著者
小泉 美緒 奥村 将之 玉木 彰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0770, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】呼吸リハビリテーションにおける下肢の筋力トレーニングのエビデンスレベルは最も高いGrade Aに位置づけられている。しかし,呼吸器疾患患者では呼吸困難感などにより筋力トレーニングに必要な高強度負荷をかけられないという問題がある。そこで近年,骨格筋電気刺激(以下,EMS)が注目されている。これまでにEMSの生理学的効果に着目した先行研究は散見されるが,その効果が現れる実施頻度に関する報告は少ない。そこで本研究では,EMSの異なる実施頻度が下肢の筋厚,筋力,運動耐容能に与える効果を検証し,その効果の差を比較検証することを目的とした。【方法】対象は健常成人男女25名(男性9名・女性16名,年齢:20.3±1.2歳,身長:164.5±7.5cm,体重:56.6±8.2kg)とし,EMS非実施群(Control群)と,EMS実施群を週3日実施群(週3群),週5日実施群(週5群)に無作為に分類した。EMS実施群はベルト電極式骨格筋電気刺激装置を用い,非監視下にて1日1回20分の電気刺激を6週間継続して実施した。強度は対象者の耐えうる最大強度とし,毎回指定の用紙に強度を記入してもらうよう指示した。尚,全ての対象者は6週間のうち最初と最後の1週間の活動量をモニタリングし,日常生活における活動量を統一した。EMS介入前には,超音波診断装置を用い大腿部と下腿部筋厚,等尺性膝関節伸展筋力(膝伸展筋力)及び筋疲労率,体組成などを測定し,さらに運動耐容能として心肺運動負荷試験(CPX)を実施し,6週間後も同様の評価を行った。また,CPXと膝伸展筋力の測定日は別日とした。統計処理は各群のEMS実施前後における各測定値の差を対応のあるt検定で,3群間における各測定値の変化量の差を一元配置分散分析および多重比較にて分析した。さらに,大腿部筋厚と膝伸展筋力の関係をPearsonの相関係数を用いて分析した。有意水準は5%とした。【結果】EMS実施後の大腿部,下腿部筋厚は実施前より週3群,週5群で有意に高値を示した(p<0.05)。また,各群における筋厚の変化量はControl群と比較して週3群,週5群で有意に高値を示し(p<0.05),週3群と週5群間には有意差が認められなかった。EMS実施後の膝伸展筋力は週3群と週5群で有意に高値を示し(p<0.05),膝伸展筋力の変化量はControl群と比較して週3群と週5群で有意に高値を示した(p<0.05)。EMS実施後のpeak Wattと右脚筋肉量は週5群のみ有意に高値を示した(p<0.05)。さらに,大腿部筋厚と膝伸展筋力との間には有意な相関関係が認められた。【結論】6週間のEMSの実施により週3群では筋厚,膝伸展筋力に有意な増加が認められ,その変化量は週5群と比較しても統計学的に有意な差は認めなかった。このことから,EMSは週3日という実施頻度でも十分に下肢の筋力トレーニングとしての効果が得られることが示唆された。
著者
植木 純 神津 玲 大平 徹郎 桂 秀樹 黒澤 一 安藤 守秀 佐野 裕子 佐野 恵美香 石川 朗 高橋 仁美 北川 知佳 玉木 彰 関川 清一 吉川 雅則 津田 徹
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.95-114, 2018-05-01 (Released:2018-09-20)
参考文献数
115
被引用文献数
10

呼吸リハビリテーションとは,呼吸器に関連した病気を持つ患者が,可能な限り疾患の進行を予防あるいは健康状態を回復・維持するため,医療者と協働的なパートナーシップのもとに疾患を自身で管理して自立できるよう生涯にわたり継続して支援していくための個別化された包括的介入である.呼吸リハビリテーションは原則としてチーム医療であり,専門のヘルスケアプロフェッショナルすなわち,医師,看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,臨床工学技士,管理栄養士,歯科医師,歯科衛生士,医療ソーシャルワーカー,薬剤師,保健師,公認心理師,ケアマネージャー等の参加により,あるいは必要に応じて患者を支援する家族やボランティアも参加し行われるものである.また,呼吸リハビリテーションは病態に応じて維持期(生活期)から終末期まで,急性期,回復時,周術期や術後回復期も含むシームレスな介入である.介入に際しては,評価に基づきコンディショニングを併用した運動療法を中心として,ADLトレーニングを組み入れ,セルフマネジメント教育,栄養指導,心理社会的支援等を含む包括的な個別化プログラムを作成,実践する.達成目標や行動計画を医療者と協働しながら作成し,問題解決のスキルを高め,自信をつけることにより健康を増進・維持するための行動変容をもたらすよう支援する.継続への指導は再評価に基づき行い,身体活動の向上を重視する.呼吸リハビリテーションは息切れを軽減,健康関連QOLやADL,不安・抑うつを改善させ,入院回数・日数を減少させる等の有益な治療介入であり,適応のあるすべての呼吸器に関連した病気を持つ患者に実施される必要がある.
