著者
牧 美充 髙嶋 博
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.10, pp.1131-1141, 2017-10-01

多くの橋本脳症の患者がgive-way weaknessや解剖学的には説明しづらい異常感覚を呈していることをわれわれは見出した。それらは身体表現性障害(いわゆるヒステリー)で特徴的とされる身体症状に類似しており,脳梗塞のような局所的な障害で引き起こされる症状とは切り離されて考えられてきた。そのような神経症候が出現するためには,びまん性,多巣性に濃淡を持った微小病変を蓄積させることができる自己免疫性脳症のような病態を想定する必要がある。このような考え方で,われわれは「びまん性脳障害による神経症候」という新しい診断概念に到達し,実臨床では多くの患者を見出している。今回,抗ガングリオニックアセチルコリン受容体抗体関連脳症,子宮頸がんワクチン接種後に発生した脳症,またはスティッフ・パーソン症候群でも同様の症候がみられることを報告する。自己免疫性脳症の臨床では,抗体の存在だけでなく,自己免疫性脳症による「びまん性脳障害」という概念が重要であり,この新しい診断概念を用いることで診断が困難な自己免疫性脳症の軽症例であっても容易に診断が可能となる。
著者
田代 雄一 髙嶋 博
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.12, pp.1387-1399, 2017-12-01

自己免疫性脳症は,臨床的および免疫学的に多様な疾患である。少なくとも20種類の自己免疫性脳炎・脳症が報告されており,最も一般的なタイプは橋本脳症と思われる。患者はしばしば機能的,心因性の運動障害または身体表現性障害を示すと誤って診断されることがわかっている。自己免疫性脳症患者は,主に運動障害,覚醒障害,感覚異常,および振戦,筋緊張亢進,または不随意運動などの不随意運動を中心に運動障害を示した。さらに,記憶喪失,心因性非てんかん性発作,解離性健忘症,てんかん,または自律神経症状を観察した。自己免疫性脳症を診断するために,われわれは,脳の障害の部位別の組合せによりびまん性脳障害を検出する方法を提案する。びまん性脳障害では文字どおり,麻痺,運動の滑らかさ障害,不随意運動,持続困難な運動症状,痛みなどの感覚異常,記憶の低下や学習能力低下などの高次脳機能障害,視覚異常などの視覚処理系の障害がみられる。これらの複合的な脳障害は自己免疫性脳症の全脳に散在性に存在する病変部位と合致する。3系統以上の脳由来の神経症候は,おおよそ「びまん性脳障害」を示し得る。はっきりと局在がわからない神経症候は,一般的な神経学的理解では,転換性障害または機能的(心因性)運動障害に分類される傾向があるので,医師は自己免疫性脳症を除外することなく,心因性神経障害と診断するべきではない。 *本論文中に掲載されている二次元コード部分をクリックすると,付録動画を視聴することができます(公開期間:2020年11月末まで)。
著者
中富 康仁 倉恒 弘彦 渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.19-25, 2018-01-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,慢性で深刻な原因不明の疲労,認知機能障害や,慢性的で広範な疼痛を特徴とする疾患である。われわれは世界で初めてME/CFS患者における脳内神経炎症をポジトロンエミッション断層撮影(PET)によって明らかにした。神経炎症は患者の広範な脳領域に存在し,神経心理学的症状の重症度と関連していた。現在,診断法および治療の開発につなげる研究がスタートしている。
著者
コマロフ アンソニー 高橋 良輔 山村 隆 澤村 正典
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.41-54, 2018-01-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は6カ月以上持続する疲労感,睡眠障害,認知機能障害などを生じる疾患である。ME/CFSは自覚症状により定義されているため疾患概念そのものに対する懐疑的意見もあるが,近年の研究では神経画像,血液マーカーの解析,代謝,ミトコンドリアなどの研究でさまざまな客観的な異常が報告されている。特に脳内外での免疫系の活性化がきっかけとなり,炎症性サイトカインが放出されることで病気が発症する可能性が指摘されている。この総説ではME/CFSについての客観的なエビデンスを中心に解説する。
著者
渡辺 恭良
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.1193-1201, 2018-11-01

筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)は,原因不明の激しい疲労・倦怠感とともに,労作後に増悪する極度の倦怠感,微熱,疼痛,脱力,認知機能障害,睡眠障害などの多彩な症状が長期にわたり継続し,日常生活や社会生活に支障をきたす疾患である。私たちは,この疾患に対し,血液因子や機能検査による客観的な疾患バイオマーカーを探索するとともに,PETやMRI,MEGなどを用いたイメージング研究により,ME/CFSの脳科学を推進してきた。
著者
草部 雄太 竹島 明 清野 あずさ 西田 茉那 髙橋 真実 山田 翔太 新保 淳輔 佐藤 晶 岡本 浩一郎 五十嵐 修一
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.957-961, 2017-08-01

呼吸器感染症の原因ウイルスの1つであるエンテロウイルスD68型による,稀な成人の脳脊髄炎の1例を報告する。患者は33歳男性。発熱,咽頭痛,頭痛で,5日後に両側顔面神経麻痺,嚥下障害,頸部・傍脊柱筋の筋力低下を呈した。頭部MRIのT2強調画像にて脳幹(橋)背側と上位頸髄腹側に高信号病変を有する特徴的な画像所見を認めた。血清PCRにより当時流行していたエンテロウイルスD68型が検出された。両側末梢性顔面神経麻痺を急性にきたす疾患の鑑別としてエンテロウイルスD68型脳脊髄炎も考慮すべきである。
著者
富岳 亮 田中 惠子
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.395-400, 2013-04-01

はじめに Stiff-man/person症候群(SPS)は,1956年にMoerschとWoltmanが筋硬直と歩行障害を呈する13例に対してstiff-man症候群と命名した疾患である1)。1963年にはHoward2)が本症でジアゼパムが有効であることを初めて報告し,1971年には,病理学的に脳幹と脊髄に炎症所見を呈する例が報告された3)。 1999年,BrownとMarsdenはstiff-man症候群に加え,経過や主たる症候が異なるSPSを3群に分けてstiff-man plus症候群という名称を提唱した4)。すなわち,①亜急性の経過で生じる筋硬直・脳幹症状と進行性脳脊髄炎を呈するprogressive encephalomyelitis with rigidity and myoclonus(PERM),他の2群は比較的慢性の経過で,②脳幹由来のミオクローヌスを主とし四肢にも波及していくjerking stiff-man症候群と,③四肢末梢優位に有痛性痙攣と硬直を認め,特に下肢に優位で体幹の症状が少ないstiff-limb症候群を区別して示した。硬直が一側下肢から始まった場合stiff-limb症候群と診断される。多くの症例では経過とともに硬直は全身に広がっていくが,一部に下肢の硬直が際立っている症例が存在する。 SPSでは,経過中に種々の神経症候を呈する症例が存在しSPS-plusとされるが,Dalakas5,6)の経験では10%に小脳症状を伴い,5~10%にてんかん,眼球運動障害を伴う。SPSに小脳症状を伴う症例では,強い硬直と痙縮を呈し,小脳症状は体幹失調と構音障害,歩行は下肢と体幹に強い硬直を伴う運動失調性歩行を呈し,急速眼球運動の障害と追跡眼球運動障害,さらには水平注視時の眼振を認めた。以上のように,SPSは古典的なstiff-man症候群に加え,stiff-man plus症候群,さらに傍腫瘍症候群としてのSPSが加わり徐々に本症候群の概念が確立されていった。 本症では神経組織に炎症所見を生じる例があることから,ステロイドホルモン投与7),血漿交換療法が試行され8),奏効する例が報告されたことより,自己免疫学的機序の可能性について検討が加えられた。Solimena, De Camilliら9,10)はSPSの約60%にグルタミン酸脱炭酸酵素(glutamate decarboxylase:GAD)に対する自己抗体の存在を見出した。また,悪性腫瘍を背景とし,SPSを呈する傍腫瘍性神経症候群で抗アンフィフィシン(amphiphysin)I抗体が検出された例が報告され11),縦隔腫瘍にSPSを合併した1例でゲフィリン(gephyrin)抗体が見出されたとの報告もある12)。
著者
泰羅 雅登
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.85-87, 2014-01-01

日本大学医学部第一生理学教室教授を長年にわたりお務めになられた酒田英夫先生が2013年10月4日に永眠されました(享年78歳)。 酒田先生は東京大学医学部をご卒業後,東京大学脳研究施設の時実利彦先生のもと海馬機能の研究で学位を取得され,1964年に大阪市立大学医学部第一生理学教室(当時:浅沼 広教授)助手に就かれました。1972年に,同年に開所された東京都神経科学総合研究所に移られてご研究を続けられ,1987年に日本大学医学部第一生理学教室に教授として赴任され,2000年まで同職をお務めになられました。また,ご退職ののちは,日本大学教授(非常勤)を経て,2001年から2009年まで東京聖栄大学の教授を務めておられます。
著者
高畑 圭輔 田渕 肇 三村 將
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.7, pp.849-857, 2016-07-01

