著者
中西 重忠 森吉 弘毅 横井 峰人 笹井 芳樹 CARON Marc CARON Marc G 影山 龍一郎 別所 康全
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

グルタミン酸受容体は神経の興奮を伝達する受容体として働き、記憶・学習という高次脳機能や神経細胞死を制御する中枢神経系の重要な受容体である。本研究は、Nash博士の参加(平成7年5月から1年間滞在)も含め、相手側MarcCaron博士との共同研究のもとに、グルタミン酸受容体の細胞内情報伝達系と調節機構を明らかにすることを目的としたものである。具体的には、1.受容体の燐酸化による調節機構、2.受容体の活性化による細胞内情報伝達系の制御機構、3.細胞内情報伝達系の調節による脳神経機能のメカニズムを明らかにすることであり、得られた結果をまとめると以下の通りである。1.メタボトロピック型受容体の中で、mGluR1とmGluR5は共にIP_3細胞内情報伝達系に共役し、細胞内Ca^<2+>を増加させる。mGluR1とmGluR5を発現させた細胞を比較することにより、mGluR5はmGluR1と異なりCa^<2+>の増加がoscillatoryな反応を示すこと、又この反応はプロテインキナーゼCによるmGluR5の特異的なスレオニンの燐酸化によって引き起こされることを明らかにした。さらにastrocyteの培養系を用い、mGluR5は神経細胞においてもoscillatoryなCa^<2+>応答を示すことを明らかにした。以上の結果は、Ca^<2+>のoscillatoryな反応をもたらす標的蛋白を初めて同定し、そのメカニズムを明らかにしたものである。2.yeast two hybrid systemを用い、AMPA型グルタミン酸受容体の中でCa^<2+>の透過に重要な役割を果たすGluR2サブユニットと神経伝達物質の分泌を調整するNSF蛋白が結合することを明らかにした。さらにNSFはAMPA型グルタミン酸受容体のチャンネル活性を抑制することを示し、伝達物質放出の新しい調節メカニズムを明らかにした。
著者
本庶 佑 中西 重忠 湊 長博 北 徹
出版者
京都大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
2000

本庶グループは、AIDの突然変異体を用いてAIDのN末端が体細胞突然変異に、C末端がクラススイッチ組換えに必要な機能特異的ドメインであることを証明した。一方、DNA deamination学説において、中心的な役割をすると考えられているウラシルDNAグリコシラーゼ(UNG)がDNAの切断には関与せず、この酵素の役割は酵素活性を通じてではなく、そのタンパク質として関与することを明かにした。一方、PD-1の自己免疫制御についてはPD-1欠失が自己免疫性糖尿病の発症を著しく促進し、この実験系を用いてNODマウスの糖尿病感受性遺伝子座の解析が可能であることを示した。湊グループは、SPA-1 KOマウスの新しい病態形質として、抗DNA抗体・抗核抗体の産生とそれによる典型的なループス腎炎の発症を確認した。これは異常な自己反応性B1細胞の出現とその抗原特異的免役応答によるもので、構成的Rap1シグナルによる転写共因子OcaBの過剰発現による免疫グロブリンL鎖の編集(レセプター・エディション)異常に起因することが示された。レセプター・エディションの異常による自己免疫病の発症は従来、自己抗体遺伝子トランスジェニック・モデルを用いて精力的に研究が進められてきたが、今回の結果により、通常の動物のシグナル遺伝子変異によるレセプター・エディションの異常が確かにヒトのループスに相当する自己免疫病態に至りうることが示された。中西グループは、グルタミン酸受容体と共役するイオン・チャンネル及び新たな足場蛋白質(GIRK・K+チャンネル、ubiquitin ligase、tamalin等)を明らかにし、これらの複合体形成がグルタミン酸伝達の制御に重要な役割を果たしていることを示した。さらに小脳発達期の顆粒細胞の増殖、移動、分化、シナプス形成にカルシニュリン・シグナル系が重要な役割を果たし、BDNFとCa2+シグナルの協調的作用がグルタミン酸系シナプス成熟に必須であることを示した。また、大脳皮質の構築を制御するCaja1-Retzius(CR)細胞の特異的遺伝子を同定し、CR細胞が細胞増殖、分化、シナプス成熟に特異性を持って作用していることを示した。北グループは、彼らが同定した酸化LDL受容体LOX-1の血清濃度が急性冠症候群で上昇しており血清LOX-1値は急性冠症侯群の予知因子となる可能性を示した。北らが同定した別の酸化LDL受容体SR-PSOX(CXCL16と同一)は感染性心内膜炎等で心臓の弁内皮細胞に強発現しCD8T細胞のVCAM-1への接着を促進し、IFNγの産生を増加さることを発見した。GFP発現マウスの骨髄移植マウスで実験的動脈硬化を解析し血管平滑筋様細胞も含めて浸潤した多くの細胞が骨髄由来であることを見出した。アダプター蛋白ShcAがインテグリンβ3のチロシンリン酸化依存的に結合し、血小板凝集に重要であることを証明した。
著者
中西 重忠 西田 栄介 西川 伸一 本庶 佑
出版者
京都大学
雑誌
COE形成基礎研究費
巻号頁・発行日
1995

