著者
宮崎 佑介 松崎 慎一郎 角谷 拓 関崎 悠一郎 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.291-295, 2010-11-30
参考文献数
27
被引用文献数
1

岩手県一関市にある74の農業用ため池において、2007年9月〜2009年9月にかけて、コイの在・不在が浮葉植物・沈水植物・抽水植物の被度に与えている影響を明らかにするための調査を行った。その結果、絶滅危惧種を含む浮葉植物と沈水植物の被度が、コイの存在により負の影響を受けている可能性が示された。一方、抽水植物の被度への有意な効果は認められなかった。コイの導入は、農業用ため池の生態系を大きく改変する可能性を示唆している。
著者
松崎 慎一郎 西川 潮 高村 典子 鷲谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.120, 2005 (Released:2005-03-17)

コイ(Cyprinus carpio)は,長寿命かつ雑食性の底生魚で,遊泳や探餌行動の際に底泥を直接巻き上げて,泥の中の栄養塩や懸濁物質を水中へ回帰させたり(底泥攪乱),直接水中へ栄養塩を排泄したりすることを通じて水質の悪化や水草の減少を招く.また水草を直接捕食する.そのためコイは,IUCN侵略的外来種ワースト100の一種として世界的に問題になっている.日本では様々な水域で見られる在来種であるが,その分布の拡大は放流や養殖など国内移入によるものである.しかしながら,野外操作実験を用いてコイが他の生物群集,特に沈水植物に与える影響を検証した研究例は少ない.本研究は,隔離水界を用いて,コイによる底泥の攪乱および栄養塩の排出が沈水植物と微小動物群集(プランクトン・ベントス)に及ぼす影響を明らかにした.2004年7月,霞ヶ浦に面する国土交通省の実験池(木原)に,隔離水界(2m×2m×水深60~80cm)を設置し,野外操作実験を行った.実験処理区はコイの有無,底泥へのアクセスの可否の2要因からなる4処理区(繰り返し4,合計16隔離水界)にした.コイの底泥へのアクセスは,ネット(2cm格子)を水中に設置することによって遮断した.また実験開始前にすべての隔離水界に沈水植物(リュウノヒゲモ)を植栽し,コイ導入区には15~18cmのコイを各水界に1匹投入した.2ヶ月間の実験の結果(合計3回のサンプリング),底泥へのアクセスの可否にかかわらず,コイがいるだけで水草は著しく減少した.その水草減少のメカニズムは底泥の攪乱だけではなく,栄養塩の排出もその一因であると考えられた.本発表では,コイによる沈水植物の減少のメカニズムを,物理化学的要因(主に栄養塩)や他の生物群集の応答をもとに,総合的に考察する.
著者
北村 立実 松崎 慎一郎 西 浩司 松本 俊一 久保 雄広 山野 博哉 幸福 智 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.217-234, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
68

多くの人々が霞ヶ浦から多様な恩恵(生態系サービス)を受けていることから,今後も持続的に利用していくために,その内容や享受量の変遷を把握するとともに,生態系サービスの価値を経済的に可視化することで,政策の意思決定や行動に反映させるなどの適切な湖沼・流域管理に結びつける必要がある.そこで,本研究では霞ヶ浦の生態系サービスの項目を整理し,享受量の変遷を把握することで特徴を明らかにするとともに,代替法を用いて生態系サービスの経済評価を試みた.その結果,生態系サービスを供給サービス,調整サービス,文化的サービス,基盤サービスの 4 つに大別し,生態系サービスのフローの構成として,自然資本,人工資本,人的資本の 3 種の資本を介して得られていると定義した.また,生態系サービスの享受量の推移の特徴として,取水や洪水調節などの人間活動を豊かにする項目は増加したものの,魚種や植物などの生物多様性や人々が霞ヶ浦と触れ合うような項目が減少したことが明らかとなった.さらに,2016 年の霞ヶ浦の生態系サービスの経済的な価値として1,217.3 億円/ 年と見積もられ,供給サービスや調整サービスで高い傾向にあり,文化的サービスや基盤サービスは貨幣換算できない項目が多かった.一方,経済的な価値を算出する上でいくつか課題も明らかとなったことから,今後はこれらの課題解決に向けた研究も必要である.
著者
宮崎 佑介 松崎 慎一郎 角谷 拓 関崎 悠一郎 鷲谷 いづみ
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.291-295, 2010-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2