著者
岩 祐生輝 宮本 俊朗 中川 彰人 安村 良男 玉木 彰
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.15-24, 2022 (Released:2022-02-20)
参考文献数
52

【目的】高齢急性心不全症例への神経筋電気刺激療法(以下,NMES)の安全性,有効性の検証。【方法】75 歳以上の高齢急性心不全入院症例を心臓リハビリテーションのみのcontrol 群とNMES を追加するNMES 群に無作為割り付けし,介入0 日目,2 週目に安全性,骨格筋指標,身体機能指標を評価した。【結果】control群8例(平均83歳)とNMES 群10 例(87 歳)が登録された。介入期間で両群ともに有害事象は認めなかった。また,NMES 群は,control 群に比べて2 週目の大腿四頭筋筋厚(control vs NMES; 9.6 ± 2.7 vs 13.8 ± 2.8 mm, p = 0.012),膝関節伸展筋力(0.2 ± 0.1 vs 0.38 ± 0.1 Kgf/kg, p = 0.016)に高値を認めたが,身体機能指標に有意差はなかった。【結論】高齢心不全患者の急性期において,NMES は骨格筋量および筋力低下を有害事象なく抑制する可能性がある。
著者
池田 耕二 玉木 彰 山本 秀美 中田 加奈子 西條 剛央
出版者
日本心身健康科学会
雑誌
心身健康科学 (ISSN:18826881)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.102-108, 2009-09-10 (Released:2010-11-19)
参考文献数
23

本研究の目的は,認知症後期高齢患者の理学療法実践において周囲からも一定の評価を受けている4年目の理学療法士の「実践知」の構造の一端を,構造構成的質的研究法により探索的に明らかにし,それらを実践理論や教育モデルの一つとして提示することにある.その結果,実践知モデルは【患者力】と【家族力】の2つのカテゴリーによって構成された.【患者力】は「身体の基本的な動作能力」,「疼痛の程度」,「関節可動域障害の程度」から総合的に評価される《動きからみる身体能力》と「否定的感情」,「肯定的感情」の表出やそれらの「感情の波」として評価される《感情表出パターン》,さらに「理学療法士に対する認識」,「自己や周囲に対する誤認識」から解釈・判断される《関わりの中で感じる認知能力》,「口頭指示の入りやすさ」,「発語能力」,「働きかけに対する反応」から評価される《反応からみるコミュニケーション能力》の4つのサブカテゴリーによって構成された.また【家族力】は,「家族の退院にむけた希望」や「家族の理解や協力」によって構成された.これによって認知症後期高齢患者の社会復帰に向けた問題点の一端を,患者とその家族,それらのバランスという視点から評価することや,それによって理学療法を施行する際には,どこに大きく焦点をあてるべきかが理解しやすくなる可能性が示唆された.また理学療法実践においても柔軟なストラテジーの選択に活用できるということからして有用性が発揮される可能性が示唆された.
