著者
吉尾 雅春 西村 由香 松本 拓士 野々川 文子 宇田津 利恵 石橋 晃仁
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.32 Suppl. No.2 (第40回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0725, 2005 (Released:2005-04-27)

【目的】第39回学術大会において、股関節関節包以外の軟部組織を除去した新鮮遺体骨格標本による股関節屈曲角度が約93度であることを報告した。しかし、生体では股関節周囲の軟部組織の圧迫や筋緊張による抵抗などのために、屈曲角度が減少することが考えられる。そこで、健常成人を対象に、骨盤を徒手的に固定したときと自由にしたときとの他動的股関節屈曲角度を求め、股関節屈曲運動について検討を加えたので報告する。【方法】対象は同意を得た健常成人20名で、平均25.9±3.9歳、男10名、女10名であった。検者Aは対象側股関節内旋外旋・内転外転中間位を保ちながら股関節を他動的に屈曲させた。検者Bは日本リハビリテーション医学会の測定方法に準じて股関節屈曲角度を測定した。測定は背臥位で両側に対して、Smith & Nephew Rolyan社製ゴニオメーターを用いて1度単位で3回行った。測定1:検者Aが反対側の大腿を固定し、対象側股関節を最大屈曲させ、角度を測定した。測定2:両側股関節を同時に最大屈曲したときの角度を求めた。測定3:まず、股関節屈曲運動に伴って骨盤が後傾しないように、閉眼した検者Cが上前腸骨棘から腸骨稜にかけて徒手的に把持して固定した。検者Aが対象側の股関節をゆっくり屈曲させ、検者Cによる骨盤固定の限界点で屈曲角度を測定した。測定3の値は骨盤の動きの制動に影響される可能性が大きいため、3回測定のICCを求めて再現性の検証を行った。統計学的有意水準は0.05とした。【結果】全員を対象とした測定3の3回のICCは、右0.909、左0.830で再現性は高かった。各測定において有意な左右差がなかったので右について提示する。他動的股関節屈曲3回の平均は測定1が133.1±9.1度、測定2が138.3±7.2度、測定3が70.4±9.0度であった。各測定間で相関はみられなかった。腰椎の動きや骨盤後傾角度などを主に表すと考えられる測定1から測定3を引いた角度Fは62.8±10.6度、測定2から測定3を引いた角度Gは68.0±11.6度であった。角度F、角度Gは測定3の角度との間にそれぞれ負の相関(r=-0.58、-0.78)を認めた。また、角度Fは測定1の角度と正の相関(r=0.59)を、角度Fと角度Gは測定2の角度と正の相関(r=0.50、0.63)を示した。【考察】骨盤をしっかり固定したときの他動的股関節屈曲を示す測定3の角度は、言うなれば「寛骨大腿関節」の最大屈曲角度である。右では股関節屈曲角度133度のうち、寛骨大腿関節は平均70度、腰椎の動きや骨盤後傾を含むその他の角度は平均63度であった。軟部組織を除去した新鮮遺体の寛骨大腿関節が93度であったことから、20度余が軟部組織のための角度と考えられる。これらの特徴を考慮しながらROMテストや運動療法を行う必要がある。
著者
吉尾 雅春 村上 弦 西村 由香 佐藤 香織里 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0826, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】座位で骨盤の傾斜角度を変えて,屍体の大腰筋腱を他動的に牽引して股関節を屈曲する際の張力を調べることによって,座位における大腰筋の機能について検討した。【方法】ホルマリン固定した屍体10体で,明らかな骨変性のない17股関節,男性10股関節,女性7股関節を対象とした。第11,12胸椎間で体幹を切断し,脊椎,骨盤を半切,膝関節で離断,大腰筋腱,股関節の関節包,各靱帯のみを残し,骨格から他の組織を除去して実験標本を作製した。背臥位で両側の上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ面が実験台と水平になるように,実験台に骨盤をクランプで固定した。実験台は股関節部分で角度を任意に調節できるようにし,床面と水平になるように設置した。骨盤側の台を座位方向に起こして,骨盤長軸と大腿骨とで成す股関節屈曲角度を0度,15度,30度,45度,60度,75度,90度に設定した。それぞれの角度で大腰筋腱を起始部の方向から徒手的に牽引して,股関節が屈曲し始めたときの張力を測定した。張力の測定にはロードセル(共和電業,LU-20-KSB34D)を用い,センサーインターフェイスボード(共和電業, PCD-100A-1A)を通してパーソナルコンピュータで解析して求めた。