岩手県一関市にある74の農業用ため池において、2007年9月〜2009年9月にかけて、コイの在・不在が浮葉植物・沈水植物・抽水植物の被度に与えている影響を明らかにするための調査を行った。その結果、絶滅危惧種を含む浮葉植物と沈水植物の被度が、コイの存在により負の影響を受けている可能性が示された。一方、抽水植物の被度への有意な効果は認められなかった。コイの導入は、農業用ため池の生態系を大きく改変する可能性を示唆している。
著者
荒山 和則 松崎 慎一郎 増子 勝男 萩原 富司 諸澤 崇裕 加納 光樹 渡辺 勝敏
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.141-146, 2012-11-05 (Released:2014-12-02)
参考文献数
29
被引用文献数
2

Eight specimens (28.2–170.2 mm SL) of the non-indigenous bagrid catfish Pseudobagrus fulvidraco were collected from the Lake Kasumigaura system, Ibaraki Prefecture, central Japan, during December 2008 and November 2011. Three juvenile specimens of this invasive species indicated successful reproductive activity in the lake system. The species is known to have similar morphological and food habits to channel catfish Ictalurus punctatus, which has also invaded Lake Kasumiguara, causing damage to the ecosystem and problems for local fisheries. The establishment and future habitat expansion of P. fulvidraco would also cause serious ecological and economic problems.
著者
幸福 智 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 西 浩司 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.235-243, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
27

本研究では,全国の一般市民及び霞ヶ浦流域の住民を対象にウェブアンケート調査を実施し,霞ヶ浦が有する生態系サービスについて,選択型実験(コンジョイント分析)を用いて経済価値評価を実施した.選択型実験では,漁獲量(供給サービス)・湖岸植生帯(調整サービス)・希少種(基盤サービス)及び水質(文化的サービス)の 4 つの属性からなる選択セットを提示し,望ましい案を選択してもらうようにした.調査の結果から,生態系サービスが劣化した状態,現状及び 2040 年の将来の値(良好な状態)の水準の値を設定し,値の変化に対する支払意思額(WTP)を求め,これに人口を乗じて生態系サービスの経済価値を求めた.霞ヶ浦の生態系サービスに対する経済価値は,現状は全国では 1 兆 302 億円,県では 253 億円,流域では 70 億円, 2040 年の将来(望ましい状態への改善)の場合は,全国では,1 兆 4,264 億円,県では 324 億円,流域では 89 億円という結果となった.
著者
西 浩司 久保 雄広 北村 立実 松崎 慎一郎 松本 俊一 山野 博哉 幸福 智 菊地 心 吉村 奈緒子 福島 武彦
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.245-256, 2020-09-28 (Released:2020-11-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では,ベスト・ワースト・スケーリング手法(BWS)を用いて,霞ヶ浦が有する代表的な生態系サービス(農産物,水産物,飲料水等の供給サービス,気候の調整サービス,観光,景観等の文化的サービス,多様な動植物の育成等の基盤サービス)の重要度を明らかにすることを目的として,全国及び霞ヶ浦流域を対象にしたウェブアンケートを実施した.BWS では,霞ヶ浦の生態系サービス(恵み)の組み合わせを変えて選択肢として提示し,最も重要と思うもの(Best)と最も重要でないと思うもの(Worst)を選んでもらうことを複数回繰り返すという方法で実施し,Best と Worst の選択回数の比率を生態系サービスごとの重要度の評価の指標とした.霞ヶ浦については調整サービスの「水質の浄化」,供給サービスの「水の供給」,基盤サービスの「生物の生息場所」など,湖沼の水環境保全により維持される生態系サービスが重要と評価された.この結果を食料の供給(農産物,水産物)とのトレードオフの可能性も踏まえて,今後の施策の検討へ反映することが必要と考えられた. また,今後の観光振興策の検討に資する情報を得るために,同じ手法を用いて霞ヶ浦周辺の観光地を訪れている人に現地アンケートを行い,生態系サービスの重要度を評価した.「農産物」,「水産物」に加え「生きもの」が重要と評価されたされたことから,生きものの保全をブランド化した産物の創出等が振興策として有効ではないかと考えられた.
著者
松崎 慎一郎 佐竹 潔 田中 敦 上野 隆平 中川 惠 野原 精一
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.25-34, 2014-09-04 (Released:2016-01-31)
参考文献数
28
被引用文献数
1 2