著者
玉木 彰 大島 洋平 解良 武士
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.DcOF1088, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】呼吸理学療法では,胸郭柔軟性の改善を目的に,胸郭伸張法,肋骨の捻転,胸郭の捻転,シルベスター法などの徒手的な胸郭可動域練習を実施している。これらの治療対象は呼吸器疾患のみならず,神経筋疾患や脳血管障害患者など幅広く,呼吸理学療法におけるコンディショニングの一つとしてプログラムに組み込まれることが多い。ところで,これらの胸郭可動域練習によって期待できる治療効果としては,胸郭柔軟性の改善だけでなく,換気量の増大,胸郭周囲筋の筋緊張抑制,リラクセーションなどが挙げられているが,これらの効果を裏付ける根拠となるデータは殆どないのが現状である。そこで本研究では,徒手的な胸郭可動域練習の効果を明らかにする目的で,治療前後における肺・胸郭のコンプライアンスや呼吸運動出力などを分析し,胸郭可動域練習の生理学的意義について検討した。 【方法】対象は健常な成人男性13名とした。年齢は22.1±2.8歳,身長は176.1±5.4cm,体重は66.5±9.7kgであった。各対象者に対し,初めにスパイロメーター(ミナト医科学社製AS-407)を用いて肺活量(VC)を測定した。測定は3回行い最大値を採用した。次に背臥位となり安静時の一回換気量,呼吸数などの換気パラメーターおよび,呼吸運動出力の指標として気道閉塞圧(P0.1)を測定した。方法は気道閉塞装置(Inflatable Balloon-Type&#8482; Inspiratory Occlusion)に流量計とマスクを直列に接続し,対象者の口から息が漏れないよう,測定担当者が固定した。さらに最大吸気位からゆっくり力を抜いて段階的に息を吐かせ,各肺気量位における肺容量と気道内圧の関係から圧量曲線を求め,肺・胸郭のコンプライアンスを測定した。これらの測定を以下に示す胸郭可動域練習の治療前後で同様の手順で実施した。 治療として実施した胸郭可動域練習は,全て背臥位における徒手胸郭伸張法,肋骨の捻転,胸郭の捻転の3種類とした。手技方法は,「呼吸理学療法標準手技(2008)」に掲載されている方法に準じて両側の胸郭に対し実施した。治療時間は実際の臨床を想定し,各手技の実施時間を約2分間,合計約6分間とした。統計解析は,治療前後における各測定項目について,対応のあるt検定を実施し,有意水準は5%未満とした。【説明と同意】全ての被験者には,本研究の主旨を口頭および書面で説明し,同意を得た上で測定を実施した。【結果】肺活量は治療前後でそれぞれ,4.98±0.57L,5.01±0.61Lと有意な増加は認められず,また圧量曲線から求めた肺・胸郭のコンプライアンスは治療前後でそれぞれ,5.22±1.59L/cmH2O,5.65±1.86 L/cmH2Oと有意な改善は認められなかった。一方,安静時のおける一回換気量も治療前後で変化が認められなかったにも関わらず,呼吸運動出力を示すP0.1(1.81±0.45cmH2O,1.18±0.45cmH2O)や呼吸数(14.21±4.33回/分,12.76±3.59回/分),吸気時間(1.96±0.54秒,2.64±0.84秒),呼気時間(2.32±0.55秒,2.84±0.78秒),吸気呼気時間比(0.85±0.11,0.93±0.13)には治療前後で有意な改善が認められた。【考察】本研究では,呼吸理学療法におけるコンディショニングとして実施されている胸郭可動域練習の生理学的意義について,呼吸機能や肺のコンプライアンス,呼吸運動出力の面から検討した。その結果,肺活量や肺のコンプライアンスには治療前後における改善は認められなかったが,P0.1や吸気時間,呼気時間などにおいて有意な改善が認められた。P0.1は中枢からの呼吸運動出力を反映すると考えられ,横隔神経活動との相関があることから,呼吸努力を間接的に捉えることができるため,呼吸困難に関する研究の指標として使われている。したがって,従来は胸郭可動性を改善することで胸郭柔軟性(胸郭コンプライアンス)や肺活量(肺のコンプライアンス)の改善などが得られると考えられてきたが,本研究の結果から,胸郭可動域練習の生理学的意義は呼吸運動出力の低下,すなわち呼吸困難の軽減やリラクセーション効果であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は,これまで実施されてきた胸郭可動域練習の効果に関する生理学的意義を明らかにするものであり,今後の呼吸理学療法のエビデンス作りに寄与するものである。
著者
玉木 彰 元山 美緒 佐藤 晋
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.86-88, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
14

呼吸リハビリテーションの中心は運動療法であり,その効果は多くの研究によって明らかにされており,COPD診断と治療のためのガイドラインにおいても非薬物療法の1つとして確立されている.しかし運動療法の実施にあたっては,適切な運動強度の設定,介入の時期と方法の吟味,適切な対象者の選定などが重要であり,実施前にこれらについて十分に検討しなければ,運動療法の効果が認められないばかりか,かえって逆効果(有害)となる可能性も否定はできない.したがって運動療法は有効な治療法であるが,慎重に実施すべきである.
