著者
井尻 香代子
出版者
京都産業大学総合学術研究所
雑誌
京都産業大学総合学術研究所所報 (ISSN:13488465)
巻号頁・発行日
no.16, pp.131-137, 2021-07-30

スペインやラテンアメリカでは,近年,俳句のみならず,連句,川柳,俳文,俳画など,俳文学の受容が進んでいる。本稿は,日本の俳文学がなぜスペイン語圏の一般の人々に広く実作されるに至ったのか,解明への端緒を開くことを目的としている。ここではスペイン語圏の俳文学ジャンルの実作状況を踏まえ,日本とスペイン語圏の俳文学ジャンルの定義の比較分析を行った。その結果,形式,テーマ,文体において共通点が見出された。スペイン語圏の人々は,その生活に根差した感性の表現を伝統的な口承文学に見出してきたが,現在はその新しい詩学を日本の俳諧の精神・美学に求めていると思われる。
著者
井尻 香代子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
no.47, pp.87-102, 2014-03

本稿では,二つの視点から日本の俳句および海外のハイクが広範な普及を実現した原因を探る。第一に,その詩型の短さが意味するものに着目する。俳句は西欧近代文学の影響下に誕生したが,究極の短詩形であることによって,俳諧連歌の発句としての特徴を維持した。それは,創作方法における共同体的な集団性であり,これによって俳句は近代文学における個人主義の価値観を変革するジャンルとなったのである。第二に,日本の俳句の成立と世界への伝播の過程を環境史とエコクリティシズムの視点から検討する。日本の伝統詩歌はその発展のプロセスにおいて,日本列島という限られた領土における自然と人の関わりの破綻に幾度か直面した。そのたびに自然観および言語を更新し,連歌,俳諧連歌,俳句という新しいジャンルを生み出したのである。俳句の形式や言語には,そうした自然観の枠組みの変遷が刻み込まれている。欧米におけるハイクの受容は環境思想やエコロジーへの関心とリンクして進展した。多言語で制作されるハイクには,各地域の生物文化の多様性を守り共生しようとする価値観が共有されている。
著者
井尻 香代子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.315-331, 2012-03

本稿では,国際ハイクにおいて日本の俳句の主要な要素の一つである季語が,どのように受容されて来たのかを取り上げ,アルゼンチンのスペイン語ハイクの作品分類をベースに考察し た。まず,日本の俳諧の連歌において季語がどのように理解され,発句に用いられたのかについて,芭蕉のことばに着目して検証した。次に,近代俳句における季語観の変化を,無季容認派と有季定型のホトトギス派の両者について概観した。その上で,アルゼンチン・ハイクの季語および通年の語の分類を行い,作品における機能を分析した。その結果,アルゼンチン・ハイクにおける季語および通年のトピックの用法は,近代俳句における季語ではなく,事象の変化に着目する俳諧の季語のそれに近いことが明らかになった。現在の国際ハイクの詩学は,西欧詩がロマン主義と前衛派によって詩的言語の変革を経験した際に受容した,日本の俳諧の連歌の季語観に連なっているのである。
著者
井尻 香代子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.50, pp.163-179, 2017-03

現在多様な言語で作られているハイクの普及プロセスと特色を明らかにするため,筆者はアルゼンチンのケースについて,受容プロセス,季語,韻律,価値観の変化という四つの視点から調査・分析を行った。その後,季語については現地特有の動植物や時候の変化,生活習慣や宗教的,文化的行事を表現する多くの言葉が,豊かな意味と感性を含み受け継がれていることに気づくようになった。移民国家であるアルゼンチンにおいてこうした言葉のグループはさまざまな側面を含みつつ,徐々に共有されることとなった感受性の目録と捉えることができる。本稿では,現時点で重要と思われる言葉を中心に歳時記構築への第一歩を踏み出すことを目指している。第1 章では日本の伝統詩歌において季語がどのように誕生し,変化してきたのかを概観し,現代の俳句季語をめぐる状況を考察する。第2 章では,国際ハイク研究者や実作者の近年における季語の扱いを検証する。そして第3 章では,アルゼンチンのハイク作品集から季語としてふさわしい語を抽出し,歳時記構築に向けた試みに向けていくつかの例を提示したい。この作業は,アルゼンチン・ハイクの特色を理解し,ひいては国際ハイクの現状をあぶり出す試みとなるだろう。
著者
井尻 香代子
出版者
京都産業大学
雑誌
京都産業大学論集. 人文科学系列 (ISSN:02879727)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.315-331, 2012-03

本稿では,国際ハイクにおいて日本の俳句の主要な要素の一つである季語が,どのように受 容されて来たのかを取り上げ,アルゼンチンのスペイン語ハイクの作品分類をベースに考察し た。まず,日本の俳諧の連歌において季語がどのように理解され,発句に用いられたのかにつ いて,芭蕉のことばに着目して検証した。次に,近代俳句における季語観の変化を,無季容認 派と有季定型のホトトギス派の両者について概観した。その上で,アルゼンチン・ハイクの季 語および通年の語の分類を行い,作品における機能を分析した。その結果,アルゼンチン・ハ イクにおける季語および通年のトピックの用法は,近代俳句における季語ではなく,事象の変 化に着目する俳諧の季語のそれに近いことが明らかになった。現在の国際ハイクの詩学は,西 欧詩がロマン主義と前衛派によって詩的言語の変革を経験した際に受容した,日本の俳諧の連 歌の季語観に連なっているのである。
著者
井尻 香代子 木村 榮一 吉田 夏也
出版者
京都産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

アルゼンチンにおける日本の詩歌受容の経緯とスペイン語ハイクの制作状況を調査し、日本人移民の文学・芸術活動がアルゼンチン社会に浸透し、アルゼンチン・ハイクという新しい詩的ジャンルを生み出したプロセスを確認した。また、研究期間をとおして収集した文献資料や音声データを分析し、アルゼンチン・ハイクの異文化混淆的特徴を季語、トピック、韻律の側面から明らかにした。最後に、日本の伝統詩が内包する人間と自然に関する価値観の受容をとおしてアルゼンチンにもたらされた文学観や環境思想の変化を検証することができた。