福島第一原子力発電所事故後に,霞ヶ浦(西浦)の沿岸帯に2定点を設けて,湖水の採水ならびに底生動物である巻貝(ヒメタニシ,Sinotaia quadrata histrica)と付着性二枚貝(カワヒバリガイ,Limnoperna fortunei)の採集を経時的に行い,それらの放射性セシウム137(137Cs)濃度(単位質量あたりの放射能;Bq kg-1)を測定した。これらのモニタリングデータから(2011年7月~2014年3月),貝類における137Csの濃度推移,濃縮係数ならびに生態学的半減期を明らかにした。湖水および貝類の137Cs濃度は定点間で差は認められず,経過日数とともに減少していった。両地点でも,カワヒバリガイよりも,ヒメタニシの137Cs濃度のほうが有意に高かった。濃縮係数を算出したところ,ヒメタニシのほうが2倍近く高かった。巻貝と二枚貝は,摂餌方法や餌資源が異なるため,137Csの移行・蓄積の程度が異なる可能性が示唆された。また生態学的半減期は,ヒメタニシで365~578日,カワヒバリガイで267~365日と推定され,過去の実験的研究で報告されている生物学的半減期よりもはるかに長かった。このことから,餌を通じた貝類への137Csの移行が続いていると考えられた。
著者
向井 貴彦 Padhi Abinash 臼杵 崇広 山本 大輔 加納 光樹 萩原 富司 榎本 昌宏 松崎 慎一郎
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.81-87, 2016-11-05 (Released:2018-06-01)
参考文献数
20

The North American channel catfish Ictalurus punctatus, an invasive freshwater fish introduced to Japan for aquaculture in the 1970s, has become established in several rivers and lakes, with subsequent detrimental effects on local fisheries and other freshwater fauna. The origin and invasive distribution of channel catfish in Japan was assessed from the geographical distribution of mtDNA haplotypes of channel catfish populations, utilizing partial (412 bp) nucleotide sequences of the mtDNA control region from 174 individuals collected from 7 localities. A total of 12 haplotypes (J01–J12) were found in Japanese freshwater systems. Populations in eastern Japan (Fukushima and Ibaraki Prefectures) and a fishing pond in Aichi Prefecture were characterized by many haplotypes, shared among those localities. However, the haplotype compositions of populations in western Japan (Yahagi River, Aichi Prefecture and Lake Biwa water system, Shiga Prefecture) differed from the former and also from each other. A phylogenetic analysis using Japanese (nonindigenous), Chinese (non-indigenous) and United States (indigenous) haplotypes indicated that all of the Asian haplotypes were included in "Lineage VI," distributed over a wide area of the United States, confirming that lineage as the primary source of introduced Asian populations. However, the introduction of channel catfish into Japan occurred on at least three occasions (in eastern Japan, Yahagi River and Lake Biwa water system).
著者
松崎 慎一郎
出版者
独立行政法人国立環境研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

在来ナマズ属3種の地域集団および遺伝的構造を明らかにするために、日本全国およびアジア諸国からナマズ類を採集し、ミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列に基づく系統地理解析を行った。ビワコオオナマズでは1集団(琵琶湖)、イワトコナマズでは2集団、ナマズでは3つの大きく分化した地域集団が国内に存在することが明らかとなった。イワトコナマズについては、これまで琵琶湖固有種とされてきたが、近畿・中部地方に別の地域集団が存在することが分かった。また、次世代シーケンサーを用いてマイクロサテライトマーカーを開発し、遺伝的多様性の評価が可能となった。