著者
田村 直俊 中里 良彦
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.193-199, 2020 (Released:2021-01-21)
参考文献数
50

生理的味覚性発汗の本態について考察する.Brown-Séquard(1850)は学会でチョコレートを食べながら講演して,自らの生理的味覚性発汗を呈示し,本現象が1種の反射によること,全てのヒトにみられる訳でないことを指摘した.その後,本現象の断片的な記述が散見され,家族性の報告もある(Wende & Busch, 1909; Bepperling, 1959; Mailander, 1967).大多数は甘味・酸味で顔面正中部に発汗を示す.本現象はcapsaicin性発汗と同一視されるが,①本来の生理的味覚性発汗は非capsaicin性の味覚によること,②capsaicin受容体は温度覚受容体であることから,両者は異なる現象である.本現象は味覚発汗反射によると考えられる.味覚発汗反射は通常は何らかの機序で抑制されており,本現象を示すヒトは遺伝的にこの反射が脱抑制状態にあるヒトであろう.
著者
中里 良彦 田村 直俊 二宮 充喜子 山元 敏正
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.94-99, 2020 (Released:2020-04-02)
参考文献数
30
被引用文献数
1

味覚性耳下腺痛を呈した42歳女性例を報告した.片側Horner症候群,harlequin症候群の存在から片側の頸部交感神経障害が推定された.繰り返す味覚刺激毎に,刺激直後から交感神経障害側の耳下腺に疼痛が生じ,数分で自然寛解した.また,同時に味覚性発汗を認めた.味覚性耳下腺痛は頸部交感神経節後線維障害による耳下腺の交感神経,副交感神経受容体の脱神経性過敏が原因と考えた.本現象は味覚刺激による反射性唾液分泌の亢進と筋上皮細胞の強収縮の結果,導管内圧が高まり疼痛を誘発していると推定した.MRIで脳,頸部,胸部には異常はなく,交感神経障害の原因は不明であった.味覚性耳下腺痛は耳鼻科領域でHaubrichら(1986年)を誤用してfirst bite syndromeとして報告されているが,Gardnerら(1955年)の最初の原著に従い味覚性耳下腺痛とするべきである.
著者
中里 良彦 田村 直俊 池田 桂 田中 愛 山元 敏正
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.263-270, 2016-03-01

Isolated body lateropulsion(iBL)とは,脳梗塞急性期に前庭症状や小脳症状などの神経症候を伴わず,体軸の一側への傾斜と転倒傾向のみが臨床症候として認められることである。iBLは脊髄小脳路,外側前庭脊髄路,前庭視床路,歯状核赤核視床路,視床皮質路のいずれの経路がどこで障害されても生じる可能性がある。本稿では,延髄,橋,中脳,小脳,視床,大脳において,どの病巣部位でiBLが生じるかを概説する。
著者
田村 直俊 中里 良彦
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.155-161, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
50
被引用文献数
2

Ludwig(1850)は副交感神経が唾液分泌を惹起することを発見した.Bernard(1858)が唾液腺の副交感神経性血管拡張線維を発見したが,Heidenhain(1872)は分泌線維と血管拡張線維は別の線維であると証明した.Heidenhain(1878),Langley(1878)が補助的な交感神経性唾液分泌線維を発見した.Eckhard(1869)が導管収縮線維(交感神経)を証明した.一方,Bernard(1862)らが記述した副交感神経切断後に生じる逆説的な唾液分泌(麻痺性分泌)については,Emmelinら(1950)が脱神経過敏で生じること,唾液腺の脱神経過敏は adrenaline・pilocarpineの双方に対して非特異的に生じることを解明した.唾液腺の複雑な自律神経支配を考慮すれば,同じく腺組織である汗腺の自律神経支配は過度に単純化されていると思われる.
著者
中里 良彦
出版者
日本自律神経学会
雑誌
自律神経 (ISSN:02889250)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.37-44, 2019 (Released:2019-04-19)
参考文献数
26
被引用文献数
1

特発性分節性無汗症は,全身の末梢自律神経と後根神経節の障害によって分節性の無汗部位を示し,Adie症候群,Ross症候群などと同一スペクトラムを形成する病態である.一方,harlequin症候群は,発作性に生じる片側顔面の紅潮・発汗過多である.腫瘤などが原因の頸部交感神経障害による症候性harlequin症候群と,明らかな原因が同定されない特発性harlequin症候群に分けられる.Harlequin症候群には反対側顔面の分節性無汗を伴う症例が多く,分節性無汗症の一部分症状と捉える考え方もある.症候性harlequin症候群の原因は神経鞘腫,肺癌・乳癌,甲状腺腫瘍が多く,頭頸胸部画像検査を用いて積極的に器質的病変を検索する必要がある.