著者
井上 武史
出版者
京都大学
巻号頁・発行日
2008-03-24

新制・課程博士
著者
曽我部 真裕 井上 武史 堀口 悟郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

曽我部は、研究全体のとりまとめを行うとともに、「基本的情報の提供・流通の体制のうち公共放送のあり方」に関して、報道の任務について論じ(「任務は権力監視、独立性が生命線」Journalism328号(2017年))、また、関連して判例の検討等を行った(「2017年マスコミ関係判例回顧」新聞研究799号(2018年))。また、「補完的に民意を表明・調達する手法」として、デモ規制のあり方について検討した(「市民の表現の自由」宍戸常寿・林知更(編)『総点検 日本国憲法の70年』(岩波書店、2018年))。井上は、分担テーマである「民主政に関与するアクターの規律」について、民主政に関するフランスの憲法規定の変遷を統計的、網羅的に検討し、かつ民主政のあり方を問い直す最近の改憲議論を取り上げて、その動向を探る研究を行った(「フランス第5共和政における憲法改正:最近の改憲論議も含めて」辻村みよ子編集代表、講座政治・社会の変動と憲法:フランス憲法からの展望第Ⅱ巻『社会変動と人権の現代的保障』、信山社、2017年)。堀口は、昨年度に引き続き、分担テーマである「専門的知識を創出・供出する制度」として、学術の中心をなす機関である大学に関する検討を行った。具体的には、①高等教育の無償化が大学に与える影響(斎藤一久=安原陽平=堀口悟郎「高等教育の無償化に向けての憲法改正の是非」季刊教育法195号(2017年))、②大学運営に対する学生の参加が大学教員の学問活動に与える影響(堀口悟郎「(学会報告)学生の参加と教授の独立」比較憲法学会、2017年10月28日、同志社大学)について考察した。
著者
井上 武史 イノウエ タケシ Takeshi INOUE

