著者
北村 立実 松崎 慎一郎 西 浩司 松本 俊一 久保 雄広 山野 博哉 幸福 智 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.217-234, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
68

多くの人々が霞ヶ浦から多様な恩恵(生態系サービス)を受けていることから,今後も持続的に利用していくために,その内容や享受量の変遷を把握するとともに,生態系サービスの価値を経済的に可視化することで,政策の意思決定や行動に反映させるなどの適切な湖沼・流域管理に結びつける必要がある.そこで,本研究では霞ヶ浦の生態系サービスの項目を整理し,享受量の変遷を把握することで特徴を明らかにするとともに,代替法を用いて生態系サービスの経済評価を試みた.その結果,生態系サービスを供給サービス,調整サービス,文化的サービス,基盤サービスの 4 つに大別し,生態系サービスのフローの構成として,自然資本,人工資本,人的資本の 3 種の資本を介して得られていると定義した.また,生態系サービスの享受量の推移の特徴として,取水や洪水調節などの人間活動を豊かにする項目は増加したものの,魚種や植物などの生物多様性や人々が霞ヶ浦と触れ合うような項目が減少したことが明らかとなった.さらに,2016 年の霞ヶ浦の生態系サービスの経済的な価値として1,217.3 億円/ 年と見積もられ,供給サービスや調整サービスで高い傾向にあり,文化的サービスや基盤サービスは貨幣換算できない項目が多かった.一方,経済的な価値を算出する上でいくつか課題も明らかとなったことから,今後はこれらの課題解決に向けた研究も必要である.
著者
幸福 智 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 西 浩司 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.235-243, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
27

本研究では,全国の一般市民及び霞ヶ浦流域の住民を対象にウェブアンケート調査を実施し,霞ヶ浦が有する生態系サービスについて,選択型実験(コンジョイント分析)を用いて経済価値評価を実施した.選択型実験では,漁獲量(供給サービス)・湖岸植生帯(調整サービス)・希少種(基盤サービス)及び水質(文化的サービス)の 4 つの属性からなる選択セットを提示し,望ましい案を選択してもらうようにした.調査の結果から,生態系サービスが劣化した状態,現状及び 2040 年の将来の値(良好な状態)の水準の値を設定し,値の変化に対する支払意思額(WTP)を求め,これに人口を乗じて生態系サービスの経済価値を求めた.霞ヶ浦の生態系サービスに対する経済価値は,現状は全国では 1 兆 302 億円,県では 253 億円,流域では 70 億円, 2040 年の将来(望ましい状態への改善)の場合は,全国では,1 兆 4,264 億円,県では 324 億円,流域では 89 億円という結果となった.
著者
西 浩司 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 幸福 智 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.245-256, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では,ベスト・ワースト・スケーリング手法(BWS)を用いて,霞ヶ浦が有する代表的な生態系サービス(農産物,水産物,飲料水等の供給サービス,気候の調整サービス,観光,景観等の文化的サービス,多様な動植物の育成等の基盤サービス)の重要度を明らかにすることを目的として,全国及び霞ヶ浦流域を対象にしたウェブアンケートを実施した.BWS では,霞ヶ浦の生態系サービス(恵み)の組み合わせを変えて選択肢として提示し,最も重要と思うもの(Best)と最も重要でないと思うもの(Worst)を選んでもらうことを複数回繰り返すという方法で実施し,Best と Worst の選択回数の比率を生態系サービスごとの重要度の評価の指標とした.霞ヶ浦については調整サービスの「水質の浄化」,供給サービスの「水の供給」,基盤サービスの「生物の生息場所」など,湖沼の水環境保全により維持される生態系サービスが重要と評価された.この結果を食料の供給(農産物,水産物)とのトレードオフの可能性も踏まえて,今後の施策の検討へ反映することが必要と考えられた. また,今後の観光振興策の検討に資する情報を得るために,同じ手法を用いて霞ヶ浦周辺の観光地を訪れている人に現地アンケートを行い,生態系サービスの重要度を評価した.「農産物」,「水産物」に加え「生きもの」が重要と評価されたされたことから,生きものの保全をブランド化した産物の創出等が振興策として有効ではないかと考えられた.
著者
深澤 圭太 三島 啓雄 熊田 那央 竹中 明夫 吉岡 明良 勝又 聖乃 羽賀 淳 久保 雄広 玉置 雅紀
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research
巻号頁・発行日
vol.13, pp.A15-A28, 2017

<p> 筆者らは福島第一原発事故による避難指示区域内外を対象とした録音による鳥類のモニタリング調査を2014年より実施している.研究者と地域住民との対話・得られたデータの透明性確保に資することを目的に,モニタリングで得られた音声データを聞き,鳥類組成のデータを作成する参加型イベント「バードデータチャレンジin福島」を2015年に実施した.イベントに際しては,WEBベースの音声再生・種名入力支援ツール「SONO-TORI」,即座に出現種や種判別の進捗状況の可視化を行なうためのシステム「SONO-TORI VIS」を新たに開発し,それらを活用して参加者が楽しみながら録音音声による種判別を進められるよう努めた.当日は定員である30名の参加者が集まり,5つの班に分かれて聞き取り作業を実施した.その結果,計63分の音声データに対して種判別を実施し,23種の鳥類が確認された.作業後のアンケートの結果,参加者の満足度および再訪意欲は高く,これらと参加者間の親睦や鳥類種判別技能の向上とのあいだに高い相関がみられた.今回の取り組みは結果に関する情報共有のありかたや,班ごとに分担する音声データの決め方などについて課題があったものの,録音音声による種判別がイベント形式の市民参加型調査として成立しうる可能性を示したと考えられる.</p>
著者
深澤 圭太 三島 啓雄 熊田 那央 竹中 明夫 吉岡 明良 勝又 聖乃 羽賀 淳 久保 雄広 玉置 雅紀
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.A15-A28, 2017 (Released:2017-07-19)
参考文献数
21

筆者らは福島第一原発事故による避難指示区域内外を対象とした録音による鳥類のモニタリング調査を2014年より実施している.研究者と地域住民との対話・得られたデータの透明性確保に資することを目的に,モニタリングで得られた音声データを聞き,鳥類組成のデータを作成する参加型イベント「バードデータチャレンジin福島」を2015年に実施した.イベントに際しては,WEBベースの音声再生・種名入力支援ツール「SONO-TORI」,即座に出現種や種判別の進捗状況の可視化を行なうためのシステム「SONO-TORI VIS」を新たに開発し,それらを活用して参加者が楽しみながら録音音声による種判別を進められるよう努めた.当日は定員である30名の参加者が集まり,5つの班に分かれて聞き取り作業を実施した.その結果,計63分の音声データに対して種判別を実施し,23種の鳥類が確認された.作業後のアンケートの結果,参加者の満足度および再訪意欲は高く,これらと参加者間の親睦や鳥類種判別技能の向上とのあいだに高い相関がみられた.今回の取り組みは結果に関する情報共有のありかたや,班ごとに分担する音声データの決め方などについて課題があったものの,録音音声による種判別がイベント形式の市民参加型調査として成立しうる可能性を示したと考えられる.