大腿骨の重量や長さなどの個体因子を排除するために,股関節屈曲角度0度での張力を1として,張力の相対値を求めて検討した。牽引時の主観的抵抗感も検討因子に加えた。統計学的検討はt検定により,有意水準を5%未満とした。【結果】各角度での張力の相対値は0度:1.00,15度:1.05±0.08,30度:1.04±0.11,45度:1.07±0.12,60度:1.25±0.11,75度:1.44±0.15,90度:1.82±0.29であった。15度と30度との間で差が認められなかった以外は,0度から45度まで有意に張力は微増,60度,75度で著明に増加,90度で張力は激増し,60度以上での張力はすべての角度との間で有意差がみられた。牽引時の主観的抵抗感は60度以上で強く,75度でかなり強さを増し,90度では股関節屈曲が困難なほど極めて強い抵抗があった。【考察】第40回大会で骨盤を固定した健常成人の他動的股関節屈曲角度が約70度であることを報告した。主観的抵抗感も加味すると,通常の生体座位における自動的股関節屈曲に75度,90度で得られた張力を求めるとは考えにくい。座位で大腰筋を用いて股関節を自動屈曲するためには骨盤後傾位が効率的で,骨盤前傾位では股関節を屈曲することが困難になる。逆の視点で考えれば,骨盤後傾位で体幹を伸展した座位姿勢を保持するためには下肢が挙上しないようにハムストリングなどの作用が求められるが,前傾位では下肢は挙上しにくいために大腰筋の作用によって体幹伸展保持が保障されるという,60度を境にした役割の切り替えがなされる筋機能を有していると考えられた。
著者
蛯名 岳志 永嶋 高大 西村 由香
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0979, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】座位は,立ち上がり動作の準備段階として捉えることができ,座位姿勢の状態を把握することは立ち上がり動作を分析する上で重要である。立ち上がり動作は椅子の高さ,肘掛けの有無など周囲の環境に影響を受け,環境設定によっては動作遂行者に掛かる負荷が変化しうる。即ち,環境設定によって立ち上がり動作の遂行を容易くすることや難易度を調節することができると言える。また,立ち上がり動作における骨盤の前傾は第1相で重心を前方に移動させる際に重要な役割を担っているとされている。そこで本研究の目的は,環境設定によって座位での骨盤の前傾を促せるかどうかを明らかにすることとした。【方法】対象は健常成人20名(男子10名,女子10名,年齢21.6±0.6歳,身長165.5±8.6cm)とした。座面高を3条件,座面奥行きを2条件とし,それぞれの組み合わせで骨盤傾斜角度の測定を行った。対象者のうち8名に対しては下肢荷重量の測定も行った。座面高は下腿長,下腿長+5cm,下腿長+10cmの3条件,座面奥行きは大腿長1/2が座面端上にくる条件(以下,座面奥行きが広い条件)と大転子が座面端上にくる条件(以下,座面奥行きが狭い条件)の2つとし,測定は座面高が下腿長,下腿長+5cm,下腿長+10cmの順に,座面奥行きはランダムとし,座位姿勢は,左右足部を肩幅程度に離してもらい,足関節は底背屈0°,上肢は胸部前方で組みリラックスして座るよう指示した。骨盤傾斜角度の測定方法は,上前腸骨棘と上後腸骨棘を結んだ線と水平線のなす角とした。触知にてランドマークの確認を行い,右側からビデオカメラで撮影後,画像解析ソフトImage Jを用いて算出した。測定は3回行い,後傾方向を正の値,前傾方向を負の値とし,平均値を算出した。対象者の8名に対しては,同時に体重計を足底へ設置し,同条件下での下肢荷重量を測定した。荷重量は体重で除し,補正した。座位における座面高と座面奥行きの条件による骨盤傾斜角度と下肢荷重量を比較し,両者の相関関係をみた。分析は,座面奥行きによる差に対しては対応のあるt検定,座面高による差に対しては反復測定の一元配置分散分析として,繰り返しのない二元配置分散分析を行い,多重比較法はTukey-Kramer法を用いた。危険率は5%未満とした。相関関係はピアソンの相関係数の検定を用いた。【結果】骨盤傾斜角度は,座面奥行きの広い条件では,どの座面高でも有意差を認めなかった(下腿長:12.4°±8.3°,下腿長+5cm:11.6°±8.1°,下腿長+10cm:12.9°±7.6°)。座面奥行きの狭い条件では,下腿長(17.7°±6.8°)と下腿長+5cm(14.9°±6.7°),下腿長+10cm(12.8°±7.6°)との間でそれぞれ有意差を認め(p<0.01),座面の高い方が骨盤が前傾していた。また,座面高が下腿長,下腿長+5cmでは,座面奥行きによって骨盤傾斜角度に有意差があった(p<0.05)。