著者
小泉 美緒 玉木 彰 永田 一真 名和 厳 富井 啓介
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.262-265, 2019-11-30 (Released:2020-01-28)
参考文献数
14

症例は73歳男性,特発性肺線維症に気胸を合併していた.公営住宅3階に独居で,ポータブルタイプの酸素濃縮器を使用し,同調式 3 L吸入下で歩行と階段昇降を行っていた.理学療法開始時には下肢筋力低下および運動耐容能の低下を認め,同調式吸入下での階段昇段時に低酸素血症と著しい呼吸困難,呼吸数増加を認めていた.3週間の介入によって下肢筋力,運動耐容能は改善したものの,同調式吸入下では階段昇降時の呼吸困難,低酸素血症は改善しなかったため,同調式から連続式に切り換え可能な呼吸同調器付きの酸素ボンベへ変更した.その結果,連続式吸入下で20段の階段昇段と1回の立位休憩で目標であった階段昇段40段を獲得し,本症例は自宅退院に至った.本症例のような階段昇段時に低酸素血症,呼吸困難,呼吸数増加を呈する患者に対しては,一時的に連続式を使用する指導の検討が必要と考えられた.
著者
荻野 智之 玉木 彰 解良 武士 金子 教宏 和田 智弘 内山 侑紀 山本 憲康 福田 能啓 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.124-130, 2014-04-30 (Released:2015-11-13)
参考文献数
29

【目的】健常成人を対象に,体幹前傾角度や上肢支持姿勢の違いが肺気量位,胸腹部呼吸運動,呼吸運動出力に及ぼす影響を調査した.【方法】測定肢位は,安静立位,体幹前傾30°位,60°位,各体幹前傾姿勢での上肢支持(on handとon elbow)の7姿勢とした.肺気量位の測定は呼気ガス分析器を用い,胸腹部呼吸運動はRespiratory Inductive Plethysmograph(RIP)を用いて測定した.さらに呼吸運動出力として各姿勢時のairway occlusion pressure 0.1 s after the start of inspiratory flow(P0.1)を測定した.【結果】上肢支持位で肺気量位は有意に増加し,胸郭も拡張位となった.しかし,同じ体幹前傾角度での上肢支持による有意な変化や上肢支持姿勢の違いによる有意な変化はみられなかった.P0.1も姿勢による有意な変化はみられなかった.【結語】健常成人男性においては,上肢支持位で肺気量位は増加し,胸郭も拡張位となるが,上肢支持と体幹前傾姿勢による加算的効果や交互作用は認められないものと考えられた.
