- 著者
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丸山 定巳
- 出版者
- 環境社会学会
- 雑誌
- 環境社会学研究 (ISSN:24340618)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, pp.23-38, 2000-10-31 (Released:2019-03-12)
水俣病問題には発生・拡大・補償救済の遅れという重大な3つの責任問題がある。そして,それぞれに原因企業に加え行政や医学それに地域社会などが深く関わってきた。原因企業チッソ(株)は,生産至上主義に徹し安全性を無視した経営を行ってきた。唯一の巨大企業として地域社会に君臨し,環境を私物化してそれを長期にわたって破壊し,ついには水俣病被害を発生させてしまった。行政もそうした企業の操業を容認し,環境破壊を未然に防止する規制を講じなかった。地元地域社会には,チッソの企業活動をコントロールする社会的勢力は存在しなかった。水俣病の発生が公的に確認された後の初期の調査で,それが魚介類を介していること,そしてその魚介類を有毒化している原因として工場排水が指摘されたにも関わらず,いずれの面でも対策が怠られた。チッソも行政も,有効な排水対策を怠った。地域社会も,チッソの操業を擁護する立場から排水規制の動きを牽制した。加えて,漁獲の法的禁止措置も講じられなかった。その一方で,原因工程の生産規模は拡大されていったために,さらに被害を拡大させてしまった。補償救済問題においても,チッソは当初は責任を認めず低額で処理した。公式に責任が確定した後は,チッソに自力補償能力がなくなり,代わって行政が「認定医学」を利用して補償対象者を制限したため,長期にわたり大量の被害者が放置される状態が続いた。現在,地元地域社会では,過去を反省して「もやい直し」をキーワードにした地域の再生が目指されているが,「チッソ運命共同体意識」からの解放が鍵となっている考えられる。