著者
田中 啓二
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.221-228, 2011 (Released:2011-10-18)
参考文献数
25
被引用文献数
1

生体を構成する主要成分であり, 生命現象を支える機能素子であるタンパク質は, 細胞内で絶えずダイナミックに合成と分解を繰り返しており, ヒトでは, 毎日, 総タンパク質の約3%が数分から数カ月と千差万別の寿命をもってターンオーバー (新陳代謝) している。タンパク質分解は, 不良品分子の積極的な除去に関与しているほか, 良品分子であっても不要な (細胞活動に支障をきたす) 場合, あるいは必要とする栄養素 (アミノ酸やその分解による代謝エネルギー) の確保のために, 積極的に作動される。タンパク質分解研究は, 過去四半世紀の間に未曾有の発展を遂げてきたが, 現在なお拡大の一途を辿っており, 生命の謎を解くキープレイヤーとして現代生命科学の中枢の一翼を占めるに至っている。我々はタンパク質分解システムについて分子から個体レベルに至る包括的な研究を継続して進めてきた。その研究小史を振り返りながら, タンパク質分解 (リサイクルシステム) の重要性について概説したい。
著者
田中 啓二 村田 茂穂
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.1, pp.30-36, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

様々な神経変性疾患の脳内病理所見でタンパク質の凝集体が出現することは,共通にみられる普遍的な現象である.この凝集体の主成分であるタンパク質の多くがユビキチンで修飾されていることが報告されてきた.ユビキチンがタンパク質分解のマーカー分子であることから,これらの疾病の発症原因にタンパク質代謝系の異常が示唆されてきたが,その分子機構の解明は遅々として進展しなかった.しかし,ユビキチン·プロテアソームシステム研究の飛躍的な進展により,その突破口が開かれようとしている.細胞内において,タンパク質は時として異常性を獲得するが,生じた異常タンパク質を処理し恒常性を維持する機構が備わっている.その主役は分子シャペロンと呼ばれる一連の分子群であり,損傷したタンパク質の再生装置として寄与している.もう一方の役者がユビキチン·プロテアソームシステムである.ユビキチン·プロテアソームシステムはもはや再生して機能タンパク質に復帰することができなくなった異常タンパク質を選別して破壊するマシーンであり,不要物の累積を回避する生存戦略の一貫として重要な役割を果たしている.これらは,分子レベルでみるとタンパク質の健康度をモニターして適宜に処理する細胞内装置とみなすことができる.この現象をタンパク質側からとらえると細胞内の全てのタンパク質は恒常的に品質管理されており,細胞内では無駄な存在が許容されない健全な仕組みが作動していることになる.ごく最近,このタンパク質の品質管理の破綻の累積がニューロンにおける恒常性維持の危険信号となり,引いては細胞死につながることが推定されている.そして特異的なニューロンの大規模な死によって,特定の脳組織の機能が逸脱した結果として引き起こされる様々な神経変性疾患の共通の基盤となっている可能性が高まっている.
著者
水島 昇 斉木 臣二 野田 展生 吉森 保 小松 雅明 中戸川 仁 岩井 一宏 内山 安男 大隅 良典 大野 博司 木南 英紀 田中 啓二 佐藤 栄人 菅原 秀明
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本新学術領域研究は、オートファジーの研究を推進するために、無細胞系構成生物学、構造生物学、細胞生物学、マウス等モデル生物学、ヒト遺伝学、疾患研究を有機的に連携させた集学的研究体制を構築することを目的として設置された。本総括班では、領域における計画研究および公募研究の推進(企画調整)と支援を行うとともに、班会議・シンポジウムの開催、領域活動の成果の発信、「Autophagy Forum」の開設と運営、プロトコール集公開などを行った。
著者
木南 英紀 横沢 英良 鈴木 紘一 田中 啓二 中西 重忠 水野 義邦
出版者
順天堂大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

特定領域研究「蛋白質分解-新しいモディファイアー蛋白質による制御-」(平成12年度〜平成16年度)が終了したので、その成果をとりまとめ、研究成果報告書を文部科学省に提出した。本研究のテーマとした細胞内の主要な蛋白分解システムであるユビキチン・プロテアソームシステム研究とオートファゴソーム・リソソームシステム研究は、研究期間の5年間に大きな進展が見られた。ユビキチン・プロテアソームシステム研究では、このシステムが広く生物・生命現象に関わることが定説となった時点で、一昨年ユビキチンの基質蛋白質への結合反応の発見についてノーベル化学賞が贈られた。本特定領域研究で得られた成果は、その後のこの領域の生物医学的研究の発展に、極めて大きな貢献をした。また、日本発信の研究であるオートファジー研究では、本特定領域研究チームの研究成果は世界最先端を行っており、平成17年度においても世界に注目される成果が出されている。研究成果報告書の提出に加えて、この特定領域研究で得られた研究成果を社会の方々に広く知っていただき、より理解を深めていただくという趣旨で公開講座を平成17年12月24日に順天堂大学有山記念講堂で行った。「いきいきとした細胞、そして健康を保ために」というタイトルで、副題を「タンパク質分解の重要性」とし、5人の演者から世界トップレベルの研究内容をわかりやすく、面白く話していただいた。最後に5人の演者が登壇し、パネルディスカッションを行ったが、150人ぐらいの出席者の中から、次々と質問が出され、討論時間の30分はあっという間に終わった。細胞の中で蛋白質がつくられた後なぜ壊されなければならないか、蛋白質の分解が健康維持や病気の原因・進行にどう関与しているのかという疑問に対する科学的な説明は、かなり理解していただいたように思えた。蛋白質分解の研究領域が益々発展することを祈念する。