下肢荷重量は,座面奥行きが広い条件で下腿長(21.5%±1.7%)と下腿長+5cm(18.8%±3.2%),下腿長+10cm(12.5%±2.7%)との間に,下腿長+5cmと下腿長+10cmとの間に有意差を認め(p<0.05),座面の高い方が荷重量は少なかった。座面奥行きの狭い条件では,下腿長(24.4%±3.9%)と下腿長+10cm(25.6%±3.4%)との間に有意差を認めたが,下腿長+5cm(24.6%±3.1%)は他との有意差がなかった。骨盤傾斜角度と下肢荷重量の相関関係について,座面奥行きが広い条件では相関関係が認められず(r=-0.149,p=0.488),座面奥行きの狭い条件では負の相関が認められた(r=-0.441,p=0.031)。【考察】座面奥行きの狭い条件では,座面を高くすると骨盤の前傾を促すことができ,下肢荷重量が多くなることが分かった。座面奥行きの狭い条件で座面を高くすることは,自身での骨盤前傾動作が困難な方の骨盤前傾を促し立ち上がり動作を簡易的にすること,運動療法時の立ち上がり動作の段階的な負荷量決定の指標になる可能性が示唆された。また,日常生活において立ち上がり動作が困難な方の身体状況に合わせた高さの椅子や昇降式ベッドを導入することで,活動性の拡大につながると考える。座面奥行きの広い条件では下肢荷重量は少なかったが,奥行きの狭い条件よりも骨盤が前傾していたことから,随意的な骨盤前後傾運動を行う際には有用な環境である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】座面高,座面奥行きによる環境を含めた設定によって座位骨盤傾斜角度の調節が可能であることが示唆された。運動療法や日常生活の環境設定の一助となる。
著者
吉尾 雅春 西村 由香 村上 弦 乗安 整而
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0922, 2004

【目的】 MRI等を用いて股関節屈曲角度の計測結果がいくつか報告されているが,いずれも骨盤の固定に問題を残している。そこで新鮮凍結遺体を用いて,骨盤を機械的に固定した状態で股関節の屈曲角度を求め,制限要因などについて検討したので報告する。<BR>【方法】 札幌医科大学および韓国カトリック大学に献体された平均年齢74.1歳(45~89歳)の新鮮凍結遺体男性11体女性5体21股関節を解凍して用いた。変形性股関節症や骨折の既往を視認できたものは対象から外した。遺体から骨盤と大腿を切離し,股関節関節包以外の軟部組織をすべて除去した。上前腸骨棘と恥骨結節とを結ぶ線が固定台と水平になるように台上に骨盤を載せ,クランプを用いて固定した。まず股関節内旋外旋・内転外転中間位(中間位)で検者Aが大腿骨を持って制限があるまで股関節を屈曲させ,検者Bがそのときの最大角度を測定した。さらにそこから股関節を最大外転したとき(外転位)の最大屈曲角度を求めた。屈曲角度は骨盤長軸を基本軸に,大転子と大腿骨外側上顆とを結ぶ線を移動軸にして,Smith & Nephew Rolyan社製ゴニオメーターを用いて1度単位で計測した。最大外転角度は矢状面に対する大腿骨のなす角度とした。角度計測後,股関節関節包を前方から切開して股関節を解放し,屈曲時に何が制限要素になっているか肉眼的に観察した。その後,股関節を離断し,骨盤と大腿骨の形態計測を行い,股関節屈曲角度との関係を調べた。統計学的有意水準は5%とした。<BR>【結果】 股関節中間位における最大屈曲角度は93.0±3.6度であった。外転位の最大屈曲角度は115.4±9.2度で,最大外転角度は23.6±4.7度であった。年齢と中間位での最大屈曲角度との関係はなかった。中間位と外転位での最大屈曲角度は正の相関(r=0.668)を示した。関節包前面を切開して中間位で最大屈曲したとき,大腿骨の転子間線から約1cm骨頭側の頸前面が関節唇に衝突し,それ以上の屈曲はできなかった。前捻角は15.4±5.6度で中間位での最大屈曲角度と正の相関(r=0.521)がみられた。頸体角は124.1±5.0度で,最大屈曲角度との相関はみられなかった。大腿骨頭の直径は476.3±27.7mmで最大屈曲角度との相関はなかった。大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの距離は679.2±49.9mmで,最大屈曲角度と負の相関(r=-0.461)がみられた。<BR>【考察】 骨盤を機械的に固定したときの股関節中間位における屈曲角度は平均93度で,外転位では115度であった。その制限因子は骨性のものであり,前捻角と大腿骨転子間線中央から骨頭先端までの長さが影響を与えていた。生体では大殿筋等の拮抗筋や股関節前面の軟部組織が制限要因となり,屈曲角度はさらに小さくなる可能性がある。臨床的に参考値としている120~130度のうち,30~40度は骨盤の傾きによることが明らかとなった。