高緯度北極に生育する地衣類の水利用と光合成活動の解明Morphological and symbiotic effects on water availability andphotosynthesis of lichens during snow-free seasons in the High Arcticglacier foreland高緯度北極に生育する地衣類の光合成活動は、雪に覆われない生育可能期間において、水制限下にあると指摘されている。しかし、野外環境下での地衣類の水利用や光合成活動は研究例が少なく、その動態はわずかな知見に基づいて推察されたものであった。本研究ではノルウェー王国スピッツベルゲン島ニーオルスンにある東ブレッガー氷河後退域(78°55′N 11°50′E)において、優占する地衣種を調査し、それらの着生基物や地衣体の内部・外部の形態で生じる水環境特性と、各地衣種の光合成活動の実態解明を目指した。植生調査により、調査域には136 種の地衣類の分布が確認され、このうち樹枝状地衣種Cetrariella delisei と固着地衣種Ochlolechia frigida は複数の地表面構成要素を着生基物として高頻度・被度で出現する優占地衣種となっていた。また、樹枝状地衣種Flavocetraria nivalis、Cladonia arbuscula ssp. mitis、Cladoniapleurota は、それぞれ維管束植物/リター、コケ/リター、クラスト上で高い出現率を示し、これらは各地表面構成要素上での標徴種とみなされた。複数の地表面構成要素上に高頻度で出現した2 種の優占地衣種では、C. delisei はリター類と礫、O. frigida はクラスト上で特に高出現率となっており、また、各地表面構成要素上で異なる地衣種が高頻度に出現したことは、着生基物のもたらす水環境の違いや、各地衣種の水獲得や光合成をはじめとする生理特性の違いによって生じたと思われたため、これら5 種を調査対象と定め研究を進めた。調査域の無雪期間には、微量の降雨が1 週間程度の間隔で生じ、大気中の湿度は降雨停止後から徐々に低下し、また、着生基物も自由可動水が数日でほとんどの失われるほどに乾燥化が進行した。地衣体の表面積/乾重が相対的に大きな4 種の樹枝状地衣(C. delisei, F. nivalis, C. arbuscula ssp. mitis, C. pleurota)については、降雨後の夜間から早朝に湿度が飽和状態となっている大気中から水蒸気を獲得することが実験的に確認され、野外においても夜間から早朝に地衣体の含水比を高め、相対的に弱い光環境で光合成を行なっていることが確認された。また、これら樹枝状地衣4 種は大気中湿度の低下に伴って地衣体から早急に水が蒸発し、日中には含水比の低下により光合成が停止していた。これに対し、調査域の地表面構成要素の中で最も湿潤環境であったクラストに広い表面積で着生していた固着地衣O. frigida は、着生基物と地衣体間に生じた水ポテンシャル差に沿って水が供給されることで、含水比が光合成可能な程度に降雨後から数日間は保たれ、日中にも光合成を行っていることが明らかとなった。本研究では次に5 種の地衣体から共生藻を分離し、光・水-光合成応答性を調べることで、共生関係による乾燥環境への適応について追求した。吸水状態での地衣体の光-光合成曲線は、樹枝状地衣4 種は弱光適応型、固着地衣O. frigidaは強光適応型の曲線がみられ、それぞれの曲線はそれらの共生藻が示すものと一致したことより、吸水状態の地衣体で実現される光-光合成応答性には共生藻の生理特性が強く表れていることが判明した。共生藻の水-光合成応答性を調べた結果、全ての共生藻は35%以下の含水比でも光合成活性を低下させない性質を示した。樹枝状地衣Cladonia 属2 種では、分子系統解析により同一種とみなされる共生藻が地衣体表面に配置され、光合成停止含水比は5%前後であった。これに対し、他2 種の樹枝状地衣では、明瞭な上・下皮層構造に囲まれた髄層中に共生藻が配置され、それら共生藻の光合成停止含水比はCladonia 属の共生藻に比べ2-5 倍程度大きな値となっていた。固着地衣O. frigida では共生藻は上皮構造によって大気側が遮断され、着生基物から水が供給される共生体下部に配置されていること、また、その共生藻の光合成停止含水比は調査した共生藻の中では最低値を記録し、乾燥に極めて強いものであった。以上の結果より、調査対象とした優占地衣種5 種はそれぞれの共生菌がつくる形態的特徴と着生基物によって、無雪期間の乾燥化進行時における利用可能な水環境に差を生じさせ、この水環境の差に応じて地衣体が獲得した水によって共生藻の光合成が活性化されうること、また、それぞれの共生藻は低含水比でも光合成を行なう能力を持つが、光合成停止含水比には種間差が認められ、地衣体が水を獲得できる時の光環境で阻害を受けずに光合成を行う生理特性を持っていることが本研究から明らかとなった。これらは共生体を構築して調査域で優占する地衣種の菌類と藻類との間に、乾燥化が進行する環境下で効率よく光合成を行うための調和的な関係が成立していることを示唆していた。
著者
工藤 栄 田邊 優貴子 井上 武史 伊村 智 神田 啓史
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.114-122, 2009-03-30
被引用文献数
1

南極の陸域環境の植物の分布と定着は,洪水をも含む環境の物理的撹乱による制限を強く受けていると考えられる.近年(第47次観測隊以降),日本南極地域観測隊の活動を通じ,東南極宗谷海岸のラングホブデ域にある氷河池(仮称)の多年性雪の堤防に大きな穴が開き決壊したことを確認した.同様の現象は約25年前にも報告されている.以前の穴はその後閉塞し,今回の決壊直前まで氷河融解水が涵養した湖沼となっていたが,現在ではその湖水のほとんどが失われ,湖の面積は著しく縮小している.ラングホブデ南部にある隣接したいくつかの渓谷及び湖沼は,土壌藻類・地衣類・蘚類や湖底藻類蘚類群落が発達した地域として知られている.これらの中で,氷河池内やこの雪の堤防の下流側の渓谷(やつで沢)にはごく乏しい植生しか見出すことはできない.この対照的に貧弱な植生の分布と定着状態は,繰り返し発生する堤防の決壊による物理的撹乱が湖沼内及びその下流側での植物の分布・定着を制限した結果であると考えられる.この報告を通じ,著者らはこの地域の氷床の融解量の変化の評価とともに,露岩域での生態学的研究及びこのエリアで今後とも行われる観測活動に際しての安全確保という観点から,この多年性雪堤防と氷河池の長期監視の重要性を訴えるものである.