頭部への打撃から数年〜数十年の年月を経て,認知機能低下や精神症状,運動症状などの症候が遅れて出現することがある。こうした遅発性の症候に,外傷を契機とする神経変性が関与していると考えられている。本総説では,頭部外傷によって引き起こされる遅発性後遺症について概説する。特に近年問題となっている慢性外傷性脳症,および頭部外傷に続発するアルツハイマー病について重点的に述べる。また早期診断法としてのタウ・アミロイドPETや予防的介入の可能性についても述べる。
著者
寒 重之 宮内 哲
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.247-252, 2018-03-01

自己の表象と認識を担う脳部位の検討から,内側眼窩前頭前皮質,背内側前頭前皮質,前帯状皮質,楔前部および後帯状皮質から成るcortical midline structures(CMS)の重要性が明らかになってきた。これらの部位は安静時における同期的な活動を示す安静時ネットワークのデフォルトモードネットワークやサリエンスネットワークを構成する領域であり,これらのネットワークの異常と精神・神経疾患との関連が近年数多く報告されている。さらに,CMSを構成する領域の多くが痛みの認知に関わっており,そのことが他の感覚にはみられない痛みの特徴を生み出しているように思われる。また,病的な痛みの発生と維持には,脳における痛みの認知機構の異常が関与しているとの考え方が受け入れられるようになってきており,慢性痛患者を対象とした研究によってCMSとCMSに密接に関連する脳部位において構造的・機能的な変化が生じていることが数多く報告されている。痛みの認知に関係する多くの領域が自己に関連する情報の処理に関わっているという事実は,痛みの認知特性や慢性痛の病態を考えるうえでも,脳において表象される自己を考えるうえでも,貴重な視座を与えるものとなるだろう。
著者
高橋 伸佳
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.830-838, 2011-08-01

はじめに 「熟知している場所で道に迷う症状」を地理的障害と呼ぶ。ただし,意識障害,認知症,健忘症候群,半側空間無視など,他の神経症状や神経心理症状によって説明可能な場合は除外する。地誌的障害,地誌的失見当,地誌的見当識障害,広義の地誌的失認なども地理的障害とほぼ同義である。従来の文献にしばしば登場する「地誌的記憶障害」は,自宅付近の地図や自宅の間取りを想起して口述・描写することの障害[地理的知識の視覚表象能力の障害1)]であり,本稿でいう地理的障害とは異なる。 「熟知している場所」は,自宅付近,職場付近など発症前からよく知っていた場所(旧知の場所)だけではない。入院した病院内など発症後頻繁に行き来することによって,新たによく知るようになった場所(新規の場所)も含まれる。地理的障害では通常,旧知の場所でも新規の場所でも道に迷う。しかし,稀には新規の場所のみで症状を呈する例がある。これは健忘症候群における逆向性健忘と前向性健忘との関係に似ている。健忘症候群では通常この両者が併存するが,稀にはどちらかが孤立性に発現することがある2)。旧知の場所の中でも発症に近い時期に住んでいた場所では症状がみられ,発症から遠い時期の場所では異常がない症例3,4)の存在などは,逆向性健忘の「時間勾配」を思わせる。地理的障害では,現在まで旧知の場所のみの症例は報告されていない。しかし,理論的にはその存在が推定される。 筆者らは地理的障害を症候と病巣の違いから街並失認(agnosia for streetsまたはlandmark agnosia)と道順障害(defective root findingまたはheading disorientation)の2つに分類した5)。一言でいえば,前者は街並(建物・風景)の同定障害に基づくものであり,視覚性失認の一型と考えられる。後者は広い地域内における自己や,離れた他の地点の空間的定位障害であり,視空間失認に含まれる。 街並失認は相貌失認と合併して生ずることが多く,その存在自体は古くから知られていた6,7)。環境失認(environmental agnosia)8),場所失認(agnosia for place)などと呼ばれたこともある。筆者は多数例の検討から,その症候や病巣を整理し,地理的障害全体の中での位置づけを示したにすぎない。この症候を街並失認と呼ぶことにしたのは,物体失認,画像失認,相貌失認などと同様,「街並(建物・風景)」という視覚対象に対する失認であることを明確にするためである。最近まで,神経心理学の中で地理的障害に関する研究が後れをとっていたとすれば,孤立性の症状を呈する症例が少ない,検査方法が確立されていない,などの点とともに用語の混乱にその一因があったのではないかと思われる。 一方,道順障害は従来ほとんど注目されていなかった症候である。筆者らは街並失認の症候,病巣の分析を進める過程で,これとは異なる地理的障害の1例に出会った。街並失認での患者の訴えが「(よく知っているはずの)回りの景色が初めてみるように感じる」であるのに対し,その症例の訴えは「(よく知っている)目の前の交叉点をどの方角へ曲がればよいかわからない」というものであった。これは,私たちが道をたどる際に,現在いる地点の周囲にある建物・風景を確認するだけではなく,目的地の方角を意識していることとよく対応する。この方角定位能力が選択的に障害されている症例と考えられた。その後,さらに同様の症例を経験し,1990年9)と1993年5)に日本神経心理学会総会で発表するとともに,3例をまとめて原著論文10)とした。 本稿は街並失認と道順障害について,原著10,11)およびその後の総説12-15)や著書16)に記載した内容を総括し,さらに最近の知見を加えたものである。
著者
富永 真琴
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.493-501, 2008-05-01

