著者
佐藤 香緒里 吉尾 雅春 宮本 重範 乗安 整而
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.323-328, 2008 (Released:2008-06-11)
参考文献数
15
被引用文献数
5 1

本研究では,股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響を検討することを目的とし2つの実験を行った。若年健常男女60名を対象とした股関節回旋角度の違いによる股関節屈曲角度の計測では,股関節内旋角度の増加に伴い股関節屈曲角度は有意に減少し(p<0.001),股関節外旋筋群の伸張が股関節屈曲を制限する因子として考えられた。新鮮遺体1体の両股関節後面各筋を切離するごとに股関節屈曲角度の計測と観察を行った結果,梨状筋と内閉鎖筋に著明な伸張が見られ,これらの切離後に股関節屈曲角度は顕著に増加した。梨状筋と内閉鎖筋は股関節外旋筋であることから,これらが股関節屈曲を制限している可能性があると考えられた。理学療法プログラムとして股関節屈曲可動域を拡大するときには,屈曲角度のみに注目せずに内旋角度にも注意を払う必要があると示唆された。
著者
吉尾 雅春 村上 弦 西村 由香 佐藤 香織里 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0826, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】座位で骨盤の傾斜角度を変えて,屍体の大腰筋腱を他動的に牽引して股関節を屈曲する際の張力を調べることによって,座位における大腰筋の機能について検討した。【方法】ホルマリン固定した屍体10体で,明らかな骨変性のない17股関節,男性10股関節,女性7股関節を対象とした。第11,12胸椎間で体幹を切断し,脊椎,骨盤を半切,膝関節で離断,大腰筋腱,股関節の関節包,各靱帯のみを残し,骨格から他の組織を除去して実験標本を作製した。背臥位で両側の上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ面が実験台と水平になるように,実験台に骨盤をクランプで固定した。実験台は股関節部分で角度を任意に調節できるようにし,床面と水平になるように設置した。骨盤側の台を座位方向に起こして,骨盤長軸と大腿骨とで成す股関節屈曲角度を0度,15度,30度,45度,60度,75度,90度に設定した。それぞれの角度で大腰筋腱を起始部の方向から徒手的に牽引して,股関節が屈曲し始めたときの張力を測定した。張力の測定にはロードセル(共和電業,LU-20-KSB34D)を用い,センサーインターフェイスボード(共和電業, PCD-100A-1A)を通してパーソナルコンピュータで解析して求めた。大腿骨の重量や長さなどの個体因子を排除するために,股関節屈曲角度0度での張力を1として,張力の相対値を求めて検討した。牽引時の主観的抵抗感も検討因子に加えた。統計学的検討はt検定により,有意水準を5%未満とした。【結果】各角度での張力の相対値は0度:1.00,15度:1.05±0.08,30度:1.04±0.11,45度:1.07±0.12,60度:1.25±0.11,75度:1.44±0.15,90度:1.82±0.29であった。15度と30度との間で差が認められなかった以外は,0度から45度まで有意に張力は微増,60度,75度で著明に増加,90度で張力は激増し,60度以上での張力はすべての角度との間で有意差がみられた。牽引時の主観的抵抗感は60度以上で強く,75度でかなり強さを増し,90度では股関節屈曲が困難なほど極めて強い抵抗があった。【考察】第40回大会で骨盤を固定した健常成人の他動的股関節屈曲角度が約70度であることを報告した。主観的抵抗感も加味すると,通常の生体座位における自動的股関節屈曲に75度,90度で得られた張力を求めるとは考えにくい。座位で大腰筋を用いて股関節を自動屈曲するためには骨盤後傾位が効率的で,骨盤前傾位では股関節を屈曲することが困難になる。逆の視点で考えれば,骨盤後傾位で体幹を伸展した座位姿勢を保持するためには下肢が挙上しないようにハムストリングなどの作用が求められるが,前傾位では下肢は挙上しにくいために大腰筋の作用によって体幹伸展保持が保障されるという,60度を境にした役割の切り替えがなされる筋機能を有していると考えられた。
著者
佐藤 香緒里 吉尾 雅春 宮本 重範 乗安 整而
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.323-328, 2008-04-20
参考文献数
15
被引用文献数
1

