著者
原田 正純 花田 昌宣 宮北 隆志 富樫 貞夫 羽江 忠彦 下地 明友
出版者
熊本学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、被害実態の広がり(医学的側面のみならず社会的側面から)の把握に努め、現在の課題を明らかにすることを課題としており、病いを社会的なものとしてとらえ医学的な疾患学・症候学あるいは病像論から解き放ち、社会環境の中に位置づけ直す試みを通して、改めて被害実態を明らかにしたものである。[健康・医療・生活問題班]では、御所浦地区での全戸調査と数次にわたる集中的ヒアリングを実施、水俣病に対する忌避観の強さとその急速な変貌を明らかにできた。また、熊本学園大学水俣学現地研究センターを利用しての医療相談を定期的に実施し、若い世代の医療的側面での調査も実施し研究発表をしてきた。[地域社会・福祉問題班]水俣社協との協力のもと、住民意識調査の実施、住民との対話の機会を持ち調査の結果をさらに検討し、報告書を作成した。[被害補償と環境再生問題班]では、水俣地域の社会的アクターを中心に地域戦略プラットフォームづくりのワーキンググループを定期的に開催し、具体的な提言書を作成した。毎年1月には、水俣市において水俣病事件研究交流集会を本研究プロジェクト参加者のみならず、全国各地の研究者ら100名近くの参加で開催し、研究成果の発表および討論を掘り下げ、水俣学研究のアリーナ形成をはかることができている。これらを通して、水俣病被害が社会的広がりを持つこと、今なお係争課題が数多く残されており社会運動も継続していること、それらを踏まえた地域づくりの方向性を示すことができた。これらの研究成果は、研究代表ならびに分担者によってモノグラフィックな研究論文や報告書の形で随時発表されている。
著者
井上 ゆかり 花田 昌宣 矢野 治世美 田尻 雅美
出版者
デジタルアーカイブ学会
雑誌
デジタルアーカイブ学会誌 (ISSN:24329762)
巻号頁・発行日
vol.4, no.s1, pp.s65-s68, 2020 (Released:2020-10-09)
参考文献数
2

いまだ水俣病をめぐる差別事件があとをたたず、水俣病を中心に据えた地域づくりを模索している熊本県において、学校や一般社会における公害教育は必要不可欠である。水俣病公式確認から64年が経過するなかで、「公害水俣病」に対して多角的視点から取り組める人材が求められている。そこで本研究では、熊本学園大学学生、小中学校教員、市民を対象として、独自に制作した「水俣学アーカイブ」という集積されたデータを活用し、公害教育のモデル化を行い、多様な分野の知識や考え方を持ち合わせた人材を育成し、最終的には公害教育のプラットフォームを形成することで、水俣病事件を理論的・実践的に研究する社会基盤を構築することを目的としている。このことを通して、人類が初めて経験した水俣の知的資源を世界に解放する素地を形成する。ここでは、水俣学独自のアーカイブの進捗過程と課題、これを環境教育に利活用する試案を報告する。
著者
丸山 定巳 花田 昌宣 宮北 隆志 中地 重晴 下地 明友 原田 正純 足立 明 井上 ゆかり 田尻 雅美 藤本 延啓
出版者
熊本学園大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究の目的は、近年の水俣病被害者救済策や地域振興策が水俣病患者にもたらすものを50年の歴史に照して検証することであった。そこで根本的に問われることは、改めて水俣病被害とは何であるのかを解明することであった。この基礎の上に立って、今日の意義と課題を明確にして行くことである。そのために、過去の資料、研究成果、種々のデータを洗い直し、現地のさまざまなアクターに密着して、被害者ばかりではなく水俣病に関わるステークホルダーとともに調査を実施した。それによって、水俣病という負の経験を将来に活かすことができ、また、環境被害に関する国際フォーラムを通してその成果を国内外に発信することができた。
著者
足立 明 花田 昌宣 子島 進 平松 幸三 佐藤 寛 山本 太郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、開発過程を総合的に記録・記述する民族誌的プロセス・ドキュメンテーションの可能性を検討するところにある。いうまでもなく、開発は、開発援助機関、プロジェクトマネージャー、受益者といった直接のアクターのみならず、それを取り巻く多様なアクターとの関わりで、紆余曲折しながら進行していく。それは「複雑系」といってよい過程である。本研究は、参加型開発での現地調査をとおして、開発過程を記録し記述する手法を学際的に検討し、開発研究者や開発実務者のみならず、開発の受益者にも利用可能となるような汎用的記録法の可能性をさぐることを目的としていた。平成14年度は方法論的としてのアクター・ネットワーク論を議論した。平成15年度、16年度は、すでに検討した方法論をふまえて、開発プロジェクトの参与観察を行った。なお、現段階で収集した資料の整理がすべて終わったわけではないが、これまでに判明した点は以下である。1.調査を始めて見た結果、この研究はきわめて「時間のかかる」仕事であるということを実感した。たとえ実験的なプロセス・ドキュメンテーションの調査であっても、数週間から1ヶ月程度の期間でできることはきわめて不十分で、博士課程の院生が全力で取り組むような規模の研究課題である。2.方法論的な検討の結果、アクター・ネットワーク論は有効であることが分かった。例えば、「参加型」というフレームの成立、安定化、揺らぎを、アクターを追うことで、参加型開発の「公的台本」と「隠された台本」を見いだしうる。3.しかし、アクター・ネットワーク論的方法論を、事後的に使ってプロセス・ドキュメンテーションを描くことは、異種混交なアクター間の微妙な相互作用を見落としがちであり、事後的な分析ではなく、「アクターを追う」ことで、このような調査を継続し、方法論的な検討を深める必要がある。