4が,我々の体内で作られることを,どれだけの人が認知しているであろうか? 日常的に摂取するビタミンKの大部分は,植物由来のビタミンK1(フィロキノン(phylloquinone:PK))であり,これが生体内でMK-4に代謝変換され,PKにはない様々な生理作用を発揮しているのである.最近我々は,ビタミンK同族体が体内でMK-4に変換されること,その変換を担う酵素を明らかにすることに成功し,さらにMK-4を合成する酵素が個体発生に必須であることを見いだした.本稿では,この研究成果を含めて,生体内でMK-4が変換生成する機構とその意義について概説する.
著者
中川 公恵
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.133, no.12, pp.1337-1341, 2013-12-01 (Released:2013-12-01)
参考文献数
20

Natural vitamin K is found in two forms: a plant form, phylloquinone (PK) and bacterial forms, menaquinones (MKs). PK is a major form of dietary vitamin K; however, the most prevalent form of vitamin K in animals and humans is menaquinone-4 (MK-4). Despite its high concentrations, the origin of MK-4 is yet to be defined. It is postulated that PK is converted into MK-4 and accumulates in extrahepatic tissues. The molecular mechanisms for these conversion reactions have been unclear. To identify the MK-4 biosynthetic enzyme, we screened the human genome database for prenylation enzyme. We found UbiA prenyltransferase domain containing 1 (UBIAD1), a human homologue of Escherichia coli prenyltransferase menA. The short interfering RNA against the UBIAD1 gene inhibited the conversion of deuterium-labelled vitamin K derivatives into deuterium-labelled-MK-4 (MK-4-d7) in human cells. We confirmed that the UBIAD1 gene encodes an MK-4 biosynthetic enzyme through its expression and conversion of deuterium-labelled vitamin K derivatives into MK-4-d7 in insect cells infected with UBIAD1 baculovirus. UBIAD1 was localized in endoplasmic reticulum. Our results show that UBIAD1 is a human MK-4 biosynthetic enzyme. This identification will permit more effective decisions to be made about vitamin K intake and bone health.
著者
中川 公恵
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

脂溶性ビタミンの一つであるビタミンKは、側鎖構造の違いにより同族体に分類される。我々が日常的に摂取している主なビタミンKは、緑色野菜に含まれフィチル側鎖を有するビタミンK1(phylloquinone : PK)であり、この他には菌類が合成し発酵食品に含まれるイソプレン単位6〜16個の繰り返し構造を持つメナキノン類(menaquinone-n:MK-n, n=6〜14)、肉類など動物性食品に含まれるビタミンK2 (menaquinone-4 : MK-4) がある。しかし、哺乳動物の組織には、摂取量が極めて少ないMK-4が最も高濃度に存在する。これは、摂取したPKやMK-nが生体内で変換酵素であるUbiA prenyltransferase domain containing protein 1 (UBIAD1) により、MK-4に変換されるためである。摂取したPKやMK-nは、その構造のままで血液凝固因子や骨基質タンパク質の活性化を担うγ-グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)の補因子として働くが、これ以外の生理作用は見出されていない。一方、MK-4はGGCXの補因子活性のみならず、核内受容体steroid and xenobiotic receptor(SXR)のリガンドとして転写調節を行う他、PKAやPKCの活性化、神経細胞分化の促進、がん細胞の増殖抑制など、様々な生理活性を有する。つまり、PKやMK-nが生体内でMK-4に変換されることは、極めて重要な生体内変化であり、MK-4は活性型であると言える。MK-4への変換反応を担う酵素UBIAD1は全身の組織に発現しているが、その欠損は致死的であるだけなく、様々な組織機能変化を引き起こす。本講演では、組織特異的UBIAD1欠損マウスの解析結果から、UBIAD1が関連すると予想される疾患とそれに対するビタミンKの有用性について紹介する。