著者
竹尾 透 有馬 英俊 入江 徹美 中潟 直己
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第102回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.1091, 2009 (Released:2009-09-08)

【目的】体外受精は、効率的に受精卵を作製する技術として、医学から農学分野に至るまで幅広く利用されている。我々は、先に精子の前培養培地中にウシ血清アルブミン (BSA) の代替物として、メチル-β-シクロデキストリンを添加することにより、マウス凍結/融解精子の受精能が劇的に向上するという興味深い知見を見出した。そこで本研究では、精子に対するシクロデキストリン (CDs) の受精能賦活作用について、詳細な機序を明らかにするために、構成グルコース数の異なる3種類のCDsを比較することで、CDsの立体構造と受精能賦活作用の関係について検討した。【方法】C57BL/6マウスの精巣上体尾部精子を前培養培地中 (修正クレブス-リンガー炭酸緩衝液 (TYH)、BSA非添加: コントロール) あるいは、各種CDs添加培地中(TYH + CDs; 構成グルコース数、6個: α-CD, 7個: β-CD, 8個: γ-CD) で前培養した。前培養した精子は、体外受精により受精能を評価した。また、受精卵の発生能は、胚移植により評価した。さらに、 各種CDsとコレステロールの相互作用の有無を確認するために、精子生体膜中コレステロール量 (Filipin 染色)、コレステロールの包接能について検討した。【結果】体外受精において、β-CD及び γ-CD は、顕著に受精率を増加させた (コントロール: 3%、1.5 mM β-CD: 69%、10 mM γ-CD: 70%) 。一方、α-CDの受精率は低値 (6%) であった。 β- 及び γ-CDを用いた体外受精により得られた胚は、正常に産子へと発生した (β-CD: 47%, γ-CD: 52%)。また、 β-及び γ-CDは、精子の生体膜中コレステロール量の減少、及びコレステロール包接による可溶化の促進が認められた。以上、本研究により得られた知見から、CDsにおける受精能賦活作用は、立体構造に依存したコレステロールの包接能が関与する可能性が示唆された。今後、β- 及び γ-CDは、精子に対する受精能賦活化剤として、体外受精への幅広い応用が期待できる。
著者
中潟 直己
出版者
Japanese Association for Laboratory Animal Science
雑誌
Experimental Animals (ISSN:00075124)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.11-18, 1994-01-01 (Released:2010-08-25)
参考文献数
44
被引用文献数
4 6

Embryos, oocytes and spermatozoa of mice could be successfully preserved at -1961 by simple freezing methods. The survival rate of frozen embryos was very high at thawing and they developed into normal young after embryo transfer. In gametes, the cryopreserved oocytes could be fertilized in vitro by fresh spermatozoa and the cryopreserved spermatozoa could fertilize fresh oocytes. Moreover, the cryopreserved oocytes could be fertilized by the cryopreserved spermatozoa and the embryos obtained by in vitro fertilization between cryopreserved gametes could develop into normal, live young after embryo transfer. In the future, if not only the embryos but also the oocytes and spermatozoa of many mouse strains are frozen, normal young can be produced from cryopreserved embryos and gametes.
著者
豊田 裕 中潟 直己 馬場 忠 佐藤 英明 斉藤 泉 岩倉 洋一郎
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1)卵成熟と受精の制御A)卵胞液から卵丘膨化を促進させる熱に安定な物質を分離した。また本物質は精子核の膨化に対しても促進的に作用することを明らかにした。B)c-mos遺伝子欠損マウスの卵成熟と受精について解析するとともに、c-mos遺伝子欠損により単為発生が誘起されることを明らかにした。また、遺伝子ターゲット法によりアクロシン遺伝子欠損マウスを作製した。このようなマウスから得た精子は透明帯を通過し卵子に侵入するものの、受精成立に要する時間が長くなることを明らかにした。C)膨化卵丘に含まれる液状成分に受精促進作用のあること明らかにした。2)初期卵割の制御A)プロジェステロンにより単為発生の誘起されることを明らかにした。また、XX型胚とXY型胚を凝集したキメラ胚は雄になるが、組織学的に解析しキメラ胚における性腺の分化過程を明らかにした。B)エンドセリン遺伝子欠損マウスを作製しホモ化したものでは頭蓋顔面に奇形を誘発することを明らかにした。C)ラット初期胚の内部細胞塊に由来する多分化能細胞株を樹立した。3)初期胚保存の制御A)マウス初期胚の凍結保存条件、特に凍結に用いる溶液や平衡時間について解析し、胚保存の最適条件を決定した。また、超急速凍結法によりラットの受精卵の凍結保存に成功した。
著者
中潟 直己
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.5, pp.343-348, 2007-05-01
被引用文献数
1

爆発的に増え続けるミュータントマウスに対して,国内外でマウスバンクが次々と設立され,それらマウスバンクの世界的な組織,Federation of International Mouse Resources(FIMRe)が2005年に発足した.一方,2006年にはアジアにおいて,遺伝子改変マウスの作製と保存に関するコンソーシアム,AMMRA(Asian Mouse Mutagenesis and Resource Association)が設立された.我が国の代表的なマウスバンクとしては,熊本大学CARD(Center for Animal Resources & Development)および理研BRC(Bio Resource Center)があるが,本項では,熊本大学CARDを紹介する.CARDのバンクシステムには,以下の2つがある.すなわち,一方は,マウスの寄託を受け,保存された系統について情報を公開し,第三者へ広く供給するものである.この場合の料金は,マウスのCARDへの輸送や凍結保存経費など,寄託に関する一切の経費は無料であるが,供給に関しては,有料(実費)である.他方は,有料にてマウス胚/精子の凍結保存サービスを行うもので,保存したマウスを第三者へ分与しない,また,そのマウスの情報を公開しないという条件で実施している.前者は年間100~150系統の寄託があり,年々,寄託保存系統数が増えていると同時に,海外からの供給依頼も増えている.後者は2006年4月から開始したばかりであるが,すでに80系統以上の凍結保存の依頼が入っており,着実にその成果を上げている.<br>