本研究では,股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響を検討することを目的とし2つの実験を行った。若年健常男女60名を対象とした股関節回旋角度の違いによる股関節屈曲角度の計測では,股関節内旋角度の増加に伴い股関節屈曲角度は有意に減少し(p<0.001),股関節外旋筋群の伸張が股関節屈曲を制限する因子として考えられた。新鮮遺体1体の両股関節後面各筋を切離するごとに股関節屈曲角度の計測と観察を行った結果,梨状筋と内閉鎖筋に著明な伸張が見られ,これらの切離後に股関節屈曲角度は顕著に増加した。梨状筋と内閉鎖筋は股関節外旋筋であることから,これらが股関節屈曲を制限している可能性があると考えられた。理学療法プログラムとして股関節屈曲可動域を拡大するときには,屈曲角度のみに注目せずに内旋角度にも注意を払う必要があると示唆された。<br>
著者
吉尾 雅春 西村 由香 村上 弦 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0922, 2004

【目的】 MRI等を用いて股関節屈曲角度の計測結果がいくつか報告されているが,いずれも骨盤の固定に問題を残している。そこで新鮮凍結遺体を用いて,骨盤を機械的に固定した状態で股関節の屈曲角度を求め,制限要因などについて検討したので報告する。<BR>【方法】 札幌医科大学および韓国カトリック大学に献体された平均年齢74.1歳(45~89歳)の新鮮凍結遺体男性11体女性5体21股関節を解凍して用いた。変形性股関節症や骨折の既往を視認できたものは対象から外した。遺体から骨盤と大腿を切離し,股関節関節包以外の軟部組織をすべて除去した。上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ線が固定台と水平になるように台上に骨盤を載せ,クランプを用いて固定した。まず股関節内旋外旋・内転外転中間位(中間位)で検者Aが大腿骨を持って制限があるまで股関節を屈曲させ,検者Bがそのときの最大角度を測定した。さらにそこから股関節を最大外転したとき(外転位)の最大屈曲角度を求めた。屈曲角度は骨盤長軸を基本軸に,大転子と大腿骨外側上顆とを結ぶ線を移動軸にして,Smith & Nephew Rolyan社製ゴニオメーターを用いて1度単位で計測した。最大外転角度は矢状面に対する大腿骨のなす角度とした。角度計測後,股関節関節包を前方から切開して股関節を解放し,屈曲時に何が制限要素になっているか肉眼的に観察した。その後,股関節を離断し,骨盤と大腿骨の形態計測を行い,股関節屈曲角度との関係を調べた。統計学的有意水準は5%とした。<BR>【結果】 股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。外転位の最大屈曲角度は115.4±9.2度で,最大外転角度は23.6±4.7度であった。年齢と中間位での最大屈曲角度との関係はなかった。中間位と外転位での最大屈曲角度は正の相関(r=0.668)を示した。関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった。前捻角は15.4±5.6度で中間位での最大屈曲角度と正の相関(r=0.521)がみられた。頸体角は124.1±5.0度で,最大屈曲角度との相関はみられなかった。大腿骨頭の直径は476.3±27.7mmで最大屈曲角度との相関はなかった。大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの距離は679.2±49.9mmで,最大屈曲角度と負の相関(r=-0.461)がみられた。<BR>【考察】 骨盤を機械的に固定したときの股関節中間位における屈曲角度は平均93度で,外転位では115度であった。その制限因子は骨性のものであり,前捻角と大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの長さが影響を与えていた。生体では大殿筋等の拮抗筋や股関節前面の軟部組織が制限要因となり,屈曲角度はさらに小さくなる可能性がある。臨床的に参考値としている120~130度のうち,30~40度は骨盤の傾きによることが明らかとなった。