著者
永渕 輝佳 中田 活也 玉木 彰 永井 宏達 永冨 孝幸 木村 恵理子 濱田 浩志 二宮 晴夫
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1325, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】私達は第48回日本理学療法学術大会において筋温存型MIS-THAであるanterolateral-supine approach(AL-S)と筋切離型MIS-THAであるposterolateral approach(PA)の進入法の違いによって股関節外転,伸展,外旋の筋力回復はAL-Sのほうが早いことを報告した。また,Gremeaux(2008年)らは,THA術後の筋力回復において大腿四頭筋と下腿三頭筋へ低周波を行うことによって,膝伸展筋力の改善があると報告しているが,股関節周囲筋への電気刺激による筋力への影響を検討した報告はみられない。そこで今回,THA術後早期の下肢への電気刺激(Electric muscle stimulation:EMS)が術後下肢筋力,達成度に与える影響を明らかにすること目的に検討を行った。【方法】当院において変形性股関節症(股OA)を原因疾患として初回片側THAの施行症例で脱臼度Crowe分類III度以上の股OA,非手術側が有痛性の股関節疾患を罹患している者を除外した70例を対象とした(全例女性・平均年齢63.0±7.6歳)。これらの内訳は,AL-S群32例(62.8±7.2歳),PA群32例(63.0±8.2歳),PAの電気刺激群(EMS-PA)6例(60.8±5.5歳)であった。身長,体重,BMI,手術時年齢は3群間に統計学的有意差は認めなかった。手術はすべて同一の術者が行い,術後は3群ともに同一のクリニカルパスを使用し,術翌日より理学療法士による関節可動域練習,筋力増強練習,歩行練習,ADL練習を実施した。EMS-PA群においては手術側の大殿筋に対して術後3日目より週5日を3週間行った。電気刺激の周波数20Hz,肢位はベッド上背臥位とし,関節の動きを含まないような収縮を20分間行い,不快感や痛みを訴えた場合は中止した。電気刺激装置はホーマーイオン社製オートテンズプロIIIを使用した。検討項目は股関節外転,屈曲,伸展,外旋,内旋,膝関節伸展,屈曲筋力とし,術前,術後10日(10D),21日(21D),2カ月目(2M)に測定した。筋力測定にはHand-Held Dynamometerを使用し,同一の検者によって行い,得られた値からトルク体重比(Nm/Kg)を算出した。達成度は手術日からのStraight Leg Raiseが可能,片脚立位(SLS)が可能,杖自立,独歩自立になるまでの日数を調査した。統計学的検討は筋力推移の比較には分割プロット分散分析3×4,進入法(AL-SとPA,EMS-PA)×時期(術前,10D,21D,2M)を行った。術前に有意差を認めた項目は共分散分析を行い,交互作用を認めた項目は多重比較検定を行った。達成度の検討は一元配置分散分析を用い,有意差を認めた項目は多重比較検定を行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会による承認を受けた上で実施した。全対象者に対し,事前に十分な説明を行い,研究参加への同意と同意書への署名を得た。【結果】筋力推移の比較では股関節外転(p<0.01)屈曲(p<0.05)外旋(p<0.01)伸展(p<0.01)筋力において進入法と時期の要因間に交互作用が認められた。各時期の3群間の比較では股関節外転は術後10DではAL-SがPAより高く,21D,2MではAL-S,EMS-PAがPAより高かった。股関節外旋は術後10DではAL-SがPA,EMS-PAより高く,EMS-PAがPAより高かった。21DではAL-SがPA,EMS-PAより高く,2MではAL-SがPAより高かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。伸展は10DではAL-SがPAより高かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。達成度は,SLS可能日数,杖歩行自立までの日数は3群間に有意差が認められ,両項目ともにAL-S群がPA群より有意に早かったがEMS-PAとの間には有意差はなかった。EMSは全例,途中で中止することなく行えた。【考察】電気刺激療法の効果としては筋機能の改善,疼痛緩和,組織修復促進,血管新生,血管透過性の促進などが報告されている。Simon(1990年)らは大殿筋への電気刺激により臀部の血流が増加したと報告しており,今回の電気刺激の強度,頻度から考えると大殿筋に関与している股関節伸展や外旋筋力がPAに比べ回復していたのは,電気刺激により血流増加による疼痛緩和や動員される運動単位の増加,type2繊維の筋収縮を促すことが筋機能の向上に繋がったのではないかと考える。外転筋力に関しては,短外旋筋は関節の後方安定性に寄与していると言われており,EMS-PAがPAより外旋筋力が高かったことからEMS-PAの股関節の安定性が向上し外転筋力が改善したのではないかと考える。本研究の結果より,THA後の電気刺激は安全に行うことができ,術後の筋力回復に有用であることが示された。【理学療法学研究としての意義】THA術後早期の下肢への電気刺激が術後下肢筋力,達成度に与える影響を明らかにすることで,術後早期のリハビリテーションにおける個別プログラム立案の一助になると考えられる。