中西のグループは、生体工学的手法(ノックアウト、トランスジェニック)を駆使し、1)基底核神経回路の中でコリン作動性神経細胞を特異的に除去する方法を開発し、基底核のドーパミンとアセチルコリンが拮抗的かつ協調的に運動のバランスを制御していることを明らかにした。2)ヒト傍腫瘍性小脳失調症がヒトmGluR1の自己抗体によって発症すること、又本抗体はマウスに強い小脳失調症を引き起こすことを明らかにした。3)mGluR2が扁桃体を介した恐怖反応と逃避行動に必須であることを示した。本庶のグループは、1)in vitroで抗体遺伝子クラススイッチを高頻度に起こす細胞へ人工ミニ染色体を導入する方法を用い、クラススイッチ組換えの分子機構として、S領域の転写の方向性によって組換えの様式が欠失か逆位かが決定されるということを明らかにした。2)クラススイッチ誘導に際して新たに発現されるRNA editing enzyme AIDを単離し、その発現様式がクラススイッチを起こすgerminal centerに限局していることを明らかにした。3)Bリンパ球のB1細胞とB2細胞の分化増殖決定機構について、B1細胞が細胞表面からのシグナルの強さによって増殖、細胞死、B2への分化を決定していることを明らかにした。4)免疫抑制に関わる分子として単離したPD-1遺伝子の欠失マウスを作成し、このマウスでは腎炎、関節炎などの典型的なSLE様症状を示すことを明らかにした。西川のグループは、1)パイエル板のinducerの形質を明らかにし、本細胞が間質系の細胞であること、又血液幹細胞から本細胞がコミットしてくる各段階を明らかにした。又この細胞によって誘導されるorganizer細胞の同定に成功し、末梢リンパ組織の形成原理が炎症をプロトタイプするという仮説を提唱した。2)GATA1プロモーター/GFP遺伝子を導入したES細胞を用いて胎児型赤血球、血管内皮それぞれに分化決定した細胞と、両方に分化能を有する細胞を分離することに成功し、血液分化のプロセスの新しいモデルを提示した。3)色素系幹細胞が、毛根のバルジ領域に存在し、G0段階で維持されていること、又一旦G1から増殖へと活性化されたstem cellがmicroenvironmentによりG0へと再導入されることを明らかにし、幹細胞を支持するニッチの存在を初めて示した。西田のグループは、1)MAPキナーゼカスケード反応における特異性と効率を規定するドッキング相互作用(触媒部位以外での酵素分子と基質の結合)を解析し、ERK(古典的MAPキナーゼ)、P38およびJNK/SAPKの全てのMAPキナーゼファミリーメンバーが保存されたドッキング部位をC端領域に持つことを明らかにした。2)ERK MAPキナーゼの核内移行が、ERKのチロシンリン酸化によるMEK(MAPKK)からの解離とその後の能動輸送と受動拡散の2経路で行われていることを明らかにした。3)ERK MAPキナーゼの活性化が哺乳動物体内時計のリセット機構に関与することを明らかにした。4)体細胞分裂周期における中心体複製の機構において、中心体複製もDNA複製の開始に不可欠なCdk2により規定されることを明らかにした。
著者
木南 英紀 横沢 英良 鈴木 紘一 田中 啓二 中西 重忠 水野 義邦
出版者
順天堂大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

特定領域研究「蛋白質分解-新しいモディファイアー蛋白質による制御-」(平成12年度〜平成16年度)が終了したので、その成果をとりまとめ、研究成果報告書を文部科学省に提出した。本研究のテーマとした細胞内の主要な蛋白分解システムであるユビキチン・プロテアソームシステム研究とオートファゴソーム・リソソームシステム研究は、研究期間の5年間に大きな進展が見られた。ユビキチン・プロテアソームシステム研究では、このシステムが広く生物・生命現象に関わることが定説となった時点で、一昨年ユビキチンの基質蛋白質への結合反応の発見についてノーベル化学賞が贈られた。本特定領域研究で得られた成果は、その後のこの領域の生物医学的研究の発展に、極めて大きな貢献をした。また、日本発信の研究であるオートファジー研究では、本特定領域研究チームの研究成果は世界最先端を行っており、平成17年度においても世界に注目される成果が出されている。研究成果報告書の提出に加えて、この特定領域研究で得られた研究成果を社会の方々に広く知っていただき、より理解を深めていただくという趣旨で公開講座を平成17年12月24日に順天堂大学有山記念講堂で行った。「いきいきとした細胞、そして健康を保ために」というタイトルで、副題を「タンパク質分解の重要性」とし、5人の演者から世界トップレベルの研究内容をわかりやすく、面白く話していただいた。最後に5人の演者が登壇し、パネルディスカッションを行ったが、150人ぐらいの出席者の中から、次々と質問が出され、討論時間の30分はあっという間に終わった。細胞の中で蛋白質がつくられた後なぜ壊されなければならないか、蛋白質の分解が健康維持や病気の原因・進行にどう関与しているのかという疑問に対する科学的な説明は、かなり理解していただいたように思えた。蛋白質分解の研究領域が益々発展することを祈念する。