著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.69-77, 2020-02-28 (Released:2020-03-13)
参考文献数
20

要旨: 聴覚障害者の親をもつ健聴児 (CODA) 104例を対象に, 親への通訳役割の実態と課題について後方視的に調査を行い, 関連する要因を検討した。その結果, CODA は幼児期 (平均6.48歳) から親の通訳役割を担い, 通訳は生活の多岐にわたり, 併せて親の代理交渉を伴うなど, 成長期に心理的負担となっていた。聴覚障害の親との会話では, 手話法が92例 (88.5%), 聴覚口話法が74例 (71.2%) であり, 一方で身振りや筆談等が併用され, 会話が十分に成立する例は半数と少なく, 会話に課題が示された。重回帰分析により通訳頻度には, 両親が聴覚障害者, 通訳開始年齢が低いという変数が関与し, 親子の会話には, 両親が聴覚障害者の変数が関与した。聴覚障害の親に対しては養育への早期支援, 小児期の CODA に対しては, 通訳負担の軽減と心理的ケアおよび親子の円滑な会話成立の支援が必要であり, 当事者組織や関係する専門家による的確な助言や支援体制の整備が喫緊の課題であると示唆された。
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.113-121, 2022-04-28 (Released:2022-05-24)
参考文献数
16

要旨: 高等教育機関に通う軽・中等度難聴学生7名, 比較対象として人工内耳装用 (CI) 学生8名, 高度難聴学生3名に対し web による自記式質問紙調査と面接調査を行い, 音声と環境音認知の評価 (SSQ-12) と, 心理社会的困難について評価した。 軽・中等度難聴学生は, CI 学生と比べて「音声理解」や「空間認識」について聞こえの困難感を示し, 楽器音や日常音の鮮明さなど「音の質」で問題は少ないとした。「傾聴努力」では全例で困難度が高かった。 軽・中等度難聴学生と CI 学生の心理社会的困難度 (数量化Ⅲ類解析) は, 難聴開示の戸惑い, 自己同一感の低下, コミュニケーション不全感, 心理的防衛の4象限に布置し, 心理的機制と対社会的機制の2軸で構成された。 軽・中等度難聴学生では難聴開示に心理的負荷が高く (p<.01), 学生支援では障害理解状況を把握し, 小児期からの継続した助言指導の必要性が示唆された。
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.219-228, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

聴覚障害の親をもつ健聴の子ども(CODA)における親への通訳役割は,情報伝達にとどまらず親と社会との仲介役を担い,親子関係の形成に影響を与えることが指摘される.本研究では,CODAの児童期から成人期の通訳経験を通して形成された親子の認識とその変容を,質的側面から明らかにした.CODA成人25名,聴覚障害の親19名を対象とし,個別の半構造化面接(M-GTA)を用いて解析した.その結果,逐語録320,849文字から概念27種,カテゴリ6種,サブカテゴリ6種が生成された.CODAは児童期では無意識に親を擁護し,青年期では通訳と親に葛藤を生じさせるが成人期には受容した.親は,CODAの児童期と青年期ではCODAの通訳を頼るものの成人期では自立を志向する姿勢であった.CODAが,児童期に親を擁護する認識および成人期に親を受容する契機には独自性があった.親の受容にいたる心理的自立時期は個人差を示した.
著者
山ノ上 奏 川間 健之介 中津 真美
出版者
日本リハビリテーション連携科学学会
雑誌
リハビリテーション連携科学 (ISSN:18807348)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.156-166, 2019-12-25 (Released:2021-02-28)
参考文献数
23

【目的】脳性まひ者の就労状況と二次障害の変容を明らかにすることを目的とする. 【方法】現在, 一般就労している, または過去に就労していた20歳代から50歳代の脳性まひ者11名を対象とした. インタビュー調査で得られたデータは, 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ (M-GTA) 手法により分析を実施した. 【結果】脳性まひ者の叙述から就労に関わる二次障害の概念が生成された. 脳性まひ者は二次障害と機能低下への対応の必要性に気づき, 就労と自身の身体の変化を再考する経緯が認められた. これは脳性まひ者にとって仕事に影響を与える重要な側面であり, 二次障害の変容に合わせて就労意欲を維持することが重要という概念図が得られた. 【結論】脳性まひ者は, 仕事に意欲ややりがいをもって働いているが, 二次障害による身体の変化に合わせて, 就労状況を変えることが就労意欲の維持につながる.
著者
中津 真美 廣田 栄子
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.249-257, 2013-06-30 (Released:2013-12-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1

要旨: 聴覚障害の親をもつ健聴の子ども (CODA) における親への通訳は, 情報伝達に止まらず親と社会との仲介役を担い, 子どもの立場ながら親をケアする役割が求められる。本研究では ,CODA 21名と聴覚障害の親19名を対象に, 多面的感情状態尺度短縮版8因子24項目 (5段階評定) と半構造化面接を用いて, 通訳場面に抱く心理状態と経時的変容を後方視的に解析した。評価点について探索的な因子分析 (主因子法) により因子を抽出し, 因子得点を算出した。その結果, 通訳場面に抱く心理状態5因子を抽出し (因子負荷量0.4以上), 充足, 戸惑, 不満, 深慮, 悠長と命名した。CODAと親は, CODAの成人期では概ね肯定的な心理状態を有した。CODAは, 青年期では成人期と比べ戸惑感と不満感が高く, 充足感と深慮感は低かった。CODAの充足感は親と比べて成人期も低く, 面接情報からも通訳役割が長期に渡りCODAの心理的な負担状況をもたらすことが推測され, 生涯発達的観点からの支援の必要性が示唆された。