著者
長谷川 聡 大島 洋平 宮坂 淳介 伊藤 太祐 吉岡 佑二 玉木 彰 陳 豊史 伊達 洋至 柿木 良介
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.De0029, 2012

【はじめに、目的】 生体肺移植は,健康な二人の提供者(ドナー)がそれぞれの肺の一部を提供し,これらを患者(レシピエント)の両肺として移植する手術である.生体肺移植ドナーは肺の一部をレシピエントに提供することで呼吸機能が低下することは知られているが,手術における呼吸器合併症の発症や術後の呼吸機能,運動耐容能および健康関連QOLの中期的経過に関する報告は世界的にもあまりみられない.本研究の目的は,生体肺移植ドナーが手術を受けることによる術後の呼吸機能および身体機能,生活の質に与える影響を明らかにし,本手術施行におけるドナーの予後を検証することである.【方法】 2008年6月から2010年12月までの期間に当院で施行された生体肺移植術におけるドナー28名(男性9名、女性19名)を対象とした.尚,全症例に対して,術前後のリハビリテーションを実施した.術後の短期成績として,術後呼吸器合併症の発症を検証した.さらに,呼吸機能の評価として,術前, 3ヶ月,6ヶ月に努力性肺活量(以下FVC),1秒量(以下FEV1),肺拡散能(DLCO)を測定した.また,術前,術後1週,3ヶ月における6分間歩行距離(以下6MWD),および咳嗽時疼痛をNumerical Rating Scale (NRS)を用いて測定し,術後経過を検証した.手術における健康関連QOLに与える影響を検証するために,術前,術後3ヶ月,6ヶ月にMOS 36-item Short Form Health Survey (SF-36)を用いてQOL評価を行なった.測定値の各評価時期における平均値を算出するとともに,反復測定一元配置分散分析およびScheffe's法による多重比較検定を用い,各時期における平均値の比較を行なった.統計学的有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には口頭および文章にて本研究の主旨および方法に関するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている.本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,京都大学医学部医の倫理委員会の承認を得ている.【結果】 術後呼吸器合併症(肺炎・無気肺)の発生症例は無かった.FVCは,術後3ヶ月,6ヶ月においてそれぞれ術前の79.4±6.4%,86.1±7.0%の回復であった.FEV1は,術後3ヶ月,6ヶ月においてそれぞれ術前の81.8±7.8%,85.7±9.7%の回復であった.DLCOは,術後3ヶ月,6ヶ月においてそれぞれ術前の80.0±1.0%,85.2±9.7%の回復であった.呼吸機能は,術後3ヶ月において有意に低下しており,術後6ヶ月経過しても完全には回復しなかった.術後3ヶ月における6MWDは,術前の101.2±7.7%まで回復し,咳嗽時疼痛はNRSで0.4±1.1とほぼ消失し,術前と比較して統計学的な差を認めなかった.QOLに関しては,SF-36の下位尺度は,術後3ヶ月では十分に改善せず,術後6ヶ月では,全項目で国民標準値を超えていたが,術前の得点にまでには改善しない項目がみられた.【考察】 呼吸機能は術後6ヶ月の時点においても術前と比較して機能低下は残存するものの,切除肺区画量から算出される予測機能低下よりもはるかに良好な値であった.運動耐容能は術後1週で,呼吸機能の回復よりも高い回復率を示し,術後早期から良好であり,さらに術後3ヶ月の時点で術前レベルに回復することが明らかとなった.これらの結果より,ドナーは少なくとも術後3ケ月経過すれば,呼吸機能低下の残存に関わらず,運動耐容能の結果からも術前の生活レベルには復帰できるが,健康関連QOLの観点からみるとまだ不十分であり,6ヶ月経過してもQOLの改善は完全ではないことが示唆された.本研究の結果より,術前後のリハビリテーションを実施した生体肺移植術ドナーは,術後呼吸器合併症を発症することなく,安全に術前の運動耐容能を取り戻すことが出来るが,健康関連QOLは術後半年経過しても完全には回復しておらず,継続的かつ包括的な治療介入が必要であることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 生体肺移植手術は,脳死肺移植手術とともに,難治性の呼吸器疾患患者の生命予後を改善する非常に有用な先端医療であり,本邦においても今後様々な施設において手術施行例が増加すると思われる.レシピエントに対するリハビリテーションにおける臨床研究は,無論,重要であるが,ドナーに関しても,臨床研究を進めるとともに,手術における身体機能やQOLへの影響を検証し,我々理学療法士がエビデンスに基づき適切に介入していく必要がある.本研究はこのような新たな視点を示した点で意義深く,重要な研究である.