はじめに 侵害刺激を受容する陽イオンチャネル(多くは高いCa2+透過性を持つ)のいくつかは,TRP(transient receptor potential)スーパーファミリーに属する。TRPチャネルの1つのサブユニットは6回の膜貫通領域を有し,4量体として機能的なチャネルを形成すると考えられている。trp遺伝子は,1989年にショウジョウバエの眼の光受容器異常変異体の原因遺伝子として同定された1)。その後,trpのコードする蛋白質TRPはCa2+透過性の高いチャネルであることが明らかとなり,これまでに多くのTRPホモログが発見されている。現在,TRPスーパーファミリーは,哺乳類では大きくTRPC,TRPV,TRPM,TRPML,TRPP,TRPAの6つのサブファミリーに分けられている2)。そのうち,TRPVサブファミリー〔「V」はTRPV1を活性化するバニロイド(vanilloid)の頭文字「v」に由来する〕に属するカプサイシン受容体TRPV1は,侵害刺激受容神経(nociceptor)での発現が強く,侵害刺激受容に関わっていると考えられている。1997年に遺伝子がクローニングされてから10年,TRPV1の研究は大きく進み,数々の有効刺激が明らかになり,活性化機構や制御機構が解明されてきた。機能に関わる構造基盤もかなりわかってきた。侵害刺激受容の中心分子として,鎮痛薬としての阻害薬に対する期待は大きく,いくつかの化合物が臨床治験の段階に進んでいる。本稿では,TRPV1に関して最近注目を浴びているいくつかのポイントに焦点を当てて概説したい。
著者
中里 良彦 田村 直俊 池田 桂 田中 愛 山元 敏正
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.263-270, 2016-03-01

Isolated body lateropulsion(iBL)とは,脳梗塞急性期に前庭症状や小脳症状などの神経症候を伴わず,体軸の一側への傾斜と転倒傾向のみが臨床症候として認められることである。iBLは脊髄小脳路,外側前庭脊髄路,前庭視床路,歯状核赤核視床路,視床皮質路のいずれの経路がどこで障害されても生じる可能性がある。本稿では,延髄,橋,中脳,小脳,視床,大脳において,どの病巣部位でiBLが生じるかを概説する。
著者
小川 正晃
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.1241-1250, 2017-11-01

われわれは常に,さまざまな外的・内的状況に対し過去の学習記憶をもとに適切に行動する必要がある。この種の意思決定に重要なのが大脳連合野の前頭眼窩野(OFC)である。本論は,不確実な報酬の情報処理に関するOFC機能を例に,現在想定されているOFCの役割について概説する。さらにOFCを含む神経回路が状況特異的,かつタイミング特異的な意思決定に果たす因果的役割を解明する重要性,およびそのために必要な方法論について論じる。
著者
作田 学
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.1544-1545, 2013-12-01

