著者
二橋 亮
出版者
独立行政法人産業技術総合研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

トンボは主に視覚でお互いを認識するため、翅色や体色に著しい多様性が見られる。トンボの成虫における色彩変化や色彩多型については、生態学的、行動学的な視点から多くの研究が行われてきたが、具体的な色素や体色に関わる分子機構については、全く不明であった。本研究から、日本人に馴染みの深いアカトンボの黄色から赤色への体色変化が、皮膚のオモクローム色素の酸化還元反応によって生じていることが明らかになった。この結果は、動物の体色変化に関わるメカニズムとして過去に例のないものであると考えられた。
著者
二橋 亮
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

トンボは、基本的に視覚で相手を認識するため、体色や斑紋に著しい多様性が見られる。申請者らは、色覚に関わるオプシン遺伝子がトンボで極端に多様化していること、オプシン遺伝子の発現は幼虫と成虫で大きく異なることを見出した。また、アカトンボの体色変化は色素の酸化還元反応が原因であること、シオカラトンボの体色変化はUV反射Waxの産生によることを発見した。これらの知見により「トンボの幼虫と成虫で色覚はどのように変化するのだろうか?」「トンボの体色変化には、どのような遺伝子が関与するのだろうか?」などの素朴な疑問が浮かび上がった。これらの疑問の解明に向けて、申請者らはトンボの遺伝子機能解析系と実験室内飼育系を確立することに成功した。本研究課題では、申請者らが構築した一連の実験系を用いてトンボの色覚と体色形成の分子基盤を深いレベルで解明することを目指す。2020年度は、トンボの機能解析系の改良を行うために、RNAiに最適な条件の検討を行った。その結果、さまざまなトンボで終齢幼虫は外部形態から3つのステージに区別可能で、第1ステージにRNAiを行うことで、成虫の体色に関する遺伝子機能解析を高い効率で行うことが可能になり、論文発表を行った。また、トンボの色素の同定を行うとともに、色素合成に関わる遺伝子の網羅的な機能解析を行った。さらに模様特異的に発現する遺伝子を探索して機能解析を行い、体色に関わる新規遺伝子を複数同定することに成功した。
著者
二橋 亮
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1086-1090, 2014

江戸時代の浮世絵にも描かれている「アカトンボ」は,日本人にとって最も馴染みの深い昆虫の1つといっても過言ではないだろう.童謡の「赤とんぼ(作詞:三木露風,作曲:山田耕筰)」は,ほとんどの人が口ずさむことのできる数少ない歌の1つであり,青空を群れ飛ぶアカトンボは,秋の訪れを告げる風物詩としても馴染みの深いものといえる.<br>日本人なら誰もが知っているアカトンボであるが,かつて日本や中国では,漢方薬として使用されていたことをご存じだろうか.ナツアカネやショウジョウトンボなど,特に赤みの強いアカトンボが,百日咳や扁桃腺炎,梅毒などに効果があると信じられていたのである.戦後もアキアカネやナツアカネの成虫を乾燥したものが薬局で売られているという紹介記事が出ており,緒方らは,ナツアカネとアキアカネを材料に,「赤蜻蛉成分の研究(第一報)」という論文を1941年の薬学雑誌で発表している.ちなみに,この論文ではアカトンボの具体的な成分が同定されたわけではなく,その後続報が発表されることはなかった.それでも,この論文の存在は,アカトンボの薬効成分に着目した研究があったことを伺わせるものである.<br>最近では,トマトの赤色色素であるリコペン(カロテノイドの一種)や,イチゴの赤色色素であるアントシアニン(フラボノイドの一種)に,強力な抗酸化能があることから,疾病に対する予防効果があるとも言われている.これらの例をみると,真っ赤なアカトンボの赤色色素も,もしかすると本当に健康に良いのかもしれないと思えてくる.その前に,そもそもアカトンボの赤色の正体は何であろうか.