著者
塩谷 隆信 佐竹 將宏 玉木 彰 菅原 慶勇 高橋 仁美 本間 光信
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.8-17, 2012-06-30 (Released:2016-04-25)
参考文献数
30

呼吸リハビリテーション(呼吸リハビリ)は,COPD患者の日常生活を全人間的に支援する医療システムである.呼吸リハビリは,薬物療法により症状が安定している患者においても,さらに相加的な上乗せの改善効果を得ることができる.運動療法は呼吸リハビリの中心となる構成要素である.運動療法施行時には体重減少を抑制し,運動療法の効果を高めるために栄養補給療法を併用することが望ましい.近年,低強度運動療法の有用性が報告され,その普及が期待される.運動療法は,継続して定期的に行われる必要がある.維持プログラムとしては,持久力トレーニングと筋力トレーニングが主体となり,運動習慣がライフスタイルに組み込まれていることが望ましい.運動療法のなかで,歩行は性別,年齢を問わず最も親しみやすい運動様式である.
著者
松本 匠平 玉木 彰 和田 陽介 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.85-90, 2019-05-31 (Released:2019-06-28)
参考文献数
18

【目的】呼吸理学療法において咳嗽介助や咳嗽練習は重要であるが,臨床上体位が制限されることは多い.本研究では若年者および高齢者を対象に体位が咳嗽・呼吸機能に与える影響を,複数の測定項目を用いて多くの観点から検討した.【方法】健常若年男女20名,健常高齢男女6名を対象とし,ベッド上で座位,背臥位,半側臥位,側臥位,半腹臥位,腹臥位の6つの姿勢を無作為にとらせ,肺活量,1秒量,咳嗽時最大流量,咳嗽時吸気量,呼吸筋力,咳嗽時の胸腹部の周径差,咳嗽加速度を算出した.【結果】若年者,高齢者ともに座位と比較すると臥位での咳嗽機能の数値は低下し,特に半腹臥位や腹臥位で低値を示した.【結論】半腹臥位や腹臥位では咳嗽機能が低下し,高齢者ではより顕著な低下を示した.端坐位の実施が困難である患者に対し,半腹臥位や腹臥位での介入は不利であるが,側臥位での介入は比較的有利である可能性が示唆された.
著者
田村 宏 名和 厳 清水 憲政 柳 良美 玉木 彰 兪 陽子
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.80-85, 2017-09-01 (Released:2017-11-10)
参考文献数
11

【背景】高齢期の誤嚥性肺炎患者に対する呼吸管理において,排痰援助は効果的であるという報告は散見されるが排痰援助を主体に看護師と協働したものについては限定される.本研究では看護師の意識調査を基に排痰援助の共有化を図り,包括的アプローチの有用性を明らかにすることを目的とした.【方法】高齢期の誤嚥性肺炎患者を対象に通常の看護ケアを実施した群85名(対照群)と理学療法士より排痰援助の共有化を図り看護ケアに導入した群70名(介入群)の在院日数を比較検討した.また排痰援助の共有化を明らかにするため介入群の活動前後に病棟看護師に対して意識調査を実施した.【結果】在院日数は対照群に比して介入群の方が有意に短縮した.意識調査では介入群に有意な理解度の向上を認めた.【結論】高齢期の誤嚥性肺炎に対する排痰援助は看護師と協働して実践することで治療効果の向上が期待される重要な包括的アプローチであることが示唆された.
