著者
中田 加奈子 池田 耕二 山本 秀美
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.523-528, 2010 (Released:2010-09-25)
参考文献数
19

〔目的〕本研究の目的は,3年目の理学療法士の終末期理学療法体験の一端を質的研究によって構造化し,無力感や意欲低下を生み出す過程を分析することである。〔対象〕3年目の理学療法士2名である。〔方法〕半構造化インタビューを行いデータ収集しSCQRMをメタ研究にM-GTAを用いてモデル構築を行った。〔結果〕本体験モデルからは,PTは何かしてあげたいという思いと患者との関わりとの間で葛藤し,それらの実践を通してPTの明暗の部分を感じていることが分かった。〔結語〕本構造モデルを視点とすることで終末期理学療法実践における無力感や意欲低下の生成過程の1プロセスを理解することができた。
著者
池田 耕二 玉木 彰 山本 秀美 中田 加奈子 西條 剛央
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.102-108, 2009-09-10 (Released:2010-11-19)
参考文献数
23

本研究の目的は,認知症後期高齢患者の理学療法実践において周囲からも一定の評価を受けている4年目の理学療法士の「実践知」の構造の一端を,構造構成的質的研究法により探索的に明らかにし,それらを実践理論や教育モデルの一つとして提示することにある.その結果,実践知モデルは【患者力】と【家族力】の2つのカテゴリーによって構成された.【患者力】は「身体の基本的な動作能力」,「疼痛の程度」,「関節可動域障害の程度」から総合的に評価される《動きからみる身体能力》と「否定的感情」,「肯定的感情」の表出やそれらの「感情の波」として評価される《感情表出パターン》,さらに「理学療法士に対する認識」,「自己や周囲に対する誤認識」から解釈・判断される《関わりの中で感じる認知能力》,「口頭指示の入りやすさ」,「発語能力」,「働きかけに対する反応」から評価される《反応からみるコミュニケーション能力》の4つのサブカテゴリーによって構成された.また【家族力】は,「家族の退院にむけた希望」や「家族の理解や協力」によって構成された.これによって認知症後期高齢患者の社会復帰に向けた問題点の一端を,患者とその家族,それらのバランスという視点から評価することや,それによって理学療法を施行する際には,どこに大きく焦点をあてるべきかが理解しやすくなる可能性が示唆された.また理学療法実践においても柔軟なストラテジーの選択に活用できるということからして有用性が発揮される可能性が示唆された.
著者
中田 加奈子 池田 耕二 山本 秀美
出版者
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
雑誌
近畿理学療法学術大会 第51回近畿理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2011 (Released:2011-10-12)

【はじめに】 高齢化社会を迎えた日本には認知症患者が200万人以上いるといわれており、理学療法の必要性は増している。その一方で認知症患者の理学療法は拒否や暴言、暴力等が原因で困難となる場合も多く、接し方や環境設定など様々な工夫が必要とされる。そのため臨床では症例ごとに理学療法における工夫やその効果を検討することが必要となる。 今回、強い拒否や暴言、暴力等が認められ、理学療法を進めていくことが困難であった2症例を経験したので考察を加え報告する。 【症例紹介】 症例1:60代、男性、診断名は多発性脳梗塞であった。コミュニケーションは困難であり長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)の測定は不可能であった。身体機能としては四肢に運動障害、中等度の関節可動域制限が認められ、基本動作は全て全介助であった。理学療法は基本動作の維持・向上を目的に進めたが、本症例は理学療法開始当初から拒否が強く、暴言、暴力があり関節可動域運動や基本動作練習は困難であった。そこで、家族にも理学療法への参加を促す、時間帯を変える、ときには担当以外の理学療法士(以下、PT)が実施するなどの工夫を取り入れた。しかし、大きな改善は認めなかったため、次はPT2人が同時に関わっていくことにした。具体的には1人は話しかけながら暴力を抑え、もう1人は関節可動域運動、端坐位練習を行い毎日関わり続けた。その結果、拒否や暴力は徐々に軽減するようになり理学療法を進めることができた。 症例2 :80代、男性、診断名は右大腿骨転子間骨折術後であった。コミュニケーションは困難でありHDS-Rの測定は不可能であった。しかし、発話内容からは病識の欠如、理解力の低下等があると考えられた。理学療法はトイレ動作の獲得を目的に進めた。理学療法開始当初、起き上りは全介助、端坐位保持は見守りにて可能であり拒否は見られなかった。しかし立位練習を始める頃から強い拒否がみられ始めた。そのため家族・他のスタッフと一緒に理学療法を促したが、大声で叫ぶ、唾を吐く、蹴るなどの暴力や拒否は続いた。そこで、家族の承諾のもと強く促しながら全介助にて端坐位や移乗練習を行った。その結果、徐々にトイレ時に自発動作が見られるようになったため、トイレ時に合わせて理学療法を行うようにした。1か月後、拒否は少なくなり、基本動作やトイレ動作等も見守りにて可能となった。 【考察】 一般的に強い拒否や暴言、暴力などがみられる認知症患者の理学療法は進めることが難しいとされている。その場合、説明をゆっくり繰り返すや暴力行為の背景を探っていく等が必要といわれているが、現実はうまくいくとは限らない。そのため現場では経験から患者に合わせて対応しているというのが現状である。したがって認知症患者に対する理学療法では症例ごとにアプローチを考え実践し、それらを検証していくことが必要といえる。 症例1では、暴力がみられる患者に対して1人のPTが抑えつつ、もう1人のPTが理学療法を実践するという形で行った。一般的に介助が大変な症例に対してPT2人が関わることは臨床ではよくあることだが、今回はPT2人が、それぞれの役割を分担したうえで同時に協力して介入した。ただし暴力を抑えるといっても力任せに抑え込むというのではなく、話しかけながらなだめる、あるいはPTに被害がでない範囲で抑えるといった感じである。その結果、理学療法が実施できるようになり坐位練習が継続できた。本経験を通して、PT2人が同時に関わるということは、暴力を抑えることができる点だけではなく、介入がスムーズにできるという点や認知症患者の評価やゴール設定を多角的に検討できるという点においても有効であると考えられた。 一方、症例2では家族承諾のもと、強い促しと自発動作に合わせた理学療法を行った。その結果、理学療法は進み患者の基本動作等は向上した。本経験からは、様々な介入を行っても改善がみられないときは、家族承諾のもと強く促す理学療法もときには有効ではないかと考えられた。ただし強い促しは人権侵害や逆効果にもなりえることから、実践で用いるときは慎重に対応すべき問題とも考えられた。今後はさらに認知症患者に対する介入方法を事例ごとに検証し、エビデンスの構築、確立へと向けていきたい。 【理学療法研究としての意義】 本研究からは、拒否が強くみられる認知症患者の理学療法では「PT2人が同時に関わる」や「強く促す、自発動作に合わせる」といった介入が効果的であるということが示唆された。認知症患者の症状は複雑であり理学療法を行う上で多様な工夫や手段が必要であることから、それらを提示できた本研究は意義あるものと考えられる。