ヘイメイカー(Webb Edward Haymaker;1902-1984)は,米国の神経学者である。南カロライナ州のクレムゾン大学とチャールストン大学で学び,次いで南カロライナ医科大学から1928年にM.D.の学位を受けた。しかしながら,残念なことに現在の南カロライナ医科大学のウェブサイトにはヘイメイカーの足跡は残っていない。1934年にマギル大学教授のペンフィールド(Wilder Graves Penfield;1891-1976)が新たに創設したモントリオール神経学研究所にフェローとして招かれた。ここで1年を過ごし,マギル大学から修士号を得た。その後カリフォルニア大学のサンフランシスコ校とバークレイ校で6年間神経解剖学の教鞭を執った1)。第二次世界大戦が勃発したため1942年に陸軍中尉として,ワシントンD.C.の陸軍病理学研究所に勤務することとなった。その後20年間をここで過ごし,陸軍中佐にまで昇格した。 この間,今回紹介する末梢神経外傷についての書物を脳神経外科医のウッドホール(Barnes W. Woodhall;1905-1985)と共著で出版した2)。のちにデューク医科大学脳神経外科教授になったウッドホールは,多くの医師の協力を得て3,656例の神経損傷の回復過程について671頁ものモノグラフを出版している3)。
著者
北之園 寛子 白石 裕一 本村 政勝
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.341-355, 2018-04-01

Lambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)は,シナプス前終末からのアセチルコリンの放出障害により,四肢筋力低下,腱反射低下,および,自律神経障害を呈する神経筋接合部・自律神経の自己免疫疾患である。LEMS患者の半数以上が悪性腫瘍,主に小細胞肺癌(SCLC)を合併する傍腫瘍性症候群でもある。SCLCを含む神経内分泌腫瘍に対する腫瘍免疫で自己抗体が生じ,シナプス前終末の活性帯に局在するP/Q型カルシウムチャネルをdown-regulationさせることが,LEMSの病態機序と考察される。
著者
山田 正仁
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.533-541, 2018-05-01

神経原線維変化型老年期認知症(SD-NFT)は海馬領域に多量の神経原線維変化(NFT)を有するが老人斑[アミロイドβ蛋白(Aβ)沈着]を欠く高齢者の認知症疾患である。近年,加齢に伴い内側側頭葉にNFTが出現するがAβ沈着を欠く状態を示す病理用語として原発性年齢関連タウオパチー(PART)が提案され,SD-NFTはPART病理の進展による認知症と考えられている。
著者
本望 修
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.93-98, 2015-01-01

薬事法に基づき自己培養骨髄間葉系幹細胞を医薬品(細胞生物製剤)として実用化するべく,医師主導治験を実施している。これまで,前臨床試験(GLP試験)を完了し,GMP(good manufacturing practice)で細胞製剤(治験薬)を製造し,2013年3月より医師主導治験(第III相,二重盲検無作為化試験,検証的試験)を医薬品承認審査調和国際会議のgood clinical practice基準に基づいて実施中である。本稿では認知機能向上の可能性について言及する。
著者
平井 利明 福田 隆浩 鈴木 正彦 横地 正之 河村 満 後藤 淳 織茂 智之 藤ヶ﨑 純子
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.201-208, 2012-02-01

症例提示 司会(鈴木) それでは,症例提示をお願いします。 主治医 (平井) この症例は,タイトルにあるように急性の精神病様症状で発症して,いろいろな鑑別を考えながら治療したのですが,完全に袋小路に入ってしまって,何がどうなって進んだのかもよくわからないまま亡くなられました。病理解剖の結果,まさかという結果が出てきまして,自分自身とても勉強になりました。
著者
永田 奈々恵 裏出 良博
出版者
医学書院
雑誌
BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 (ISSN:18816096)
巻号頁・発行日
vol.64, no.6, pp.621-628, 2012-06-01

はじめに 睡眠の目的の1つはエネルギーの消耗を防ぎ,脳機能を回復させることである。睡眠不足になると,仕事の効率が上がらず,ケアレスミスも多くなる。またわれわれは,日常生活の中で,徹夜が続くと日々眠気が強くなることを経験する。この現象は,覚醒中に脳内に蓄積する眠気誘発物質の存在を示唆する。現在までに約30種類もの睡眠物質が同定されてきた。その中でも,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)D2とアデノシンは内因性睡眠物質の最も有力な候補である1-4)。 PGD2は,1982年に京都大学の早石 修(現,大阪バイオサイエンス研究所理事長)の研究室において,脳で産生する主要なPGがPGD2であることが明らかになり,その中枢作用の探索の中で,PGD2の睡眠誘発作用が発見された5)。一方,アデノシンは,1970年代にイヌの脳室内へのアデノシンの投与が睡眠を誘発することや,カフェインがアデノシン受容体の拮抗薬として覚醒作用を示すことが証明され,睡眠物質として認められるようになった。 本稿では液性の内因性睡眠物質としてのPGD2とアデノシンについて解説する。