著者
首藤 太一 広橋 一裕 久保 正二 田中 宏 山本 隆嗣 竹村 茂一 大場 一輝 上西 崇弘 井上 清俊 木下 博明
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.34, no.9, pp.1387-1394, 2001-09-01
被引用文献数
3

肝細胞癌(肝癌)切除後の他臓器転移(Distant metastasis:DM)例が増加し, 対応に苦慮することも多い.今回DM例の再発後生存率(R-SR)に関与する臨床病理学的因子の解析を行い, DM例に対する治療のあり方を検討した.対象と方法:1999年12月までの10年間に教室で初回肝切除の施された肝癌386例中227例が再発した.このうちDM例は61例(27%)であったが, DM例のR-SRに関与する臨床病理学的因子の単変量, 多変量解析を行った.結果:残肝単独再発166例およびDM例の再発後1, 3, 5年生存率はそれぞれ77, 48, 19%および61, 31, 15%(p=0.0042)であった.DM61例中43例に残肝再発が併存したが, DMの内訳は骨28例, 肺20例, リンパ節11例, 脳7例, 副腎7例, 胸腹壁4例, 腹膜3例であった.今回検討した因子中単変量解析でR-SRに関与する因子は初回肝切除時AFP陰性(n=39), Stage III以下(n=53), 再発時若齢(n=32), 残肝再発治療(n=34), DM巣切除(n=14)の5因子であった.多変量解析ではstage III以下, 残肝再発治療, DM巣切除が独立因子であり, 再発時肝機能因子や初回治療因子は関与しなかった.結語:DM例のR-SRは不良であるが, 残肝再発が治療可能な場合にはDM巣切除がR-SR向上に関与する可能性があるため, 切除も含めた他臓器転移の治療を継続すべきであると思われた.
著者
井上 清俊 西田 達 河田 安浩 泉 信博 山本 訓史 西山 典利 大杉 治司 木下 博明
出版者
特定非営利活動法人日本呼吸器外科学会
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.150-156, 2002-03-15
参考文献数
30
被引用文献数
1

交通外傷12年後に診断され,手術治療した気管食道瘻の1例を報告する.症例は31歳,男性.1987年交通外傷にて両側気胸,意識消失のため入院加療を受けた.1999年4月食事摂取時の咳嗽のため受診した.気管分岐部直上膜様部の径33mm大の気管食道瘻と診断し,手術を施行した.瘻孔を食道壁とともに自動縫合器により閉鎖し,第5肋間筋を間置した.術後合併症はなく退院し社会復帰している.
著者
井上 清俊 金田 研司 木下 博明
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

肝臓において、類洞壁星細胞が活性化し線維化を生じるに伴って細胞質型のプリオン蛋白(PrPc)を発現することをヒントとし、肺の線維化におけるプリオン蛋白の発現について基礎研究および臨床研究を行なった。基礎研究として肺組織におけるプリオン蛋白産生細胞の解析を、肺線維症モデルを作成し免疫組織化学的手法を用いて行なった。正常肺では細気管支に多く分布し小顆粒を有するクララ細胞の細胞質にPrPcの発現が認められたが、核と顆粒には発現は認められなかった。ブレオマイシンの細気管支投与によって作成した線維化肺では、終末細気管支の周囲の線維化巣において細気管支が増殖し、増殖細気管支はPrPc陽性のクララ細胞に覆われていた。また、PrPc陽性細胞は、肺胞管の上皮と肺胞の再生した上皮にも存在していた。また、線維化巣にはα-smooth muscle actin陽性の筋線維芽細胞が多数存在していたが、PrPc陽性細胞とはその分布は異なっていた。これらの所見より、肺胞が障害を受けた際、クララ細胞が増殖し終末細気管支から腺房に遊走し、肺の幹細胞として増殖し損傷を修復する可能性と、肝と肺の筋線維芽細胞のheterogeneityの可能性を示唆している。臨床研究は、当病院において原発性肺癌症例で放射線療法と化学療法を施行した後、外科的治療を行なった摘出標本を用いて、プリオン蛋白発現を指標とした至適放射線量と範囲および術式の再評価を行なうことを目指した。摘出した標本においては、免疫組織化学的手法およびPCR法を用い検討じたが、放射線療法終了後約6〜8週経過し線維化が完成した為か、明らかなプリオン蛋白陽性細胞の増殖は認めなかった。今後はプリオン蛋白の発現が最も顕著と思われる時期、すなわち放射線療法の影響が強く存在し、明らかに線維化が完成する以前の肺組織を対象として、再度検討する予定である。