著者
河島 常裕 玉木 彰 木村 雅彦 石川 朗
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.D0851, 2007

【はじめに】<BR>アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(以下ABPA)は、気管支内にアスペルギルスが腐生しアスペルギルス抗原に対するアレルギー反応で、多量の喀痰と喘息様発作、肺浸潤を繰り返す疾患であり、急性増悪を予防するためには喀痰喀出が重要である。今回、毎日の喀痰喀出が必要な症例において、修学旅行先で理学療法士の連携により無事に修学旅行を終了できた症例を経験したので報告する。<BR>【症例および経過】<BR>16歳女性。疾患名:ABPA。小学生の頃から「喘息」「副鼻腔炎」と言われ、治療を受けてきたが改善が見られず、平成16年12月近医にてABPAと診断され、平成17年5月当院初診。以降、当院にて内服治療、排痰を中心とした呼吸理学療法、家庭内での排痰手技、生活指導等を実施。その後ABPAの急性増悪と肺炎を発症し入退院を繰り返す。平成18年2月、右肺全摘術の外科的治療を考慮して入院。医師から本人、家族に対して厳しい病状説明があったが、結果的に外科的治療はせず、内服治療と呼吸理学療法を続けていく方針となる。8月、本人の高校入学時からの楽しみであった、北海道から京都、東京への修学旅行を迎えるにあたり、「人生最後の旅行になるかもしれない」「どうしても行かせてあげたい」という家族や当院スタッフの意向により準備を開始した。学校側とは担任教諭、学年主任、養護教諭と十分に話し合いをもち、緊急対応時などの確認などを行った。学校側は非常に協力的であり、旅行会社、航空会社に対して協力を依頼。病院側からは病状の急性増悪を防ぐための薬物調整、緊急時の紹介状の発行、連絡体制の確認、旅行先でのリハビリテーション支援体制の依頼などを行った。リハビリテーション支援体制においては、修学旅行のスケジュールや本人の体調を考慮して、一日おきに実施できるように調整した。また、旅行先では本人、担任教師、滞在地の担当理学療法士、当院理学療法士と常に24時間連絡が取れる体制をとった。その結果、京都、東京の滞在ホテルにて各1時間排痰を実施し、4泊5日の修学旅行をトラブルなく終了できた。<BR>【考察】<BR>毎日、昼は学校の保健室での自己喀痰、朝と夜は母親の排痰手技による痰の喀出を行っており、自分だけでは不十分である。加えて、修学旅行では活動量の増加、生活パターンの変化、環境の変化などにより、急性増悪が予想された。これに対し、一日おきにPTでの対応、緊急時の体制を確立することにより、無事に終了できたと考えられる。今回は、すべてボランティアでの対応であり、特別な症例と考える。しかし、QOL向上のためには適切な対応であったと思われる。<BR>
著者
藤沢 千春 玉木 彰 帯刀 未来 生島 秀樹 常峰 紘子 吉岡 聡
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.629-632, 2016 (Released:2016-08-31)
参考文献数
15

〔目的〕対麻痺を呈した化学療法中の悪性リンパ腫症例に対して,ベルト電極式骨格筋電気刺激療法(B-SES)の廃用性筋萎縮の予防効果と安全性を検証した.〔対象と方法〕対象は悪性リンパ腫による脊髄損傷を呈した症例とした.B-SESによる廃用性筋萎縮予防の効果判定として初期,中間,最終に超音波診断装置による大腿四頭筋の筋厚測定とAmerican Spinal Injury Association運動機能評価(ASIA)を実施した.有害事象は有害事象共通用語基準を用いて評価した.〔結果〕骨格筋萎縮の予防は可能であったが,ASIAの改善は認められなかった.有害事象は全ての介入期間で認められなかった.〔結語〕B-SESは化学療法実施中の全ての介入期間で有害事象を生じず,廃用性筋萎縮の予防が可能であった.
著者
鈴木 眞知子 陳 和夫 玉木 彰 清川 加奈子 野口 裕子 森友 和仁 上田 真由美 田中 優子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、超重症児の在宅療養支援プログラムの開発であり、先行研究で作成したプログラムモデル(案)の効果を検証することである。研究方法は、アクションリサーチであり、(1)個別支援、(2)地域を対象とした事業を主軸とした実践を試みた。その結果、本モデルは(1)個を中心につなぐ役割の効果(窓口に働きかけ、橋渡しをする、当事者と関係者との隙間を埋める)、(2)医療依存度の高い重度障害児の発達を促し、自律(から自立)を支え、社会参加の促進に向けた「子育て」とその支援を強化することが確認された。